第18話 どっちから歌う?
「さて、さっきも言ったけど
「……えっと、そうですね……」
そう、あからさまに
ただ、それにしても……こういうところで何の面白みもない返答しか出来ないのが、何ともコミュ障たる僕らしいというか……きっと、彼女の友人たるあのトップカーストの方々であれば、もっと気の利いた返しが出来るんだろうなぁ。
とは言え、ないものねだりをしても仕方がないのでひとまず頭を切り替える。ちなみに、もう随分と前の
「それで、どっちから歌う? 新里が決めていいよ」
【……そうですね……でしたら、僕から歌ってもいいですか?】
「……おっと、意外だね。正直、絶対あたしからになると思ってたのに」
少し目を丸くした後、楽しそうに微笑みデンモクを手渡してくれる斎宮さん。まあ、そりゃ意外だよね。僕自身、自分で言いながら驚いてるくらいだし。
だけど、敢えてこの選択をしたのは一応僕なりの理由があって。と言うのも……声が出るかどうかという彼女の問いに対し、一応肯定的な返答はしたものの……やっぱり、いざ現場に来ると一定の不安が生じるわけで。繰り返しになるけど、今は家族だけでも一人でもない、僕としては随分と異例な状況であるからして。
まあ、そういうわけなので……先に斎宮さんに歌ってもらうとなると、僕は自分がちゃんと声が出るのかという不安で、折角の彼女の歌をきちんと聞く精神状態を保てないかもしれない。なので、最悪声がほぼ出なかったとしても、先に歌っておくことでひとまずは不安から解放された後、ゆったりと斎宮さんの歌を楽しもうという算段で……うん、自分で言ってて情けなくなるね。
「……さて、それでは……こちらで」
「へぇ、意外だね。まさか、そうくるとは」
「まだ表示されてませんけど!?」
「あははっ、良いリアクションだね
ともあれ、和やかな会話を交わしつつ曲を送信。僕がセレクトしたのは、最近ストリーミング再生一億回を突破したらしい人気歌手の新曲。一応、最近の若い人が反応に困らないような曲を選択したつもりなんだけど……そっか、意外だったか。
その後、イントロに耳を澄ましつつ軽く呼吸を整える。……うん、家族や一人の時とは違い緊張が凄まじい。鼓動のテンポが曲より速い。
……まあ、最悪ちゃんと歌えなくても問題ないよね? 笑われるかもしれないけど……それならそれで、彼女が楽しんでくれたら僕としては万々歳だし。うん、気楽にいこう、気楽に……そう自分を落ち着かせ、歌詞の始まりに合わせ第一声を――
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