第10話 本日はお休み?

「……ありません」

「ふふん、これで二勝一敗。再びあたしのリードだね」



 翌日、放課後のこと。

 前日と同じフロア隅の空き教室にて、人差し指と中指を立てつつご満悦の笑顔で告げる斎宮さいみやさん。それはVサインか、二勝を表しているのか……いずれにせよ、楽しそうで何よりです。何よりではあるのですが――


【……ところで、斎宮さいみやさん。今、僕らは何をしているのでしょう?】

「えっ、知らないの? これは、将棋といって――」

「いや存じてますけど!?」

「うおっ、びっくりしたぁ……そんなに声出るんだね、新里にいざと


 思い掛けない僕のツッコミに、目を丸くして驚愕する斎宮さん。……まあ、僕自身も相応に驚いてるけど。


 ともあれ……言わずもがな、文字通り何をしているのか分かってないわけじゃない。そもそも、何してるか分からないのに一勝してたら天才ですよ、僕。


 ――ところで、それはそれとして。


【……そうではなくてですね……郁島いくしま先輩のことで、本日はまだ一度もお話ししていないと思うのですが……】

「……あのさ、新里。そんなにしてほしいの? あたしから恋愛相談」

「……へ? いえ、僕は別に……」


 そう伝えてみると、どうしてか睨むような視線を向け尋ねる斎宮さん。……いや、僕がしてほしいというか……そもそも、そのために僕と教室ここにいるんじゃないの? ……まあ、斎宮さんがそれで良いのなら、僕に異論なんてあるはずもないけれど。


 ともあれ……先ほど斎宮さんが口にしたように、今しがた僕らが行っていたのは将棋――この教室へやに入った際、彼女がふと隅の方に埃塗れの将棋盤がひっそり置いてあるのを見つけ……それから暫しして、折角なので綺麗にして対戦しようという流れになったわけでして。


「それにしても、ここって以前は何に使われてたんだろうね? ……まあ、何にしてもあたしは好きかな。なんて言うのかな……こう、昔ながらの雰囲気が味わえるというか……」

【……そうですね。斎宮さんの仰ること、僕も分かる気がします】


 ぐるりと辺りを見渡しつつ、沁み沁みと話す斎宮さん。僕は軽く首を縦に振り、彼女の視線を追うように辺りを見渡す。


 僕らが普段使用する教室とは違い、そこかしこに物が置かれているためか、昨日は気が付かなかったけど――ここは、中々に心躍る教室ばしょだった。

 将棋盤をきっかけに、他にも何かないかなと二人ワクワクしながら探索していると、オセロやボードゲームの盤、ベーゴマやけん玉、更には折り畳みの卓球台まで見つかったり……うん、卓球台こちらに関してはなんで気付かなかったのだろうと今更ながらに思うけれども……ともかく、まるで大正や昭和へタイムスリップしたような気分に暫し浸れたわけでして。……うん、流石に言い過ぎかな?


 ともあれ、ひとまず探索を終えた後、埃を落とし綺麗に磨いた将棋盤を挟みいざ対戦。もちろん、すごく楽しい時間だったのだけれど……本来の目的であるところの、郁島先輩の件がすっかり置き去りになっていたので、三戦目が終わった後とうとう尋ねてみたところ……まあ、鋭い視線と共に先ほどの返答を頂いたわけでして。……ひょっとして、そんなに嫌だったのかな? 勝負に水を差されるのが。


「さあ、もう一戦といこっか新里!」

「……え?」

「……あ、もしかしてそろそろ将棋飽きた? それなら、別のでも――」

「……あっ、いえそうではなく……」


 そうではなく……結局、会長さんの件はどうするのだろう――そこまで思考が進み、止まる。……まあ、今日のところは休息ということなのだろう。彼女には彼女のペースがあるのだから、僕がとやかく口を出すことではない。きっと僕がすべきは、彼女が助力を求めた際に、出来る限り力を尽くすことなのだろうし。なので――


【……そうですね、飽きたわけでもないのですが……折角なので、斎宮さんと他にも色々なゲームで遊びたいです。例えば……次は、オセロとかどうでしょう?】

「……うん、もちろん!」



 ……今は、この他愛もない大切な時間ときを心ゆくまで楽しむとしようかな。







 





 


 

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