レイニーマート
レイニーマート。
王都に構えた、《ベイルナイト》やそれらの武装を扱った、この小さな店。
ベイルバトルが流行った現在、競合他店と同様に中古であるとはいえ、
他の店とは異なるレイニーマートの特色として、好きな色に変えることができる。
量産品のザトスより上の《ベイルナイト》は買えない、しかし、カスタマイズはしたい。
そんな願いを叶える、店の店主はルーデンスの姉・ヒルダの友人、エヴァーレインだ。
レイニーマートの青文字と広げた傘のロゴが入ったエプロンを着用し、店に入って奥にある椅子に足を組んで座り、眉を顰めている。
「なるほど。それで言いたいことは、それだけ?貸してやった白塗りザトスはぶっ壊したし、赤白服の変な女連れ帰ってきて?……よくわかんない《ベイルナイト》については褒めてつかわす、あたしが
「ルーデンス、この女、本当に大丈夫!?」
ルーデンスの話を聞き、不満七割と言った表情のエヴァーレインの言葉にレイがツッコミを入れる。
未知の《ベイルナイト》を弄り回すことは、それを専門とする者には喜ばしいことなのだろう。
それにしても、現金すぎるとレイは思った。
「あたしはそいつと付き合い長いからね。
自分の席のそばに立っているルーデンスの頭に手を伸ばすと、くしゃくしゃに頭を撫でた。
客人のレイがいても、エヴァーレインにはお構いなしである。
エヴァーレインから傍若無人さの片鱗をレイは感じた。
「で?あたしからも聞きたいんだけどさ、よくわかんない《ベイルナイト》にお姉ちゃんのパクリみたいな名前つけて、野良ベイルバトルやったやつ。騒ぎになってるわ、ルーデンス」
配信ラクリマをテーブルに置き、起動させて壁に投影する。
配信ラクリマの仕組みは様子を記録する魔法を発動するため、街の中央部にある巨大ラクリマに接続した上で使われる。
生配信ができる魔法を発動する媒介に巨大ラクリマを使っているのだが、視聴者側からの声はもちろん届かない。
世界ベイルバトル協会では、視聴者からの声が聞こえるようになる配信魔法も考案中という声があるほどだ。
映し出された映像は、赤い流星とアルビオンに
ルーデンスはレイと顔を見合わせる。
ベイルバングルを託される前のやり取りや上空で見た、レイと赤い流星のチェイスは配信で撮影されていないが、この様がどこかの誰かによって配信されていたなら問題だ。
赤い流星はアルビオンを取り戻しに来るに違いないし、アルビオンを狙う第三者だって現れるかもしれない。
「アンタ、本当に良い動きするよね。ずっと、
「語弊がある言い方やめろよ」
エヴァーレインは頬杖をつきつつ、ルーデンスの赤い流星とのベイルバトルにおける奮戦ぶりに心底感心したようだった。
ニヤニヤとルーデンスをエヴァーレインがからかうと、ルーデンスは顔を顰めた。
「クルスだっけ?コイツ、筋金入りの《ベイルナイト》オタクだから。……まぁ、レンタルしたザトス、壊してくるけど」
「本当にそう思う。
これまでに全く触ったこともない、未知の《ベイルナイト》で」
エヴァーレインが顎でルーデンスを示すと、レイは頷いた。
未知の《ベイルナイト》をさも自らの手足であるかのように動かすのは、並大抵のことではない。
ルーデンスがアルビオンを
「……ヒルダ先生みたいだった。そうでしょう、ルーデンス?」
「先生?ちょ、聞き間違いじゃないわよね?あのヒルダに弟子?幼馴染のあたしが知らないけど?」
性格が武人気質で
特に幼馴染のエヴァーレインはヒルダに執着している節まである。
『ルディ。イヴは私の幼馴染ではあるが、私は別に女にモテたいわけじゃない。……モテるなら、ちゃんと男にモテたい』
『はぁ!?超絶美人な私がいるでしょ!?ルーデンス、あたしについてくれたら、好きなもの買ってやる!』
『私の弟の教育に悪い!』
エヴァーレインがヒルダにべったりするたび、姉は困ったように弟を見ていたことは鮮明に覚えている。
「所詮はその程度の関係だった、ということよ。先生はね、凄かったのよ?」
「それがどうかしたの?あたし、ヒルダのアルビオンの調子を見てたんだから、それくらい知ってるわ」
ぐぬぬ、と解せない様子を見せるレイに対し、エヴァーレインは彼女にレイニーマートのエプロンを投げて寄越す。
これを着て仕事をしろ、ということだろうか。
「イヴ、レイにも店の仕事を?」
「店長って言いなさいな、イヴ
それに、あたしが居候なんて許すはずないでしょ?アンタのおねえちゃんのポイント稼ぎならやるけど、あたしは別に優しくないしねー。……そうだ、アンタの小遣いからアルビオン・ザトスの修理代引いておくからね」
当然でしょ、とわざとらしくため息をつくエヴァーレインはニヤニヤ笑っている。
性格が悪く、
そんな彼女は金勘定はきっちりしており、若くして小さな店の切り盛りができるくらいには金銭にはうるさかった。
命からがら戻ってこられたことと、レンタルの《ベイルナイト》を壊してしまったことはまた別らしい。
「……ハイ、キモニメイジテマス」
片言で返事をする。
急な事態とはいえ、自分の《ベイルナイト》を手に入れることができたのだ。
中古の武装くらいはなんとか工面したい、カスタマイズしたい、と思った矢先のエヴァーレインの言葉に固まってしまう。
「ふふ、じょーだんよ。じょーだん」
おかしそうに笑いながらも、エヴァーレインは一枚のチラシをルーデンスに差し出す。
「これ、アンタの肩慣らしのために行ってきなさい」
「……ベイルバトル大会?こんな街中で?」
ルーデンスとレイがチラシを覗き込むと、それはベイルバトル関係の品を取り扱うショップに配られているらしいチラシだった。
この後の時間、この近所の広場で中近距離限定の武装でベイルバトルを行うようだ。
ベイルバトルの勝負が決まる条件が胸部の水晶部、ベイルタルに攻撃を当てればいいというのが街中でも被害を出させないルール制定にピッタリである。
「
「本当に!?やるよ、イヴ!アルビオンで戦いに行く!」
「おーお、やる気出たなら何よりー」
食いついたルーデンスにエヴァーレインは満足げに笑う。
レイはさらにチラシを見ると、優勝賞品に眉を顰め、エヴァーレインを睨みつけた。
『優勝賞品は《ベイルナイト》特別仕様武装』とあり、これのためにルーデンスを未知の力を秘めるアルビオンでけしかけるつもりらしい。
「あのねえ、店長さん?」
「あーら?あたしはアンタの雇用主で家主よ?レイ・クルスさん?何か文句ある?アンタもルーデンスと行きなさい」
喜び勇んで飛び出していくルーデンスを顎で示すと、レイはエヴァーレインを睨みつけてから追いかけていく。
「あ、行ってきます!イヴ!」
「はいはい。優勝してきなさいよ、ルーデンス」
扉を開け、一瞬止まってエヴァーレインに声をかけると、エヴァーレインはひらひら手を振り返した。
ルーデンスの背中を眺め、エヴァーレインは呟く。
「アンタの弟だから、ちゃんとやるよね?ヒルダ」
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