【悲報】混沌神の使徒になりました。ギャル神官曰く、一応ギリギリ邪神じゃないそうです【朗報?】

小龍ろん

0. ギリギリ邪神じゃないんです

 夜。


 僕はこっそり宿を抜け出した。夜の街は、前世とは比べ物にならないほど真っ暗で静かだ。


 街の外に出たいけど、門の方には見張りがいるから出入りには使えない。となると、まずはスラムに向かうしかないかな。


 夜のスラムは物騒……とはいえ、さすがにこの時間ならみんな寝静まっているみたい。久しぶりに来るけど、あいかわず雑然としているね。


 暗闇の中、明かりもなしで不自由なく歩けるのは混沌神の恩寵で得た因子操作のおかげだ。”夜目”の因子を取り込んでいるおかげで、昼間と遜色なく……は言い過ぎだけど、わりとくっきり見えている。


 ついでに”闇に潜む”もつけてるから、夜の闇に紛れて、見つかりにくくなってる……はず。こればかりは自分ではわからないから、何とも言えないけど。


 よし、到着。


 因子のおかげで、誰にも気づかれずに目的地にたどり着けた。スラムの外壁は一部が崩れ落ちてしまっているんだ。ここなら、見張りの兵士たちに気づかれずに出入りできるってわけ。


 街の外は一面の草原が広がっている。ここで何をするかというと……ほんのちょっと世界に混沌をもたらそうかと思いまして。


 用意いたしますのは、木の杭と糸!

 これだけで十分です!


 木の杭の上部にはぐるっと一周溝が掘ってあって、その溝に糸を巻き付けて結んである。さて、これで何をするかというと……ミステリーサークルを作ります!


 一夜にして出現する、謎の巨大サークル! なかなか話題になるんじゃないかな?


 誰が、どうやって作ったのか。街の人達は混乱して噂するはずだ。これなら混沌神の使徒として十分な働きと言えるはず。


 いや、僕としても、世界に混乱をもたらすなんて本意ではないんだけどね。でも、恩寵を強化するためだからね。仕方ないね。


 さて、では早速作っていきましょう!


 木の杭を適当な地面に打ち込んで、っと。この状態で糸を最大限に伸ばしますよ。で、端の位置にある草を刈り込む。道具がないので風の魔法でシュバっと行きましょう。


 あとは、杭を中心に糸を動かして移動していけば……


 あら、不思議!

 巨大サークルの出来上がりです!


 まあ、言うほど簡単ではなかったけど。糸を長くしすぎたかな。でも、大きい方がインパクトも大きくなるからヨシ!


 苦労の甲斐あって、無事完成したんだけど……意外と目立たないね?


 草を刈っても根本的に同じ色だから、仕方がないと言えば仕方がない。けど、ここまで頑張ったんだから、もう少し何とかしたいかな。


 そうだ! それなら、焼き払ってしまえばいいんだ!


 草刈りした場所を、改めて火魔法で焼いていく。糸で円周の位置を測らなくていいから、さっきよりは楽だ。


「あそこだ!」

「誰かいるぞ!」


 もう少しで一周するというところで、ざわざわ騒がしくなってきた。松明の明かりが僕を取り囲んでいる……?


 気づかれた!?

 って、そうか! 夜中に火で草を焼いたら、目立つに決まってるよ! 僕の馬鹿!


「怪しいヤツめ! 大人しくしろ!」


 いやいやいや、ムリムリ!


「これはなんだ! まさか悪魔の召喚陣か!?」


 ただのミステリーサークルです!


「おのれ! 街に災いをもたらす邪教徒め!」


 違うんです! 混沌神はギリギリ邪神じゃないんです! そう聞いてます!


 誤解は解いておきたいけど、こんな状況で言い訳を聞いてもらえるとも思えない。こういうときは逃げるが勝ちだ!


 こんなこともあろうかと、取り込み中の因子は、逃げ足重視にしてある。



■取り込み中の因子■

・魔法の才能(Lv5)

・みなぎる活力

・夜目

・闇に潜む

・ちょこまか動く



 まずは光の魔法で目潰し!


「ぐわっ!?」

「目が!」


 瞬間的に強い光を発して、兵士たちの目を眩ませる。この隙に包囲網を抜け出した。ちゃんと杭も回収しておくよ。


「逃げる気か!」

「ま、待て!」


 いや、待つわけないよ!


 一応、街とは別方向に逃げて、捜査の目を欺いておく。まぁ、スラムに逃げ込めば十分に撹乱できると思うけどね。


 夜の闇、視界の悪い草むら。そんな中を明かりなしで移動する僕を捕まえるのは困難だ。うまく兵たちをまくことができたので、スラムを経由して宿に戻った。


 ふぅ、焦った。まさか、ミステリーサークルが悪魔の召喚陣と間違えられるなんて。でも、これなら混沌神からご褒美をがっぽりもらえるかも。




 いきなり使徒にされたときは、どうなることかと思ったけど、恩寵のおかげで僕の生活は大きく変わった。


 今は……まぁ感謝していると言ってもいいかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る