23:ホワイトフットの戦い方

 ホワイトフットは目的地へと向かう道中、耳で舵を切るように動かし、向きを調節した。

 そのまま、風に乗るようにした後、目的地点へと到達した。

 ホワイトフットが地面に着地すると、その衝撃でアーサー達はホワイトフットの前足から転がり落ちた。

 

「ち、“血染めのホワイトフット”だと!?」


 異形はホワイトフットの姿が目に入ると、驚いたような反応を示す。

 到着地点にいた異形、ドロップは鮫を思わせる姿をしていた。

 魔力を放出し、魔獣のようになっていたホワイトフットに負けず劣らずの凶相の持ち主だった。

 

「“血染めの白うさぎ”ってのは、そんなに有名なのか?」

 

「そりゃあ、有名さ。普段は可愛らしい、うさぎでしかないのに変貌したなら、あの顔だからな」

 

 デッドビートの言葉に続いたのは、通行人の少年だった。

 ホワイトフットを恐れているような言葉だが、その声色や顔つきはどこかヒーローに期待する子供のそれだった。

 ホワイトフットが相対する、サメのドロップ━━━シャークドロップは鮫をより異形にした風貌をしていた。

 小さな目にびっしりと生え揃った牙を見せつけるように大きく口を開いた、笑顔を浮かべるようにしており、腕から生えたヒレはブレードのように伸び、尻尾は肉付きも良く、その大きさはシャークドロップの太い足ほどもある。

 

「ホワイトフットを前にしながら、逃げ出さないのは大したものだ」

 

「たかが、うさぎの一匹二匹・・・・。仕留めるのはなんてことない」

 

 低く、唸るようにシャークドロップはホワイトフットの言葉に返す。

 シャークドロップはうさぎから大きくなったホワイトフットよりも小さかったものの、それでも、その大きさは通常の人間のひとまわり以上ある大きさをしている。

 先に動いたのは、ホワイトフットだった。

 ホワイトフットが跳ねるように駆け出し、拳を振るえば、衝撃波が起こる。

 

「風のゼファー!!疾風の刃よ!!」

 

 周囲の人々に衝撃波が散らばるのを防ぐべく、アーサーは風の刃を作り出し、放出してホワイトフットの放った衝撃波を相殺した。

 ホワイトフットは静かにアーサーの方を視線だけ向けると、アーサーはホワイトフットに頷いて返した。

 その直後、シャークドロップはブレードのように扱うヒレによる攻撃をホワイトフットに繰り出す。

 切り上げる中で蹴りを叩き込み、拳でホワイトフットの下顎を突き上げる。

 ホワイトフットはそれら、シャークドロップの猛攻を耐え凌いだ。

 シャークドロップの猛攻を耐え凌ぎつつも、ホワイトフット自身は決してやられっぱなしだったわけではない。

 わずかな隙、シャークドロップの攻撃の隙を見つけ出せば、自慢の拳をすかさず叩き込んだ。

 

「ホワイトフットをただのうさぎだと甘く見るなよ、まな板の上のサカナめ」

 

 空いた前足を鉄槌のように見立てれば、大きく振り落とす。

 その瞬間にシャークドロップが回避するどころか、むしろ、さらに距離を詰めた上で拳にシャークドロップが喰らいつく。

 ホワイトフットがシャークドロップを払い落とそうと、腕をぐるぐる振り回すも、鋭利な形状をしているシャークドロップの牙はホワイトフットの拳に突き刺さって離れない。

 噛みついたまま、食らいついたままのシャークドロップの牙を抜こうにも、鮫の特性を持っているシャークドロップを振り払うことは決して容易いことではなかった。

 

「(ホワイトフットに食らいついて離れないとは……)」

 

 ホワイトフットはシャークドロップがモチーフとしている、サメという生き物を知らない・・・・

 ホワイトフットには海に行ったこともなければ、海を見たことがなかった。

 ただ、今の自分と比べ、怖い顔・・・をしている程度の認識しかなかったのだ。

 サメの生態ももちろん知らないため、その巨大な白い拳でシャークドロップを力任せに殴りつけると、シャークドロップのヤスリのようになっている肌がホワイトフットを傷つける。

 真っ赤に白い体毛が染まる様はホワイトフットの異名、“血染めの白うさぎ”に相応しいが、殴りつけた後でホワイトフットはシャークドロップの肌の秘密に気がついた。

 

「お前がいくら、異名通りに凶暴なうさぎであろうと、このシャークドロップの肌に切り刻まれるのを避けることはできなかったようだな」

 

「……食らいついているのに喋っている!?いくらホワイトフットでも、そこまではやれない。なんという執着、なんという執念

 

 シャークドロップがニヤリと噛みついたまま、凶悪な笑顔を浮かべる。

 シャークドロップの言葉にホワイトフットは別の意味で衝撃を受けてしまった。

 

「やはり、ホワイトフットが可愛いからか」

 

「……あいつ、余裕そうだな」

 

 ハッと気づいたホワイトフットの言葉にデッドビートは呆れた。

 アーサーにアンデッドアーサーにカイジン転生てんしょうすることを提案しようとしたが、ホワイトフットのマイペースな言葉に踏みとどまった。

 

「シャークのドロップになったことで得た、サメハダの特性に切り刻まれた癖によくいう!!調子に乗っていられるのも、良い加減にしろッ!!血染めェ!」

 

「“血染めのホワイトフット”だから、血染めだって?ホワイトフットは驚いた」

 

 至近距離で蹴りを入れられる。

 足裏まで鮫肌になっていない・・・・・・ことに気づくと、シャークドロップの足裏に対し、ホワイトフットは左の前足ラビットフックを叩き込んだ。

 風を切る拳は鮫肌に触れ、傷つかないという保証があれば、何も怖いものはない。

 触れれば傷つく、刃の鎧サメハダを持っているならば。

 傷つかないよう、工夫して殴ればいい・・・・・

 

「手出しは無用だ!アーサー!ホワイトフットの能力センスを見せてしんぜよう!!」

 

「余所見ができる余裕があるのか、うさぎめェ!」

 

 顔、尻尾、両腕、両手足。

 全身を刃の鎧サメハダで覆われ、牙やブレードのようなヒレを持っているシャークドロップは左手を広げ、掌底をホワイトフットに叩き込もうとした瞬間。

 ホワイトフットは大きく踏み込み、その脚力で地面を割った。

 その時、跳ね上がった掌サイズの石を右手で掴み、シャークドロップを殴打する。

 シャークドロップのサメハダに触れたことで石は傷つくはずだが、石をサメハダが切るほどまでには至らなかったようだ。

 

「い、石で殴るなんてやるの!?」

 

「だが、触れたら傷つく相手に対しては有効打だな。熱い鍋は直には持たないだろう?耐熱性の手袋をつけて食卓に運ぶはずだ」

 

 ホワイトフットの奇策にアーサーは目を丸くするが、ホワイトフットとシャークドロップの戦闘を観戦しつつ、デッドビートはあくまで冷静に俯瞰する。

 

「……確かに。そう言われたら、納得だ」

 

「奴の戦い方は得られるものがあるから、よく見るといい」

 

 デッドビートはアーサーが思案する様に頷いた。

 ホワイトフットは変貌こそしないときは可愛らしいうさぎでしかないが、凶相を浮かべる魔獣の姿に変身した時は猛威を振るう。

 未だ魔法を使えない、ラクリマユーザーばかりを相手にしてきているが、ホワイトは相当な手練なのだろうとデッドビートは推測した。

 ホワイトフットがシャークドロップを石で殴り飛ばすと、シャークドロップは即座に地面に身を沈ませた。

 その咄嗟の判断から察するに、まだまだホワイトフットとシャークドロップの戦いは終わらないらしい。

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