第3話「直球少女」(猪突猛進百合)約1,600字

 「好きだ!」


 教室のど真ん中で、陽菜(ひな)は迷いなく叫んだ。その声は廊下にも響き渡り、騒がしかったクラスが一瞬で静まり返る。


 「……えっ?」


 目の前で驚きに目を見開いているのは、学級委員長の奈央(なお)。クラスでも一目置かれる真面目で知的な優等生だ。その隙のない黒髪ストレートに、眼鏡の奥の鋭い瞳、冷静で落ち着いた物腰――誰もが彼女を敬遠しつつも憧れていた。


 「好きだって言ったんだよ、奈央!」

 陽菜は一歩踏み出し、机を挟んで奈央をじっと見つめた。


 「え、ちょ、待って。いきなり何の話?」

 奈央の耳まで赤くなっているのを見て、陽菜は満足げに笑った。


 「何の話って、言葉通りの話! 私、お前のことが好きなんだ!」


---


 陽菜は昔から、物事を真っ直ぐ言葉にする性格だった。思ったことを考えるより先に口に出してしまう。友達には「考えてから言え」と言われるが、それで問題になったことはほとんどない。むしろ、その直球すぎる言動が陽菜の魅力でもあった。


 だが、恋愛に関しては別だった。


 陽菜は奈央のことがずっと気になっていた。真面目で、冷静で、誰に対しても距離を保つ奈央が、陽菜にとっては手の届かない存在のように思えていた。


 でも、「手が届かない」と思った瞬間、陽菜の中で決意が固まった。


 ――だったら言ってみればいい。


---


 「陽菜、本気で言ってるの?」

 放課後の図書室で、奈央が真剣な表情で尋ねた。


 「当たり前だろ?」

 陽菜は椅子に深く腰掛けながら、机の上に顎を乗せた。


 「私、嘘とか駆け引きとか、そういうの嫌いなんだよ。好きなもんは好き。それでいいじゃん。」


 奈央はため息をつきながら眼鏡を押し上げた。


 「それはあなたの考えでしょ? 相手の気持ちを考えないで突っ走るのは、ちょっとどうかと思うけど。」


 「じゃあ聞くけどさ、奈央は私のことどう思ってんの?」


 その直球に、奈央は言葉を失った。


 「え、それは……」


 「ほら、そうやってごまかす。」

 陽菜はふてくされたように頬杖をつく。


 「でも、そういうとこも好きなんだよなぁ。」


 奈央は顔を真っ赤にしながら、思わず本で陽菜の頭を叩いた。


 「うるさい!」


---


 それからというもの、陽菜は一層遠慮なく奈央に絡むようになった。


 「奈央、今日も可愛いじゃん。」

 「陽菜、黙りなさい。」


 「奈央、眼鏡外すともっといいぞ!」

 「放っておいて!」


 そんな二人のやり取りは、次第にクラスメイトたちの間でも「お約束」になっていった。


 だが、陽菜の直球は奈央の心を少しずつ揺さぶっていった。


---


 ある日、陽菜が体育で捻挫をしたと聞いて、奈央は授業を抜け出して保健室へ向かった。


 「バカね。もう少し考えて動きなさいよ。」


 保健室のベッドで横になっている陽菜の顔を覗き込みながら、奈央は小さく叱った。


 「考えてたら、あのボール取れなかったからな!」

 陽菜は笑いながら答える。


 「……そういうとこ、本当に嫌い。」


 奈央はそう言いながらも、どこか優しい目で陽菜を見ていた。そしてその場を離れようとした瞬間、陽菜が手を伸ばした。


 「奈央、ちょっと待って。」


 「なに?」


 「私さ、奈央がそばにいてくれるだけでいいんだよ。だから、振られるなら今ちゃんと振ってくれ。」


 その言葉に、奈央はしばらく黙っていた。そして、小さくため息をつくと、ぽつりと言った。


 「……嫌いじゃない。」


 「え?」


 「だから、嫌いじゃないって言ったの!」


 その一言に、陽菜は目を輝かせた。


 「マジで!? やった!」


 「やった、じゃない!」

 奈央は顔を赤くして背を向けたが、その肩は少しだけ震えていた。


---


 それからも二人の関係は変わらずに続いていったが、奈央の心は次第に素直さを増していった。


 ある日の夕暮れ、奈央がぽつりと呟いた。


 「あなたの直球には本当に勝てないわ。」


 「それ、告白として受け取っとく!」

 陽菜の笑顔は、いつものように眩しかった。

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