第3話 意外な罠!
「20歳までに、結婚? 俺たちが・・・?」
俺は呻いていた。
「ぶうー、私まだ中学生なのに、結婚できないモン! ズルイ、お姉ちゃんたち!」
幻の桜金時が拗ねている。
「まぼきん、お待ちなさい。とにかく結婚さえしていれば改名できるんです。例えばアメリカでは親の許可があれば女子は16歳で結婚できるという州もあります」
すると、キミと二人のキセキ姉さんは、
「けどさ、それってグリーンカードとかそういうのが必要なんじゃないの?」
「大丈夫。父さんの父に当たる、つまり私たちの祖父の”ヘルオア・ヘイブン?・時岡タイマーさんは、アメリカを中心にバイオリンなどの弦楽器の貿易をしていて、かなりの財産を築いたのです」
ヘルオア・ヘイブン?爺さんの話はしばしば聞く。
戦後の時代に、単身で海を渡り、日本ではまだ馴染みの無いヴァイオリンやビオラなどの貿易を始めたのだ。
「なので、私たちは申請すればすぐにグリーンカードが貰えるのです」
ダイヤモンド姉さんはそう言う。
「わしの父、ヘルオア・ヘイブン?の力に恐れ入ったか、この馬鹿者オ!」
エンジョイライフはゴキゲンである。
くっ、ヘルオア・ヘイブン?爺さんの話はよく聞く。
名前も酷すぎるが、そもそも人名に「?」をつけて大丈夫なのか・・・?
いや、この時岡タイマー家に生まれた以上、そんなことは些末な事だ……
「まぼきんちゃんと宇宙彗星なんか、後一年も経てば16歳と18歳で丁度いいんですよ」
姉さんがそう言うと、
幻の金時桜は
「ええー、そんなあ。テヘっ、そんなの別に嬉しくないんだからだモン! お兄ちゃんと私がお似合いでお揃いだなんて、嬉しくないモン!」
と、嬉し気に両手をほっぺたに添えている。
「なあーに言ってるんだよ、まぼきん。兄ちゃんが妹のお前と結婚なんかできるはずないだろ」
俺は嘆息した。
幻の金時桜は、ムスっとして、
「わ、私も宇宙彗星なんてヘンテコな名前の兄ちゃん、どうとも思ってないモン!」
「まあまあ、兄妹喧嘩はおやめなさい。さあ、みんなで20歳までに恋に結婚に励みなさいな」
明け方のダイヤモンド姉さんはにこやかに言った。
「ぐわっはは。まあ、お前らのヘンテコ名前で20歳までに結婚など、無理! 不可能! わしのように実力、財産、金、貯金と四拍子揃ってなければな! この馬鹿者オオオオ!」
俺は、
「四拍子の内、三つは金だろうが! 見てろよ! 俺だって彼女くらいいた頃はあるんだぞ!」
そう言い、二階へ続く階段を駆け上がっていった。
俺はスマホを取り出し、今井美幸に電話をかける。
見てろよ、俺だって今まで彼女の2人くらい・・・
「あ、宇宙彗星くん? うん、美咲。久しぶりだね? ええ? 明日、遊園地へ・・・? その・・・気持ちは嬉しいんだけど。宇宙彗星くんは優しいし、バイオリンも上手いしさ。けど、もし将来子供とかが生まれたとして、『パパの名前は宇宙彗星なのよ、で私たちの苗字は『時岡タイマーなのよ』なんて,
やっぱり無理よ・・・ゴメンね・・・!」
「あ、宇宙彗星さん……? はい、今は恋人はおりませんが……え? また、私と・・・? ええ、宇宙彗星先輩のことは三か月でしたが、よく覚えています。とても素敵な時間でした・・・しかし、宇宙彗星さんの名前は別に気にならないのですが、やはり私の苗字が『時岡タイマー』になるというのは・・・そして、赤ちゃんができた時にも、世間の荒波がどう襲い掛かってくるのか・・・育児の話で、意気地なしの私を許してください・・・」
通話を切り、スマホを床に叩きつけた。
「こんなもん、名前っていうより『時岡タイマー』って苗字でどうにもならないじゃんか・・・」
俺は今更ながらにそう思い、ベッドに突っ伏した。
というか、女子にとっては結婚≒育児ってことなのかね?
結局、今の社会じゃそうかもしれない。俺だってちゃんと育児するつもりだ、エンジョイライフにはならないぞ!
けど、自分の苗字が「時岡タイマー」に変えられるとなると、そりゃイヤだよなあ。
「クスクス、宇宙彗星。そんな無駄なことやってるの?」
キミと二人のキセキと、幻の金時桜がそこにはいた。
「姉ちゃん・・・」
「私たちの名前や苗字だと、他の子と付き合うのは無理よ。父さんの事だから『苗字』の方は意地でも変えないでしょうから」
とキミと二人のキセキは言う。
確かに、苗字が『時岡タイマー』じゃ、名前をどう変えても一緒だ。
「それでさ、お兄ちゃん。モノは相談だけど・・・」
幻の金時桜は、少し照れたようにキョロキョロと周りを見ている。
「私とさ・・・一度付き合ってみるのはどうかな? か、勘違いしないでよ、お兄ちゃんくらいしか、私のヘンテコ名前だと付き合えないんだからサ」
「お前……俺らは兄妹なんだぞ?」
キミと二人のキセキ、
「そう、でも血の繋がりはないよね? 宇宙彗星は、親戚の『白ブラッカイマー家』から来た養子なんだから」
「……」
俺は沈黙している。
その通りで、俺にはあまり記憶は無いけど、実は五歳の時に『白ブラッカイマー家』から、この家に来た養子ということらしい。
「宇宙彗星はさ、優しいし割とイケメンだし……」
とキミと二人のキセキ、
「そーそー、お兄ちゃんがいきなり私より年上で「お兄ちゃんの、宇宙彗星だぞ」と、父さんから言われた時はびっくりしたけど……けど、今じゃ私のお兄ちゃんだモンねー」
幻の金時桜はその当時から変わっていない。
いつも動物の着ぐるみを着て、不思議な言動だけどすぐに俺に懐いてくれたいい子だ。
「宇宙彗星だって、気づいてるでしょ? 『時岡タイマー』って苗字じゃ、そもそも名前を変えても、恋人作りは無理よ! けど、私やまぼきんだったらさ……ね?」
キミと二人のキセキ姉さんは笑顔だ。
そう、俺は養子としてこの家に来たけれど、本当はヘンテコ名前になった事以外は、何もイヤなことなんて無かったんだ。
「……そうだね、姉さん」
俺は声が震えるのをなんとか隠していた。
「ね? お兄ちゃんは、いつも優しいし、付き合ってくれたら、この犬の着ぐるみをプレゼントするから……」
幻の金時桜はにこやかに、着ぐるみの入った箱を差し出してくる。
「二人とも……いい加減にしてくれ!」
俺は叫んでいた。
「お、お兄ちゃん?」
こんな事言うべきじゃない。
俺は本当はそう考えてないし、二人ともそんなつもりじゃない。
分かっていたけど……
「俺はやっぱり家族じゃなかったのか? 兄妹じゃなかったのかよ、俺はやっぱり……! ふざけるなよ!」
右眼から、雫がこぼれた。
キミと二人のキセキは、
「そうじゃないわよ! 何を言ってるの!? 私たちはただ……」
「違うモン! お兄ちゃんは兄妹で家族だモン! 絶対にそうだモン!」
「今更なんだよ! ずっと……何年も兄妹だったんだぞ? 変な名前でみんな苦労しながら……それで、名前を変えれるからって、結婚するのか!? じゃあ、兄妹じゃないだろうがっ。もういいよっ」
俺は階段の下へと駆け出していった。
違うんだ。
俺の台詞も本気じゃないし、姉さんも妹もそんなつもりじゃない。
けれど、悔しかった。
自分のあまりの情けなさが悔しかった。
「あーあ、私のミスね……あの子はデリケートだから、ごめんね。まぼきん」
キミと二人のキセキは、幻の金時桜の頭を撫でた。
「ううっ、どうしてこうなるのオ? お兄ちゃん……私のこと嫌いになっちゃった?
”飛鳥ラングレー&茶髪”の『何度も言え、確かに俺を愛してると言え!』みたいに、強引に迫り過ぎた?」
”飛鳥ラングレー&茶髪”は代表曲『何度も言え、確かに俺を愛してると言え!』という傲慢すぎるタイトルでメジャーデビューした歌手で、チャゲ&飛鳥とはまるで無関係である。
「違う、違うよ。まぼきん。あの子といつも一緒だったのはまぼきんでしょ?」
「うん……そうかなあ?」
「それに……」
キミと二人のキセキは嘆息し、
「宇宙彗星の恋愛対象は、どう考えてもあの人だからね……」
諦めたようにそう言った。
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