第7話 父の強さ

 湖を越えたミノは、しばらくの間、明るい草原を進んでいました。周りには色とりどりの花が咲き、風が心地よく吹いています。空はどこまでも青く、太陽が温かくミノを包んでいました。


 「これからどんな場所にたどり着くんだろう?」

 ミノは、少しだけ胸を高鳴らせながら歩き続けました。


 しかし、その先には不思議な石の道が続いていました。草原の真ん中に、なぜか冷たそうな灰色の石が並んでいます。その道を進むと、少しずつ空が曇り始め、風も冷たくなってきました。




 道の先に、ひときわ大きな木が立っていました。枝が太く、根が地面にしっかりと張っています。その木の下に、一人の天使が立っていました。天使は背が高く、強そうな雰囲気をまとっています。羽は大きくて頼りがいがあり、まるでミノを守ってくれそうな感じです。


 「ようこそ、ここまでよく来たな。」

 天使は低いけれど温かい声で言いました。


 「あなたは……?」

 ミノはその天使を見上げました。


 「私は父の強さを象徴する天使だ。」

 天使はそう名乗り、少し笑顔を見せました。


 「父の強さ……?」

 ミノは少し戸惑いながら、天使の言葉を繰り返しました。


 天使はミノの目をまっすぐ見つめました。


 「お前は覚えているか? お前の父がどんな人だったのか。」




 天使がそう言った瞬間、ミノの心の中に光が灯りました。まるで映画のスクリーンのように、過去の記憶が少しずつ浮かんできます。


 ――父はとても強い人でした。

 いつも堂々としていて、ミノが困ったときにはどんなことがあっても助けてくれました。でも、その姿は少し怖くて、時には厳しい言葉をかけられたこともありました。


 「勉強しなさい!」

 「もっとしっかりしろ!」


 父の声はいつも大きくて、ミノは少し苦手だと感じていました。


 「お父さんは怖かった……。いつも怒ってばかりで、優しくなんてなかった。」

 ミノは天使にそう言いました。


 天使は静かに首を振りました。


「本当にそうだったのか? もう少しよく思い出してごらん。」




 天使が指を動かすと、ミノの目の前に新しい記憶が浮かび上がりました。


 ――雨の日、主人公が学校から帰る途中で転んでしまったときのことです。

 泥だらけになって泣いているミノを見つけた父は、すぐに駆け寄ってきました。


 「大丈夫か? ケガはないか?」


 父の手は大きくて温かく、ミノを抱き上げて家まで連れて帰ってくれました。そして、泥で汚れた服を優しく脱がせてくれたあと、何も言わずにミノの頭をポンポンと叩きました。


 そのときの父の顔は、怖くなんてなく、とても優しい表情をしていました。


 「そういえば……お父さんはいつもぼくを守ってくれていた……。」

 ミノの心が少しずつ温かくなっていきました。


 ――他にも、ミノが熱を出して寝込んでいたとき、父は黙って枕元に座り続けてくれました。言葉は少なくても、父の背中がとても頼もしく見えたことを思い出しました。


 「お父さんは、いつも厳しいけれど、本当はぼくを守ってくれていたんだ。」

 ミノの目には涙が浮かびました。




 「そうだ。」

 天使は言いました。


 「お前の父は強さでお前を守り、その強さでお前を成長させようとしていたんだ。」


 「でも……。」

 ミノはつぶやきました。


 「ぼくはお父さんが怖くて、ずっと避けていた。厳しい言葉しか覚えていなかったんだ……。」


 天使はうなずきました。


 「だからこそ、今お前は父の愛を受け入れる試練に挑んでいるのだ。」


 すると、大きな木の前に、灰色の扉が現れました。扉の前には黒い影が渦を巻いています。影は恐ろしい形をしていて、まるで過去の恐怖そのもののようです。


 「この扉を開くには、お前が父の愛を受け入れる必要がある。父の言葉の裏にあった愛情を、しっかりと感じるんだ。」


 ミノは怖くなり、扉をじっと見つめました。




 ミノは胸に光る宝石を握りしめました。


 ――愛情、支え、絆。


 父が教えてくれた強さは、ただ厳しいだけのものではありませんでした。それは、ミノを守り、成長させるための愛情だったのです。


 「お父さん……ごめんね。ぼく、ずっと勘違いしてた。でも、お父さんはぼくを守ってくれていたんだね。」


 そうつぶやくと、黒い影は少しずつ小さくなり、灰色の扉が少しずつ光り始めました。


 「お父さんの強さは、ぼくを支えてくれるものなんだ。」


 そう気づいたとき、ミノはゆっくりと扉を押しました。



 扉の向こうには、温かい光が広がっていました。空は再び晴れ渡り、風は優しくミノを包み込みます。


 「よくやった。」

 天使はにっこり笑い、ミノの肩に手を置きました。


 「父の強さを受け入れたことで、お前の心はまた一つ満たされたんだ。」


 ミノは涙を拭い、笑顔を浮かべました。


 「お父さん、ありがとう。ぼくはもっと強くなるよ。」


 そう誓うミノの心は、今までよりもずっと温かく、力強くなっていました。


 そして、次の試練の道へと、一歩を踏み出すのでした。

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