いじめられ公爵令嬢は転生たぬきハルタンの弟子になって大賢者をめざす!

霧風 マルサ

第1話 天才たぬきハルタン死す!

夕陽が染まる草原で一人の少女の声が辺りに響き渡る。


「ハルタ~ン! どこにいるの~! ハルタ~ン! 出ておいで~!」


ご主人様の可愛い声が聞こえる…… 急に居なくなった俺を探しているんだな!


『ご主人様! 俺はここだー! 今、行くから待ってくれ!』


俺は少女に近づき、両手で俺を持上げた。


「も~どこ行ってたのよ。心配したんだからね!」


そう言って、俺の胸に顔をうずめた。少女は笑いながら俺に向かって、


「じゃあ、暗くなってきたから早く帰りましょう」


と言い、俺を両腕で抱っこをして歩き始めた。横からお嬢の専属メイドのレイニーが


「まったく、どこに行ってたんですか? お嬢様は本当に心配してたんですよ!」


と言いながら指で俺の顔をツンツンと突いてきた。


「きゅーう きゅーう (ごめんよ、ご主人様)」


そうして、ご主人様と帰路についた。





俺の名前は『暖丹』と書いて『ハルタン』! モフモフでモフモフな『たぬき』だ!

日本狸三大霊場の一つ青森県の県南に位置する某市〇崎の山奥に仲間のたぬきと共に住んでいる。霊場と言うこともあり、『化け学』が盛んな土地柄だ!


『化け学』とは、自分の姿を色々な姿や物に変化へんげするなどの様々な術を使いこなす学問を『化け学』と言う。


これでも俺のばけ学は特に優秀で、『100年に一匹の天才』と呼ばれ持て囃された。 


100年に一人の美少女では無い!


なぜ! 俺がこんなところに居るのか? それは、満月の夜、酒に酔い気持ちよく巣穴に帰ろうと道路を横切ろうとした時、突如、目の前の二つの光が見えた。自分の習性なのだろうか、妙にその光が気になり、光に向かって走り出した。


光を見て走っていると目の前が白く眩い光が…… 



そして、何も見えなくなった。



気が付いた時には、白い空間が広がって、どこからもなく声が聞こえた。


「暖丹! 暖丹! 車に轢かれて死んでしまうとは、本当に情けない……」


白い服、白い髪と白い髭を生やしたじいさんが立っていた。


あの二つの光は車のライトだったのかと思うと100年に一匹のたぬきと呼ばれた、この俺がまさか交通事故で死んでしまうとは……


あれほど、たぬき交通安全教室のボランティア教官を務めていたのに! 本当に悔やまれる。


「暖丹。お主は本来なら、こんな所で死んでしまう予定じゃなかったのにのぉ~ 死んでいしまったものは仕方がないが、どうじゃ、違う世界で生き返るってみるというのは?」


「じいさん! 俺は出来れば、この世界で生き返りたい!」


「儂はじいさんではない! 天地創造の神・ネキザアニウスじゃ、もうじいさんとは呼ばんように!」


神様? 


「神様、やっぱり俺は狸の仲間がいるこの世界で生き返りたい!」


「しかしのぉ~ お主の身体は、この世界にはないのじゃ」


「どういうことだ!」


「お主の亡骸は清掃員が処分してしまってのぉ~ もう存在しておらんのじゃ」


「ぎゃぁぁぁぁぁ! な、何やってやってんの! 清掃員!」


「いや、清掃員は悪くないぞ! 自分たちの仕事をしたまでじゃ」


「そ、そうなのか……」


「どうじゃ、違う世界で生き返るってのは悪くないと思うのじゃが…… サービスで人間の言葉をわかるようにしてやるが?」


「ん~ もう一丁! 凄いヤツ! 頼むよ、神様!」 


「あぁ、わかった、わかった! んじゃ、大サービスで魔力LV900まで増大してやろう」


「神様、気前が良いじゃねぇか! よし、違う世界へ行っても良いぜ!」


「おぉ、そうか、そうか! そうして貰えれば助かるのぉ~」


「では、暖丹、目を閉じるのじゃ、今からお主を異世界転移する。覚悟は良いな」


じいさん神様の言葉を聞き、俺は目を閉じた。


「じいさん神様、覚悟は出来ている。何時でも良いぜ!」


「儂はじいさん神様ではない! 天地創造の神・ネキザアニウスじゃ!」 


じいさん神様は、その言葉を残し何も言わなくなった。


「………………………… 大分、時間が過ぎたと思うが」


俺は、独り言を呟き、目を開けてみた……



――そこには、見たことの無い大草原が広がっていた……


どうやら、俺はたぬきの姿のまま異世界転移したようだ。


「ここに居てもしょうがな、ちょっと動いてみるか」


俺は目的地もなく歩き始めた……

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