第3話 目覚め(3)
結果、見つからなかった。半透明の塊は、だが。
見つかったのは制服である。上から下まで、靴下、パンツを含めて、だ。
え、全裸?
それは屋上へ出られる扉の前に、丁寧に畳んで置かれていた。飛び降りる時に靴を揃えて、は聞いたことがあるけど、全部を脱いで置いているのは見たことがない。斬新だな。
もしかして――全裸で飛び降りるつもりで?
だけど屋上への扉は鍵がかかっている。
服だけ置いて屋上のひとつ下の階から飛び降りたとか?
校舎裏を探せば全裸の死体があるとか言わないでくれよ?
「天也のだな」
「うん……上履きにしっかりと『天也』って書かれてる……姉さんの字だ」
おれと達海の上履きにもしっかりと書かれているものだ。上履きに限らず、道具のひとつひとつにしっかりと。几帳面な姉さんの性格であり、生徒会長だからこそのルール厳守の一面が出たのだろう。
おれたちだけだったら誰も書かなかったことだ。
「天也のだけど、あいつが飛び降りるとは思えないから……え、じゃあなんで全裸なんだ?」
「さあな。事情があったんだろ。その事情を言い当てるのは不可能に近いだろうが……だが、あいつだし、と言えば納得できるな。変態だからな」
変態プレイの真っ最中、と言われたら納得できてしまう。
天也ならしていてもおかしくない、とおれたちに思わせてくれる……それだけあいつは変なのだ。
しかし、モテたいと口にするくせに真逆の道をいっている気がするぞ。あ、でも、先を見据えて仕込んでいる最中だとすれば、この行為が後々に繋がっていくのかもしれない……と思ったが、だとしたらバタフライエフェクトにしたって遠過ぎる距離だろう。
奇跡に期待している、と言わんばかりの行動だ。
全裸がいずれ女の子にモテることに繋がるのだろうか……いやあ、おれには分からんね。
「達海、どうする? 天也のこと探しにいくか? ………………達海?」
返事がなく、気づけば気配もなかったので慌てて振り向けば、達海がいなくなっていた。
焦って階段下を見れば、達海の背中が見え、慌てて追いかける。
一応、天也の制服を回収して、だ。
「達海っ、ちょっと待てって!」
「デジャヴだ……、ああ、そうだ、こっちの気がする……」
「なにが!?」
「制服、持ってるよな? 天也のところへいくぞ」
「あ、じゃあ探しにいくのか?」
「ああ。探すというか、迎えにいく」
「? 場所、分かってるのか? ああそっか……スマホで連絡を取れば……」
「お前が抱えてるその中にスマホもあるぞ」
言われて気づく。
制服の中にはスマホもきちんと収まっており……これでは連絡も取れないはずだ。
じゃあ、天也をどうやって見つけるんだ? 連絡が取れなければ天也がいった場所に心当たりでもある、ってことだよな。迷いのない達海の足は、天也の行先を知っているようだった。
「知ってるわけじゃねえよ。言ったろ、デジャヴなんだ。俺はあいつの居場所を、知ってる気がする……」
「本当か?」
「疑うなら黙ってついてこい。ちなみに陸、お前は天也の居場所が分かるか?」
「トイレとか?」
「どこの」
「どこの……ひとけの少ないところにいきそうだから、ああ、達海が今向かってるところだ」
「自覚はないがお前もデジャヴで導き出した答えかもな――着いたぞ」
職員すら利用していなさそうな、周りには空き教室ばかりがあるトイレだった。掃除もされていないんじゃないか、と思ったが、やはり清掃員さんはここも含めきちんと掃除している。もしかして清掃員さんがよく使うトイレなのかもしれなかった。
サボっている生徒がいそうな気もしたが……というかおれたちがまさにそうだ。
トイレに入ると、ひとつの個室が閉まっていた。達海がノックをすると、中から「ヤバイくらい入ってるんで!!」という知った声が聞こえてきた。……天也だ。本当にいた。
「天也か? 俺だ。陸もいるぞ」
「達海!? 陸もか――助かったぜ! 頼み事があるんだが、オレの制服を、」
「制服、持ってるけど」
ガチャン、と鍵が開き、個室から飛び出してきた全裸の天也が飛びついてくる。
「愛してるぜお前ら!!」
「気持ち悪い!!」
突っ込んでくる闘牛をいなすように、制服を赤い布代わりにして、天也を避ける。
裸足でブレーキをかけた天也が、振り向き、血走った目で腰を落とし、再度、突っ込んでくる構えを取った。
言っていないが、白い息を吐いて、がるるる、とでも唸り声を上げそうな雰囲気がある。
ちょっと待て……狙いはなんだ!? あっ、制服か!
この執着、このまま窓の外へ制服を投げれば、天也も全裸で窓の外へ飛び出していきそうだ。
ちょっと見たかったが、さすがにそこまで鬼畜ではないので、素直に渡すことにする。
「天也、はいこれ」
「サンキュ、ってバカ投げるな便器に落ちたらどうすんだ!」
幸い、ひとつの塊となった制服は空中でばらけることなく天也の胸に収まった。
震えるほど寒いわけではないが、それでも十月であり、全裸でいれば寒いだろう。暖を取りたい天也は片足立ちで、制服を抱えながら器用に着替えている。
最後に上履きを履いて、隠すべきところがきちんと隠れた天也の完成だった。
「あー、酷い目に遭ったぜ。まったく……、いやほんと助かったぜお前ら」
「なんで全裸だったんだ? てっきり、屋上に制服があったから、飛び降りでもするのかと思ったよ」
「全裸でするかよ。死んで笑いものじゃねえか。こっちは笑えねえ死に方だ」
天也からすればそうかもな。
こっちはやっぱり笑っちゃいそうだけど。
「で、なにがあった? 身ぐるみ剝がされて閉じ込められたわけじゃあねえよな。制服は綺麗に畳まれていた、パクられたものもなかった。閉じ込められた、ってわけじゃねえだろ。内鍵だしな」
……そうなのだ。今の天也の状況に加害者がいるとしたならば、辻褄が合わない。天也が自分でやった、としか考えられない状況ではあるけど、間に自演が仕込まれていたとすれば加害者がいても辻褄が合う。
だが、天也が屈するとは思えないし、どんな条件を付けられても従うようには思えない。……女の子を紹介する、と言われたらどうだ? こいつ、たぶんするな……。
喜んで全裸になりそうだ。
「自業自得じゃん」
「まだなんも説明してねえよ! 確かに自業自得だけどさ!!」
ほらやっぱり。おれが頷くと、天也はオーバーアクションで頭を抱える。
「お前が思ってるようなことじゃねえ!! こっちは自業自得だが、あの状況だったら全裸になるしかなかったんだ――分かるだろ!?」
『分からねえよ!!』
「だから――――」
その時、見間違いかと思うほど、おれと達海は自分の目を疑った。手の甲で目を擦り、達海とふたりで見合ってから、もう一度確認する。徐々に、だが、やっぱり――――天也が、薄くなっている。
色を失い、存在感が消えていき、やがて…………いなくなる。
そう、制服だけが、その場に浮いていた。
――透明に、なった……?
「制服を着てたらバレるんだよ! バレたらまずい状況になってんのっ! 説明しても信じないと思うけどさッ。……いいか、頭を空っぽにして受け入れろ、お前らを納得させる理由はねえからな!?」
「透明に」
「なってる、だよな」
「ああそうだ、オレはついさっき透明人間に――――あれ?」
声だけ聞こえてくる天也が、きっと、トイレ内の鏡を見たのだろう……。おれたちの反応から察したようで――鏡に映らない自分……つまり透明になっている自分を見て、飛び上がった。
制服があるからこそ分かる、透明になった天也の行動だった。
「またなってる……っっ! 透明人間にッッ!!」
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