海月のような声で俺を呼んで

こむぎ

𝐒𝐭𝐨𝐫𝐲1

俺は今日、女友達の水葵と水族館に来ている。


「ねぇ、俺必要?」


「当たり前でしょ!!私のデート練習に付き合ってよ!」


「いやお前、今彼氏居ないだろ」


「いや居るから!?」


「え、居んの?」


「うん、昨日できた」


そう言いながら水葵は俺にピースサインを見せた。


「女友達と行けばよくね?」


「それだったら意味ないじゃん」


「まぁ、そうか...」


「あ、もしかして私のこと好きだったとか?」


ニヤつきながら言う水葵。


「無い。断じて無い」


「え~酷....」


「好きな人は居るの?」


そんな話をしながら俺達は水族館の大水槽に来た。


「これからつくる」


「詰んだね。それ。」


「何だよ」


「居ないってことは一生出来ないじゃん!はい乙~」


俺の事をバカにする水葵。


どうも腹が立つ。


その時、


俺は大水槽の小魚の群れの奥に 何か見えた気がした。


目を擦って何度も見返すと、


そこには目を瞑っている人間が居た。


まるで水の中で丸まって寝ているように。


髪は水色で毛先は白だった。


その子は徐々に沈んで行っていた。


「なぁ、あれ...」


そう言って俺はその子を指差した。


だが、


「ん?何?小魚の群れのこと?」


「いや、それより奥側のあの子...」


「何言ってんの?何も居ないけど?」


「もしかして、とうとう幻覚が見え始めたとか?」


「休みなよ?」


「いや、全然疲れてもないし...」


「あ、てかトイレ行ってきていい?」


「急だな」


「ごめんごめん~!すぐ帰ってくるから!!」


「りょ~」


そう言い終える前に水葵はトイレに向かった。


とりあえず、近くで見てみるか。


そんなことを思いながら、


俺は大水槽に近づいて手を壁につけた。


瞬間、辺りが白い光に包まれた。


恐る恐る瞑っていた目を開けると、


目の前には先程のあの子が居た。


「え...」


俺が呆然としているのにも関わらず、


周りは平然としていた。


まるでさっきの出来事が無かったかのように。


その時、遠くから


「ごめん!おまたせ~!」


と言いながら水葵が帰ってきたのだ。


「なんかここら辺濡れてない?」


「もしかして漏らした?」


「いや....こいつ見えてねぇの?」


「何が?」


どうやらこの子は、 俺にしか見えないらしい。

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