第19話
構えることもなく、俺はローランを見据えた。
この街に来たのは、あくまで人材を見繕うため――戦うためじゃない。
愛剣すら持ってきていない。俺は丸腰。
……それでも、今のローランに負ける気はしない。
ただ、胸の奥がわずかに高鳴っているのを感じた。
恐怖か、期待か――自分でも判然としない。
――どうせなら、この世界の主人公とやらのお手並み、拝見といこうか。
この少年は、【ブレイヴ・ヒストリア】の中で、レクス・サセックスという存在のすべて――
地位も名誉も、そして間接的にとはいえ命までも奪い取る男だ。
「行くぞ……ッ!」
掛け声と共に、ローランが剣を構える。
どこにでもある安っぽいブロードソード。
だが、奴が握ると不思議と様になる。
ゲームパッケージのイラストみたいだ。
ただし、やつの剣の刀身はまだ鞘に収められたままだ。
「ふん……」
軽く鼻で笑った。
軽い挑発のつもりだった。
次の瞬間、風が走った。
眼前に迫る赤い影。
「……ふッ!」
踏み込みと同時に鞘ごと横薙ぎ。
――どうやら奴は俺を斬る気はないようだ。
鞘打ち。
奴の狙いを一瞬で理解した。
昏倒させて終わらせるつもりだろう。
奴らしい甘さだ。
空気を撫でるように眼前に迫る鞘先。
わずかに上体を逸らし、紙一重でそれを避ける。
風圧が頬を撫で、俺の美しい金髪がさらりと揺れた。
――悪くない。……それなりには。
ローランの一撃をそう評す。
今の一撃で、一般人なら昏倒していただろう。
身体能力も高く、鞘打ちとはいえ、剣の扱いに慣れているのが読み取れた。
使い込まれた得物には、努力の跡が見て取れた。
だが、その一撃が俺に届くには、今の俺と、奴との距離は遥かにまだ遠い。
「……ッ!(——見切られた——)」
ローランの目が見開かれる。
確かに今の一撃は完璧だったはずだ。
踏み込みも角度も、狙いも。
完全に捉えたと思った。
だが、彼はわずかに体をずらしただけで避けてみせた。
大袈裟な回避行動をとる事もなく、一歩も動かずに。
(——コイツ、ただの雑魚じゃない——)
異常なまでに整った顔に、余裕の笑み。
その静かな余裕が、ローランの背筋を冷たく撫でた。
蒼と碧の視線が交錯する。
ローランはその大空のような瞳に、思わず吸い込まれそうになった。
「……俺を舐めているのか?」
「いいやッ! そんなことはないさ……君は強いよ——多分ッ!」
飛び退くように距離を取るローラン。
本能が告げていた――
この少年は、紛れもなく強者の部類だと。
たった一度の攻防で、互いに理解した。
仕切り直しという構図。
「さぁ、来いよ……ローラン」
俺は軽く顎をしゃくり、再びの挑発。
一瞬で、空気が一変した。
まるで舞台の幕が上がったかのように。
「ふ……ッ!」
惚けることもなく、ローランは再び踏み込み次撃を繰り出す。
踏み込みすぎは禁物。
長物の優位を活かす間合いを保つ。
父からは、相手を侮ることの危険を教えられてきた。
特に「(未知の相手との戦いには慎重になれ)」と。
「……そんな生ぬるい剣が、俺に当たるとでも思っているのか?」
煽りながら、攻撃を紙一重で躱す。
「……くッ!」
苦々しい表情のローラン。
――さぁ、見極めさせてもらおう。
お前が今後、俺にとって脅威となり得るのか……否かを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。