第30話 嘘つき少女の隠し事。

「少し,お話ししましょうか。未空」




未空と自室で二人きり。


体育座りで膝を抱える未空の横に腰かけて,私は声をかけた。




「何を」




チラリと未空が私を見る。


もう,大人の女性と遜色ない仕草だった。


同姓の私と2人だけで緊張も解けたのか,今は幾分落ち着いてリラックスしている。




「何でもいいの。聞きたいこと,言いたいこと。なんでも」




すると,いじけたように唇を突きだして。


未空はぱっと口を開いた。




「さっきの。ジョーカーって,あなたの婚約者なの? 女主人って言われてた」


「ん? んー。恋人,かな。そのつもりでいるけど,そこまで言葉にされた訳じゃない,もの」




あんなに苦労してようやく手に入れた立ち位置だけど。


これからもそうかなんて約束はしていない。


この先の未来なんて,神様でもない限り分からない。


それにしても,女の子って本当に恋ばなが好きよね……


いきなり蘭華との話しになるなんて思っていなくて,私は内心どきどきとする。



「寂しいって」


「え? ああ,門での話かしら? 違うのよ,あれは……帰ってきたのが,久しぶりだったから」




そうだった。


あまりにも突然で,素直に答えてしまったんだった。




「残念ね。私なんかに構うことになっちゃって。変なことしないから,キスの1つでもしてきなさいよ」




ん,と唇を閉じる。


キスの1つでもって……


正直,サムに見ていて貰えばそれでいい。


でもだからと言って




「自分からって,恥ずかしい」




今度は,未空が驚く番だった。


見開くその瞳に,だってと思う。


ねだるのも,するのも。


蘭華だってきっと驚くに決まってる。


再会したときだっていつも通りだった。


たった数日でこんなに寂しくて恋しいのは,まだまだ子供な私だけなんだ。




「凛々彩? であってる? あなた今いくつなの」


「21,よ」


「はあ? じゃあ何を恥ずかしがるの。まさか処女でもあるまいに。さっさと行ってかましてきたら良いじゃない。久々に会った恋人に求めて何が悪いのよっっ! 当たり前でしょ?!」




力強く肩を掴まれて,思わずフリーズしてしまう。




「当たり前って……未空にもそういう相手がいるの」




素朴な問いかけに,一瞬未空は動きを止めて,力を弱めた。




「っいないわよ!!!!!」




唇を噛んだ未空を不思議に思っていると,きっと睨まれる。




「人のことより自分のこと!」


「え,ええ」




ごめんな,さい?




「……ねぇ,ほんとにここで寝るの。私,いいのよ。この人もいるし,寝首なんてかかないし。待ってるんじゃないの,ジョーカーも」




この子は,もう。


そう恥ずかしくなりながらも,真剣なトーンに返す言葉を見つけられない。


アンナと未空と,川の字で寝るいつもと変わった夜。


いつまでも気を使う未空を,私はぎゅっと抱き寄せた。




「いーの。未空。慣れない場所で寝付けないかもしれないけど,疲れたでしょう? それに言ったでしょ,今日は私の妹になったと思って甘えていいの」




抱き締めた肩は,とても狭くて。


震える肩を温めるように,優しく抱き締める。


そのまま私は寝た振りを始めたけれど。


その間に,未空の震えは収まるどころか大きくなって。


しまいには,夜もすっかり更けた頃。


小さな嗚咽までが聞こえ出した。




「ごめんさい……っっっ」




思わず,ぱちりと目を開ける。


1度だけ小さく吐き出されたそれは,一体誰に向けられたものだったのか。


月夜も少ない真夜中に,未空の向こう側に寝るアンナと目を合わせると,彼女もまた,困ったように眉を垂らしていた。







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