20:アンデッドアーサー

「妙なスライムだなぁ、髑髏面がついてるのなんて見たことないぞぉ?で・も、潰し甲斐はありそうだ!ぐしゃっとやるといいだろうなぁ」


 男の手にはラクリマが握られている。

 デッドビートはそこに書かれている文字がアーサーと過ごしてきた、三年間の中でそれが「オーグ」と書かれているのが読めた。


「これ、なーんだぁ?スライム!!」


「……ラクリマか」


「あったりぃ!……じゃあ、ぶっ潰しちゃうからね!!」


 男がオーグラクリマを翳すと、両手足が太く、見上げるほどの巨体の無骨な鬼を思わせる異形の姿となった。

 先日、街中で戦ったアシッドトードドロップと同じラクリマで変貌する異形の怪物である。

 鬼の異形は辺り一面をオーグドロップ自身の腕ほどの太さもある棍棒で破壊していきながら、デッドビートの方へと近づいてくる。

 わざとらしく、ゆっくりと近づいてくると、同時にアーサーとファルコンが到着した。


「デッドビート!」


「あいつがぶっ壊してやがってたやつか!」


「お前ら、ハウンズの犬どもかァ!!」


 オーグドロップはアーサーとファルコンの着ているジャケットに気がつくと、興奮したように棍棒をガンガンと地面に叩きつける。


「俺様は店主のおっさんと女将さんの方に行ってくる!アーサー、頼んでいいか?」


「分かった!!行こう、デッドビート!」


 ファルコンとアーサーが目配せすると、ファルコンはまた億の方へと走っていく。

 そのファルコンの背中へ向け、オーグドロップが棍棒を投げつける。


「風のゼファー!!疾風の刃よ!!」


 その棍棒に横からぶつけるようにアーサーが魔法を唱える。

 風が吹き荒れたかと思うと、アーサーのイメージした風のエネルギーでできた手裏剣がオーグドロップの棍棒を切り刻んだ。


『カイジン転生!!』


 デッドビートとアーサーが互いの視線に気づき、息を合わせて変身コールをすると、ファイアパターンのマフラーをした超人が現れた。


「お前が噂の“カイジン”かァ!?」


 切り刻まれた棍棒が風によってかき消されるように消失すると、再度、オーグドロップの手の中で棍棒が作られる。


『カイジンかと言われれば、そうだな』


 オーグドロップの言葉にデッドビートはアーサーの意思の中で答える。

 しかし、この世界にはカイジンという単語は存在しない・・・・・はずだ。

 デッドビートと言うカイジンが存在する以上、カイジンと戦うヒーローが存在するのがデッドビートの生きていた世界のパターンだった。


僕たち・・・はアンデッドアーサー!!この首都リオネルでお前らのような奴らから、みんなを守るんだ!!」


『アンデッドアーサー?』


 オーグドロップの言葉に返したアーサーの言葉にデッドビートは疑問符を浮かべる。

 不死身アンデッドのアーサー。

 死の淵に瀕していた少年が名乗るには、否、死の淵に瀕していたところから戻ってきたことを思えば、それは正しい意味なのかもしれない。


 アンデッドアーサー。


 どことなく、カイジンの自分の名前の要素を持ちつつも、アーサーの名前の要素がヒーローらしくもあるのが不思議なバランスを作り出している。


「なんだっていい!お前をブッ潰す!!」


 棍棒を投げては作成、投げては作成とするオーグドロップに対し、カイジン───アンデッドアーサーはデッドカリバーを生成し、切り捨てる。


『詠唱しなくても武器の生成ができるのって便利過ぎない?』


『これはオレの能力だからな』


 アーサーが驚いていた反応を見せるが、デッドビートはさも当然というにもかかわらず、不思議と悪い気はしない。

 店から大通りへとオーグドロップを誘導すれば、オーグドロップはアンデッドアーサーの意図に気がついた。


「まさか、このオーグドロップ様に踏みつぶさせないためにここに誘い出したっていうのかぁ!?コスプレ野郎!!!」


 間合いを詰め、殴りかかってきたオーグドロップの拳をアンデッドアーサーは左掌で受け止める。

 ズシリ、と重い一撃で身体は後ろに押されそうになるのを右掌でオーグドロップの腕を殴りつける。

 ぐらりとオーグドロップの身体の態勢が崩れかかったとき、足払いをして転ばす。

 アンデッドアーサーに対し、オーグドロップは再度、棍棒を作成してアンデッドアーサーの身体を強く打ち付ける。

 デッドカリバーに風属性の魔力を纏うイメージをし、下から上へとオーグドロップを切り上げる。

 切り上げられたオーグドロップは仰け反るが、棍棒を再度アンデッドアーサーへと投げつけ、アンデッドアーサーは頭部へと諸に受けてしまった。


「!!」


「俺の馬鹿の一つ覚えみたいなのでも、ご立派なヒーロー様・・・・・・には通用するんだなぁ!?モロに受けやがって、バカじゃねえのか!?ハウンズの連中に俺の力は渡さねえぞ!!ラクリマを手に入れてから、俺は最強になったんだ!!手放してたまるかよ!!」


 棍棒を一つ投げた後、さらにもう一つ、もう一つと続けて作成して投げる。

 ピンポイントでアンデッドアーサーの頭部を狙い続ける、その攻撃を受けたことで脳震盪を起こされたアンデッドアーサーは立っていることもままならない。

 先ほどのアンデッドアーサーの優勢と比べて、一転してオーグドロップが優勢になった。


「……笑えるな、お前」


『デッドビート!!』


 無理矢理、操縦・・を代わったデッドビートは、オーグドロップの言葉に声を震わせた。


「どんな経緯過去があったかなんてのは興味はないが、拾っただけの力を我が物顔で扱い、やることが破壊だけだと?笑わせてくれる!!」


 段々とヒートアップしてくる、デッドビートの様子はアーサーには、これまで見たことがなかった。

 自分自身がスライムだと指摘されるたびに食って掛かることはあるが、それ以外ではデッドビートが熱くなるというようなことはなかったからだ。

 デッドビートが熱くなってしまうような要素がオーグドロップにあったようだ。


 デッドビートにとって、オーグドロップの行動は目に余るものだった。

 ラクリマによって変身・・し、やることがただの破壊とは、同じ変身でもデッドビートと戦ってきたグレイトマンの生き方を踏みにじるように感じてしまい、それがデッドビートの琴線に触れてしまう。

 グレイトマンと言うヒーローは、無辜の人々を救うだけでなく、自分を倒すため、殺すために生まれてきたカイジンをも救おうとした。

 傲慢な思想だとデッドビートはグレイトマンの手を払いのけたものの、グレイトマンの生き方自体をデッドビートは嫌っているわけではない。

むしろ、そうである・・・・・が故にデッドビートは影響を受けている・・・・・ことに気づいていない。


「なら、お前はどうなんだ!?オーグのラクリマをも圧倒できるようなパワー!スピード!しかも、魔法の才能もある・・!!俺達には才能がなかった弱者だ!ヒーロー・・・・なら助けてくれよぉ!?そうだろう、アンデッドアーサー!!」


 オーグドロップが力を込め、渾身の一撃を弱っているアンデッドアーサーに振り下ろす。

 まともに足元がおぼつかないのを見越した上で自分が優勢であることを良いことに並べた言葉、才能ある超人ヒーローを僻んでのものだった。


『ぼ、僕は……』


 アーサーは言い淀む。

 アーサーはオーグドロップのように才能がないと言われてきた側の人間だ。

 デッドビートは力のある・・側だ。

 デッドビートには、オーグドロップに言い返す言葉がある。

 そして、二人は一つ・・・・・だ。


「才能がない弱者だとしても、お前がその力でどういう形であれ、傷つけたというのなら。お前もお前を見下してきたような連中と同じだ」


 振り下ろされた棍棒を両手で受け止め、段々と立ち上がっていくアンデッドアーサー。

 その髑髏面の奥には力強い意思を表すような、炎が煌々と燃え上がっていた。


 彼ら・・の名はアンデッドアーサー。

 不撓不屈カイジンと少年が一つになることで誕生する、不撓不屈の超人ヒーローだ。


 その日、確かに彼ら・・は生まれた。

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