哲学格闘伝説─転生じゃないけど時空を超えて古今東西の賢者と戦います─

財前創平

序章

薄明の中、巨大なガラスの摩天楼が立ち並ぶ。人工知能が管理する完璧な交通システム、宇宙に伸びる軌道エレベーター、仮想現実に没入する人々...。


「人類は賢くなりすぎた」


虚空に響く声。それは深い悲しみを含んでいた。


「だが、本当の意味では愚かになってしまった」


映し出される光景。環境破壊、際限のない消費、デジタルの檻に囚われた魂、そして何より...誰もが「正しい」と主張しながら、誰も相手の声を聞こうとしない世界。


「技術は進歩した。でも知恵は...」


都市の喧騒が急に遠ざかる。まるで宇宙から地球を見下ろすような視点。青く輝く惑星に、無数の光が瞬いている。


「人類には新しい知恵が必要だ。いや、正確には...」


古代ギリシャの円形劇場が、現代の闘技場へとゆっくりと変容していく。


「古くて新しい知恵が必要なのかもしれない」


巨大な闘技場「AGORA」が姿を現す。その名は、古代ギリシャの公共広場から取られていた。


「私は呼ぶ。時空を超えて」


世界各地から光が集まり始める。


「洞窟の比喩を説いた者、実存を追究した者、言葉の限界に挑んだ者、革命を夢見た者」


光は次第に人の形となっていく。


「理性の探究者、経験の擁護者、懐疑の体現者、そして信仰の証言者」


闘技場に集う影たち。古代ギリシャの哲人、東洋の賢者、啓蒙思想家、現代の理論家...。


「真理を巡る戦いの中で」


観客席には、現代の人々の姿。知識人、労働者、学生、主婦...あらゆる人々が集まっている。


「新たな叡智が生まれるだろう」


闘技場に降り注ぐ光。


「人類よ、目覚めよ。『哲学者バトル』の幕が、今上がる」


モニターには、最初の対戦カードが映し出される。


「神は死んだと宣言した、ニヒリズムの克服者!」「超人への道を説く、稲妻の哲学者!」「フリードリヒ・ニーーーチェ!」VS「実存の跳躍を説く、不安の探究者!」「信仰の騎士にして、主体性の体現者!」「セーレン・キルケゴーーール!」


瞬間、闘技場に稲妻が走る。片や神の死を宣言し超人を説く者、片や信仰の跳躍を説く者。人類の新たな叡智を求める戦いは、実存と超越を巡る激突から幕を開けようとしていた。


主催:GODS Philosophy Foundation (GPF)協力:時空管理局/人類叡智記録保管所スポンサー:Ancient Wisdom Energy Drink™ 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る