第四話 甘美的で、初々しい青春!!


 早朝、バスターミナル。


 ところで、一番青春できて、一番安く済む、そんなコスパの良い移動手段は何だと思うかね?

 それは、夜行バスである。

 僕は既に運転免許を取っているので、車で行ってもよいのだが、僕の車はなく、両親の車をそのまま東京へもっていくのもダメなので、この結論にたどり着いた。


「えぇ、夜行バスー?」


 彼女は最初わかっていなかったが、僕が熱弁するとすぐに賛成してくれた。


「いいかい?夜行バスに乗るときに、隣には幼馴染、深夜のSA!そこで一緒に食べるご当地SAご飯!どう考えても青春だろ!!」


「まぁ、たしかに?」


 頭を傾けながら何か疑念を浮かべていた。


「うむ。それで、本当にバスでいいですか?」


 試しに意見を仰いでみる。


「まぁ、バスでいいんじゃない?」


 少し言葉がごもった彼女に、何か文句があるのか。と少し心配になる。


「いや、嫌だったら全然いいんだよ?」


「え、全然?たださ、やっぱ、なんか下心隠さないの、潮田らしくないよねって思っちゃった。」


 下心?


「えぇ、なんか、やらしかった?」


「まぁ。なんでもないよ。よしじゃあ潮田!予定決めよっ?」


 確かに漏れていた気がする。下心に少し反省しながら、当日の予定を決めた。

 そして、今に至る。




 東京行き午後10時22分発。僕は9時前には着いていた。

 彼女も先についていたようで、両者が結局予定約90分前に来る事態となった。


「早いね。先にカフェでも入ってゆっくりするつもりだったのだけれど」


「いやぁ、だって、楽しみになったんだもん」


 照れくさそうにマフラーを彼女は巻いている。

 どうやら、相当準備してきたみたいだ。


「そうだね」


 そうして僕たちはカフェに入って、さんざんな思い出話をしながらバスを待った。






「アイスミルクティーで!」


「僕はホットココアで。」


「はい。アイスミルクティーとココアですね。ミルクはいりますか?」


「え?」


 僕と沢田の声が合わさる。

 しかし、店員はただ首をかしげている様子を見た沢田はすぐさま笑い転げた。


「あはは!アイスミルクティーなのにミルクがなかったら、ただのアイスティーじゃないですか!」


 そう相沢が指摘すると、店員は恥ずかしそうに伝票で顔を隠すそぶりを見せる。


「ごめんなさい。あはは、はずかし。私としたことが、つい」


 それにつられて僕も笑う。

 どうやら、この旅最初思い出はこれみたいだ。


「すぐもってきますね」


 店員はそう言って恥ずかしかったからか、逃げるように厨房へ駆け込んでいく。


「私もあんなことあったなぁー。中学生の頃なんだけど──」


 僕はもちろん知っているが、彼女のバイト経験は豊富なものである。

 彼女の家は、別に裕福ではなく、中学受験も彼女自身の学力で、県内の学費の安い公立を目指していた。しかし、さすがの彼女も周りの塾を使ったハイレベルな人々に勝てることができず、一つ下の私立に来ることになった。

 そのおかげで僕は彼女と同じ中学になれたのだが、彼女は学費を稼ぐためにバイトを掛け持ちしており、バイト経験は校内一であったのだ。





「でさぁ、バイト先でマジムカつく奴がいてね。もう毎日殴ってやろうかと思いながら働いててぇ……」


 彼女のことを数年回顧していて、話を全く聞けていないことを彼女は気付いているだろうか。それでも、彼女は話を続けるのだろう。

 そうして、カフェで中身のない話を永遠としていると、バスの時刻に迫った。


「ありがとうございましたー」


 カフェを出る時には、あの店員が笑顔で出迎えてくれた。






 今まで飽きるほど見てきた街中を車窓に眺め、高速道路に乗る。

 ただ、名残などは特に感じず、それよりも新しい環境へ向けた高揚感が勝ち、そのせいか彼女のせいか、バス自体の旅はそれほどであった。

 ただ、隣がもしオッサン担任なら即下車ものだが、今は狭い席で彼女と二席で隣り合っている。

 一応、彼女を窓際に置き、痴漢被害にもできるだけ気を配った。


 車窓を眺めている彼女の横顔が窓に反射していて、とても綺麗で、それを反射越しに見ていた彼女は、色っぽい笑顔で笑いかけてきた。


「ねぇ、楽しいね」


「そうだね」


 しばらく見とれてしまっていた。すると、


「SAについたら起こしてー」


 と、彼女はそう言って、瞼を閉じた。

 関係はないが、夜行バスにはトイレがあるらしい。

 とても狭くて、落ち着く場所。まるで猫のような気持であった。




 そうして、バスの運転手側の方を眺めていると、SA休憩の知らせが出た。僕は彼女を起こし、二十四時間営業のコンビニに行く。

 彼女はまだ眠たいようで、コンビニの缶コーヒーを頬に当てて温まっていた。


「何か食べる?」


 僕がそう聞くと彼女は小さく、寝ぼけた声で言う。


「ジェラート」


「え?」


「ジェラートが食べたい。」


 ジェラートはもうない。しかし、ソフトクリームなら売っていた。


「ソフトクリームならあるよ。」


「じゃあそれぇ~」


 僕はもう一度コンビニに入り、スジャータのアイスクリームを注文する。

 この店舗は珍しく、まだ春先であるにも関わらずアイスクリームを売っているらしい。

 僕も食べたくなったので、チョコ味とバニラ味の二つを買った。


「どっちがいい?」


「バニラぁ」


 バニラアイスを手渡して、バスの方へ歩いていく。彼女がアイスを舐めると、急に眠気が吹っ飛んだようで、彼女はコーヒーとアイスを回し食べていた。

 バスに帰ると、彼女は僕のチョコアイスを見ている。


「一口食べる?」


「いいのぉ?!」


 そういって彼女はチョコアイスをスプーンですくう。


「うーん。ちょっと苦いよぉー」


「え? そうかな…」


 後で知ったのだが、コンビニのスジャータアイスはちょっといいチョコレートを使ってるらしい。


「はい!」


 彼女がバニラアイスを差し出す。


「え、でも、間接キスじゃ…」


 彼女はしばらく考えた後、そのアイスを自分の口の中に放り込んでしまった。

 バスに戻ると、

 もし、食べてたらどうなっていたのだろう。

 と、もう一つの選択肢を考える。

 様々なことを想像していると、僕が暖かくなる。

 青春不全の弊害だろうか。


 しかしながら、これほど脈ありの状況で、僕はなぜ彼女に好きだと言えないのだろう。

 いっそ、僕のこと好きなのでは?

 もう告ってよくね?

 そう思った。


「ねえ、沢田…さん」


 重々しく、ほほを赤らめて言う。


「...」


 寝ていた。

 まあ、しょうがないよね。




 しかし、そう道を踏み外しそうになったことを、後に寝付けないほどには痛々しく思った。


「お酒は飲んでいないはずなんだけどなぁ」


 少し青春に酔いやすいことを、彼女の寝息を吸いながら、自分の口内が湿っていって、ドロドロとした唾液がのどに流れ込むのを改めて体感した。

 そうして、僕だけ眠れないまま、東京についた。



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