14:プロフェッサー・ウィスカー
姿を見せた男は猛禽類を思わせるような目つきで左目には眼帯をしており、ループタイのスーツ姿で杖をついた、背の高いナイスミドルだった。
エーデルワイス先生、と言う響きから少なくとも、知り合いであることは窺えた。
あの年齢不詳で謎ばかりの魔女に自分たち以外の弟子が居たとは、とアーサーは男へ興味を持った。
「私は王立警備隊ハウンズを束ねている、プロフェッサー・ウィスカーと呼ばれている者だ。ファルコンには迎えに行かせてみたが、無事に合流することができたようだな。
まぁ、その身なりなら、街中でも目立ちそうなものだが。
私のことは好きに呼ぶといい、ファルコンもそうしている」
ウィスカーの声色はどこか、安心感を与える独特なものだった。
むしろ、ギャップまであり、ファルコンのような少年が慕うのもわからなくもない。
どことなく、ファルコンはリリアーヌと同じタイプにアーサーは思えた。
特に口調や雰囲気がよく似ている、と思った。
「我がハウンズの務めについてだが、先生からは何も聞いてなさそうだな?その様子だと」
アーサーがウィスカーにエーデルワイスから預かった手紙を手渡すと、ウィスカーは封を解き、小さく笑みを漏らした。
「はい、特に聞いてないです。知り合いのツテがある、としか」
「おっかねぇ先生?なんだな、その人って」
ファルコンはエーデルワイスを理不尽の極み、とウィスカーとアーサーの話からイメージした。
「ファルコン、それ以上は言うな。
良くないものを思い出してしまうからな。
さて、話に戻ろう。
ハウンズの務めは、王都リオネルの治安維持と取り締まりだ、場合によっては、荒事も十分起こりうるし、対処も求められる」
ウィスカーはキャビネットからファルコンと同じハウンズの制服である、三ツ首の犬のロゴが背中に描かれた群青のジャケットを差し出す。
ウィスカーから差し出された、そのジャケットをアーサーは受け取り、袖を通す。
「これで、俺様とアーサーは仲間だな!
でよ、そこのスライムには着せなくていいのかよ?ボス」
「そこのスライムには着せられないだろう、ファルコン」
ファルコンはデッドビートを指差すも、ウィスカーは頭を横に振った。
「そいつの扱いはファルコンの変身の産物のような扱いになっている」
「髑髏面のスライム、ってまた随分と変わってんだなぁ。なんていうか、珍獣ってカンジ?モンスターってより」
「そうは言うな。ファルコン、アーサーに本部内を案内してやるといい」
「ボスはどこかに行くのか?」
ウィスカーは扉までゆっくり杖をついて歩き、ドアノブに手をかける。
「私は少し用がある。アーサーの歓迎会、やるだろう?ファルコン」
「もちろん!」
明るく笑って返す、ファルコンの頭を少し撫でた後、ウィスカーは帽子を被って出かけて行ってしまった。
「(……どことなく、オレが居た組織で見た
あるいは、飼い主と飼い犬。
人懐こいファルコンは飼い犬のようで、ウィスカーはそんな
そして、デッドビートが共に戦うアーサーもどちらかと言えば、ファルコンと同じタイプの
ガキ大将気質のリリアーヌ、性格の悪い姉弟子のエヴァーレインを絆してきたのは、その性格による。
「まぁ、ボスも行っちまったし、ハウンズの中を案内してやるよ。他に何人かメンバーはいるんだけどよ、今は出払ってて、本部にはいないんだけどな。
アーサーにもいろいろ聞きたいしな」
「よろしく頼むよ、ファルコン」
その後、ファルコンはアーサーをハウンズ本部内を案内した。
食事をするダイニング、浴場とトレーニングルーム、そして、
王都を警備する警備隊にしては、人数も少ないことにアーサーは部屋の数を見て気づいた。
五部屋ほどしかないが、これまでに所属していたらしい構成員たちの写真がいたるところに飾られている。
「まぁ、そこにいるのは殉職しちまった先輩達だよ。力がねぇ連中を取り締まるのはなんてことねぇけど、死んじまうこともあるんだ」
「……だから、少ないのか」
「あとは、俺様たちははみ出し者だからな。
ボスが俺様たちのような奴らに居場所をくれるんだ。だからこそ、俺様たちはこの居場所のために戦ってる。アーサー、俺様はお前が仲間でいる
ファルコンのウィスカーへの思い入れを語ると共に、アーサーに牽制と警告を兼ねる言葉をかけた。
ファルコンはリリアーヌと同じだと思ったのは、そうした思い入れがあるからだとアーサーは気づいた。
思い上がりではないと思いたいが、リリアーヌはアーサーを大切に思っている。
しかし、ファルコンのウイスカーへの思いはまた異なる執着のようなものだと思った。
「裏切るとかはしないよ。
僕も、あまり友達はいる方じゃないからさ。 ファルコン達とも、仲良くできたらって思ってるからさ」
「お前、大人しくて良い奴なんだろうなぁとは知ってたぜ!アーサー!」
「会ったのは今日が初めてだけどね」
アーサーの言葉にファルコンは破顔し、腕を肩に回して嬉しそうに返す。
同性の友人がほとんどいなかったため、アーサーには、とても新鮮な感覚だった。
ファルコンの方も、アーサーの言葉は偽りではないと思えた。
師であるという、エーデルワイスにほとんど何も知らされていないにも関わらず、ハウンズにやってきて、仕事をしようというのは、お人よしも良いところ。
「じゃあ、買い物行こうぜ!ここまで案内したけど、特にわからないこととかなかったよな?また聞いてくれたらいいぜ、ファルコン
「今のところ、特にないかなぁ」
ハウンズ本部の扉に掛けておく為の『巡回中』の紐がついたプレートを表に出て引っ掛け、ファルコンは戸締りした。
アーサーはあてがわれた自室の一つに荷物を置き、受け取ったジャケットに袖を通したまま、デッドビートを連れて行った。
市街は賑わっており、様々な店を訪れている客で賑わっている。
「おや、ファルコン!隣の彼は新人くんかい?」
「ファルコンちゃん、この間はうちの猫を探してくれてありがとうねえ」
「プロフェッサーによろしく言っておいてくれよ!ファルコン!」
街を行く中、ファルコンとアーサーは様々な人々に声をかけられた。
ファルコンは声をかけられるたびに手を振りかえし、愛想良く、対応している。
人懐こいファルコンは、街の人々とも良好な関係を築いており、バゲットや果物など、さまざまなものを
「みんな、良い奴らだよなぁ。
ボスがさ、なるべく、良いことはやっておけって言ってたんだ。そんで、信頼関係を築いておくのがいいんだって。
最近もよ、違法マジックアイテムユーザーがいるから、不安だろうにな」
紙袋を抱えるアーサーにファルコンはうんうん、と頷く。
違法マジックアイテムユーザー、と聞いてアーサーはピンと来なかった。
「違法マジックアイテムユーザー?」
「あれ?お前、知らないクチ?いま、リオネルで流行ってんだよ。
なんでも、簡単に魔法を使えるんだってさ。
許可が降りてない、非公式の魔法使い泣かせのマジックアイテム、ラクリマ」
ファルコンは不思議そうに目を丸くしつつ、
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