安心感

39

 翌日、部室に入るとアイとカイトがすでに来ていた。


「レン」


 カイトが俺の名前を呼ぶと、アイの動きがピクリと止まった。

 俺はごくりと息を飲み、アイを見つめる。

 彼女はゆっくりとこちらを向くと、一度深呼吸をして


「おはよ!」


 と笑顔で手をあげた。まだ少しだけぎこちない気もするが、彼女なりに普段通り接してくれようとしているのが分かる。


「………おはようの時間じゃないけどな…」


 俺が少しだけ遅れてそうツッコむと、


「いやぁお昼に会った時ってなんて言えばいいんだろうね! こんにちは?だと固い気がするし…… やっほー!とか?」


 そう返されて思わず吹き出した。


 いつものアイだ。

 話している内容はくだらないのに、少し泣きそうになった。普通に会話できることがこんなに嬉しいことなのか。


「ちょっとー! こっちは真剣なんですけどぉ!」


 アイが頬を膨らませる。

 それを見て可愛いなと微笑むと、アイが顔を真っ赤にした。


 俺は自分の頬を掴んで、カイトの方を見た。彼はやれやれと肩をすくめていた。

 どうやら俺は表情に出すぎていたみたいだ。気を付けなければ。


「ううう、おはようございます~」


 そこに、リンが涙目で部室へと入ってくる。隣にいるカノンも嬉しそうだ。


「リン!? どうした」


 俺が泣いているリンに焦ってそう問うと、


「だっでぇ…うれじぐで……」


 鼻水をすすりながらそんなことを言う。

 こんなに我慢させてしまっていたのか。先輩なのに、後輩に気を遣わせて情けなく思った。


 俺がリンを抱きしめると、その上からカイトも抱きしめてきた。

 アイはカノンを抱きしめている。

 多分、カイトもアイも同じように感じているのだ。


「よし、練習するか!」


 カイトの声掛けに、みんなは準備を始めた。リンも涙を拭って、気合を入れている。


 俺はその光景を何となく眺めた。


 カイト、アイ、リン、カノン、優しくて気遣いで、俺を心配してくれるような人達。俺は恵まれているなと思った。


 まだ問題の解決を先延ばしにしたに過ぎないけれど、それはきっと悪いことじゃない。

 とにかく今は、目の前の目標に向けて練習するだけだ。

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