12:手がかかる弟子の卒業試験
エヴァーレインがエーデルワイスにより、卒業を言い渡され、飛び出して行ってからもアーサーたちの修行の日々は続く。
アーサーは相変わらず、属性の掛け合わせはうまく行かなかった。
リリアーヌはメキメキと頭角を表していき、魔法だけでなく、体術でもエーデルワイスから一本取れるまでに成長していた。
「得意なものはそれぞれだから、私とアーサーができることは違って当然だ」
リリアーヌはいまいち、伸びないアーサーを気遣いながら笑っていた。
それでも、三年間、アーサーは何もしなかったわけではなかった。
三年の月日を経た頃、エーデルワイスの元に残っていたのは、アーサーだけとなっていた。
十五歳の誕生日を迎え、リリアーヌは卒業試験免除で合格を言い渡された。
父親に呼ばれ、一足先にナーロウ邸に戻った。
アーサーの誕生日には、リリアーヌからのバースデーカードと小さな包みが届いた。
『親愛なる私の幼馴染、アーサーへ
誕生日おめでとう。
お前の卒業試験を私が見守ってやれないのは、正直、残念ではある。
まぁ、不安に感じることはないよ。
アーサーは、今でも私にとっては、カッコいいヒーローであることに変わりないからね。
しっかりやってね、アーサー。
リリアーヌ・ナーロウより、遠方から心を込めて』
中に入っていたシルバーのブレスレットを身につけ、道着に着替える。
この三年間、三本の竜の爪を思わせるロゴ入りの道着を着ている以上、袖を通すのも慣れた。
身長も弟子入りした時よりずっと高くなり、エーデルワイスや
割り当てられた部屋で支度を済ませ、エーデルワイスと二人で食事を摂る居間へと向かうと、エーデルワイスが従えている使い魔達に指示を出しつつ、席についている。
エーデルワイスはアーサーに気づくと、明るく笑みを浮かべた。
「や、おはよう。アーサー」
「おはようございます、先生」
「しかし、私も感慨深い。あのアーサーがまさか、卒業試験まで食らいついてくるとはな、正直、私が驚いているくらいだ」
エーデルワイスはアーサーの卒業試験の受験は、自分との一対一の戦いに定めた。
アーサーとリリアーヌの姉弟子は決定的に足りていなかった、チームワークを身につけさせることを目的にした卒業試験を受けさせた。
リリアーヌはエーデルワイスの目で見た上で卒業試験は必要ないと判断した。
アーサーを
朝食のサラダが入ったボウルからサラダ菜を取り皿に使い魔が取り分け、焼き上がったバゲットはエーデルワイス自らがオーブンへと取りに行く。
食事の準備は弟子がするようになるもの、というアーサーの認識は、この毎日で塗り変わっていた。
できる手伝いは魔法でやってみる、という課題を出されたことで、エーデルワイスから借りた杖を振るい、使用済のフライパンや包丁を魔法で洗っている。
「そういえば、昔、エヴァーレインが敷地外で魔法を卒業したら使えるようになると言ってましたけど、エヴァーレインは敷地外では使ってないんですか?」
「イヴが?ああ、確かになかったかな。やらせていた課題も、私の館の敷地内にあるものを取りに行かせるとかはやってたけど。ほら、敷地内なら、私がなんとかできるからね」
エーデルワイスは楽しげに笑った。
エーデルワイスの部屋にある道具は館の敷地内全てを見透かすほどの効力がある。
すなわち、エーデルワイスの庇護の下で弟子たちは修行しているのだ。
「小僧は試験の方は問題ないか?」
この三年も、微塵も変わらなかったスライム姿のデッドビートの問いには、アーサーは笑って頷いた。
「全力をぶつけにいくつもりだよ、デッドビート」
「それはいい。食後、少ししたら、試験を始めようか」
アーサーの前向きな言葉にエーデルワイスは頷いた。
自分の修行がうまく行かない時も、直向きに取り組むのは一種の才能である。
腐らず、変に深刻になりすぎず、自分なりにできるのがアーサーの良いところだ。
その後、食事が済んで、いよいよ、アーサーの卒業試験の時間となった。
「極力、魔法と体術を織り交ぜるように。
あとは、工夫して魔法を使いこなせるかも見たいから、必要な場合はスライムと合体して使ってみてもいいよ。結局、スライムが何かわからなかったのは残念だ」
「誰がスライムだ」
エーデルワイスのルール説明が終わると、デッドビートは苦々しげに吐き捨てた。
中庭にて、エーデルワイスとアーサーは向かい合う。
アーサーの傍らにはデッドビートがいて、その身体を器用に跳ねさせ、アーサーの頭部に乗った。
魔法のゴングが派手に響くと、試験は始まった。
エーデルワイスが回し蹴りの動作で風魔法の衝撃波を放つと、水でできたカッターをイメージし、アーサーは魔法を唱える。
「水のエリアス!風を打ち消す、刃を作れ!」
アーサーが腕を構えると、水の刃は衝撃波を打ち消す。
砂埃を巻き上げたかと思えば、エーデルワイスの姿は消えていた。
「私はここ」
砂埃を風で吹き飛ばすと、その手にはデッドビートを抱え、短剣を口に刺し、アーサーの人質として使った。
「スライム、なんとかしなきゃいけないね?君のカイジン転生は強力な超人にはなれるけど、スライムを取られたら、なれないんじゃない?」
とんとん、とスライムボディに手刀を落としたあと、アーサーの立つ方向とは違う方向にデッドビートを投げた。
「こんなこともあるかも?」
「なら、カイジン
「わかった、カイジン転生!!」
アーサーはデッドビートの
炎が消え、その場に立っていたのは、ファイアパターンのマフラーをつけた超人であった。
「……良いねえ」
「まだまだァッ!」
アーサーの意思で右拳を繰り出すと、エーデルワイスは小石を蹴り、蹴った小石を巨大な石壁へと変化させて防御する。
魔法を使うには、魔法の詠唱が必要だ。
しかし、エーデルワイスほどの年季のある魔女となってくると、詠唱無しで結果だけを求める式のように事象を起こすこともできる。その神技の領域に踏み入れるには、並大抵のレベルでは踏み込めないあたり、エーデルワイスの実力が見える。
アーサーは超人の拳で壁を破壊し、エーデルワイスへと踏み込む。
「疾風のゼファー!!拳に纏い、風の籠手となれ!!」
「じゃあ、私も同じやつを!!」
超人の拳を風が包むと、エーデルワイスは道着のズボンのポケットに手を突っ込むと、ブーツに風を纏う。
アーサーが向けてきた拳を回し蹴りで受け止めたあと、受け止めた足を軸にし、右拳を髑髏面に叩き込む。
「カオ、ガラ空きだよ」
「け、喧嘩じゃあるまいし?」
ゴロツキの喧嘩めいた理由をしれっと言う、エーデルワイス。
アーサーはためらいのなさに尻込みしかねるも、頭をチラついた
あの彼女を育てた、エーデルワイスはやりかねないと言うことを。
「本職じゃないからこそ、さ。ちょうど、穴っぽいのあるから、指で突き刺してやりたかったんだけどね。それ、仮面なんだろう?あの子、イヴも気にしていたよ」
不思議そうに首を傾げるエーデルワイス、僅かに見えた隙をつき、アーサーは超人の脚力で地面を踏みつけ、呪文を唱える。
「大地のティターン!隆起しろ、土壁!」
「なっ!?」
エーデルワイスは身構え、土壁が隆起するのに対処しようとするも、それよりも早く、超人は剣を突きつける。
「……なるほど、一本取られたってことか。合格だよ、アーサー。エヴァーレイン、リリアーヌと並んでね」
『成果は少なくとも、あったわけか』
「ご、合格!?」
エーデルワイスが微笑み、一つになっているアーサーが合格を勝ち取ったことに感慨深くなるデッドビート。
当のアーサーは変身を解除し、目を輝かせると、軽く手刀をエーデルワイスに落とされた。
「隙あり。油断大敵だよ」
「今のはないと思います、先生」
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