第29話 合宿 10:夜
「お待たせ~」
俺たちが風呂から上がって五分くらいしてから琴音と小鳥遊さんも上がってきた。
「じゃあ、帰ろっか~」
そうして、俺たちは家に戻った。
「あら、おかえり~。お風呂はどうだった?」
「よかったよ~、久しぶりに入ったけど気持ちよかった~」
家に戻りリビングに入ると、池沢先生のお母さんが出迎えてくれた。
「そうなの、よかったわね~。あっ、そういえば、今から何しようかしら?私はもう寝てもいいんだけど......」
片頬に片手を当て考える池沢先生のお母さん、いや、まだ七時ちょっと過ぎくらいなんだから寝るには早すぎるだろ。
「いや、さすがにまだ寝るには早すぎるよ~」
俺が思っていたことを池沢先生が言ってくれた。
「そうよね~」
「じゃあ、何かアニメでも見るか?」
ソファでくつろいでいた池沢先生のお父さんがそう提案する。
「あっ、それいいね~。アニメ映画だったら時間的にもちょうどいいんじゃない?」
映画か......良いかも。
「よしっ、じゃあ探すか。みんなも気になるものがあったら遠慮なく言ってくれ」
「はい!」
池沢先生のお父さんの言葉に元気良く頷く琴音。多分、さっきの言葉がなくても気になるものがあったら琴音は遠慮なく発言するだろうけど。
池沢先生のお父さんはテーブルの上に置いてあったリモコンを手に取りテレビの電源を入れる。
そうして、とあるサブスク(動画配信サービス系)を開いて映画欄をタップする。というかこの家、サブスク入れてたんだ。
「あっ、ストップ!」
少し画面を見ていると、琴音がいきなりそう言った。
「これなんていいんじゃないですか?」
そうやって琴音はテレビ画面の右の方を指差す。それを聞き、池沢先生のお父さんがそこを開いた。
「あっ、これって半年前に上映されてたやつだよな?もう見れるようになってたんだ」
俺は開かれたアニメ映画を見て言った。
その映画のタイトルは、『君の声は、僕の声よりワンオクターブ高い』。タイトルから察するにジャンルはラブコメか恋愛、そして、おそらく主人公かヒロインが音楽関係の人なんだろう。オクターブって単語音楽の時間で習った気がするから。
「あっ、これ小説の方で読んだことあるけど、面白かったよ~」
「池沢先生、見たことあったんですね」
このアニメ、小説が原作だったんだ。
「ぼ、僕も読んだことあります、面白かったですよね」
青木部長も読んだことがあったようだ、二人とも面白いって言うんなら、こっちの映画の方も期待できるな。
「じゃあ、これ見るか」
池沢先生のお父さんは早速再生ボタンを押した。
さて、見るか。
◇◇◇◇◇◇
~エンドロール~
「......はーっ、面白かった~」
「琴音、ちょっと黙ってろ、エンドロールが終わった後には大体おまけシーンが出てくるから」
「えっ、そうなの?わかった」
俺はテレビ画面の方を見ながら小さい声で琴音に注意する。琴音は俺の言葉を聞いてまたテレビ画面へと目をやる。
この会話を聞いてわかったと思うが、俺は映画はエンドロールまで見る派だ、その後のおまけシーンみたいなのが気になるから。
それに、エンドロールを見てその映画の余韻にも浸りたいからな。
そして、エンドロールとおまけシーンも見終わり、テレビの電源を消す。
「面白かったな~」
「うん!原作の良さを上手く出せてたね~」
「げ、原作に忠実なのも良かったですね」
池沢先生と青木部長の原作ファン勢もご満悦のようだ。
「ってもう十時過ぎじゃん!」
「えっ、マジで?」
琴音の驚いたような声を聞いて慌てて時計を見ると、確かに針は十時を過ぎていた。
「あらあら、そろそろ寝なきゃね。みんなももう寝る?」
「そうですね」
優希がそう言って、みんなも頷く。え、俺まだ全然眠くないんだが?
「じゃあ、みんなが寝る場所まで案内するわね~」
まだ起きていたかった俺には気付かず池沢先生のお母さんは歩き出したので、俺は仕方なくついていく。
「ここよ~」
一つの部屋の前で立ち止まる。
「あっ、女の子たちはこっちの部屋ね~」
ちゃんと男女で寝る部屋を分けてくれていたようだ。
男子が寝る部屋のドアを開けると、そこにはベッドが一つ、布団が二つ敷かれていた。
「そこはどっちも元々うちの子供たちの部屋でね、今はもう空き部屋になってるの。あっ、ちゃんと掃除はしたから大丈夫よ~」
そうして、池沢先生のお母さんはその場を後にした。
「じゃあ、寝ようか」
「そうだね~、おやすみ~」
優希の言葉に琴音が答えて、それぞれ部屋へと入る。
さて、眠くはないけど俺も寝ようかな。
◇◇◇◇◇◇
(......全然眠れね~!)
もう布団に入ってかれこれ一時間くらい経ったが、一向に眠気が来る気配はなかった。
なんでだ?あっ、移動中車の中でずっと寝てたせいか!くそっ、暇だからってあんなに寝るんじゃなかった。
布団の中に潜って少し後悔する。
このままだと眠れそうにないので、俺はいったん外に出てみることにした。何故だかは知らないけど、外に出るとそのあと眠りやすくなるんだよな~。
みんなを起こさないようにそっと立ち上がって、静かにドアを開けて、ゆっくりと廊下を歩いて、と。
そうやって、やっと玄関までやってきた。俺は静かに玄関扉を開ける。
(おー、星がきれいに見えるな~)
うちの近くと比べて周りが暗いお陰か、満天の星空を拝むことができた。あれって天の川かな?すげー、きれいだな~。
「ーーーー!」
(ん?なんだ?)
俺が上を見上げて感動していると、どこからか人の声が聞こえてくる。
俺は不思議に思って声のした方へと向かう。多分こっちだよな......
俺は少し歩いて、木々の中にぽっかりと空いたちょっとした広場のような場所を見つける。
「前から好きでした、付き合ってください!」
そこには、小鳥遊さんがいた。
おそらくだが、優希にする告白の練習をしているのだろう。
「こんなんで、本当に大丈夫なのかな......」
小鳥遊さんはそんな弱気なことを言って俯いたが、それを振り払うように頭を振る。
そうして、また告白の練習を再開した。
「あ、」
(いや、さすがに声かけるのはだめか)
俺は一瞬声を掛けようとしたが、踏みとどまる。
(頑張って)
俺はぐっとこぶしを握って心の中で一言応援の言葉を言った。
その後部屋に戻り布団に潜ったが、何故だかいつもよりもすぐ眠れた。
◇◇◇◇◇◇
「......ろ、おーい、樹?」
「......ん、んんー?」
優希に体を揺さぶられて俺は目を覚ました。なんだ、もう朝か。
「あっ、起きた。もう朝食の用意できてるぞ、早く着替えろよ」
「んん、わかったわかった」
俺は布団からもぞもぞと出て、近くにあるリュックを......って、そうか、リビングに置いてるんだったっけ。
俺は仕方なくゆっくりと立ち上がって部屋の外に出ようとする。
「ちょっと、どこ行くんだ?着替えるんだろ?」
「ん?ああ、リュック取りにリビングに」
「お前のリュックならそこにあるぞ、俺がさっき持ってきたから」
優希の指差した方を向くと、確かに俺のリュックが置かれていた。
「あ、ああ、ありがとな」
「先行ってるから、早く着替えてろよ~」
そうして、優希は部屋を出ていった。俺はリュックから持ってきた服を取り出して着替える。
着替え終わると、俺は部屋を出てリビングへと向かった。
「あっ、樹!はむっ、おほ(遅)かったね~」
「食いながら話すなよ」
リビングに入るともうすでにみんな起きていて朝食を食べ始めていた。琴音が俺に気が付いて頬張りながら話しかけてきた。
「あら、やっと起きたのね~、ほら、どんどん食べなさい」
「はい!」
池沢先生のお母さんの言葉に俺は元気よく答えて、朝食を食べ始めた。
「じゃあ、そろそろ行くね」
朝食を食べ終わってから少しして、俺たちは持ってきた荷物を整理して出発しようとしていた。
「次はお盆の日にくるんでしょ?」
「そうだね~、家族で帰省するよ」
「そう、じゃあ、またね~」
「気を付けてな」
池沢家のお別れの言葉は案外淡泊だった。
「今日は泊めていただきありがとうございました!」
「「「「ありがとうございました!」」」」
優希の言葉の後に俺たち四人の言葉がハモってしまった。小学生のなんかみたいだな。
「はい、どういたしまして。また機会があれば会いましょうね」
「じゃあ、またね~!」
池沢先生が大きく手を振って、俺たちもそれぞれ手を振ったりしてお別れをする。
「さて、じゃあ行こうか!」
「はい!」
そうして、また俺たちの聖地巡りが再開した。
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