最終話 詰みセーブ

ーーー征服歴1283年 ボーロード王国東部旧ヤイヘッドナー王国領 連合王国軍“龍瞳騎士団”野営地ーーー


side ケヴィン・トランバレム


 私の上司であるリシャール・グランツ元帥が、自分が頭を握り潰した敵国の王、ツーク陛下の亡骸を詰まらなそうに眺めている。

 飛び出したが雨に濡れた地面に散らばり、気の弱い者なら目を逸らしそうな凄惨な光景を呈している。


「片付けが大変なので殺すならもっと綺麗に殺して下さい」

「……この光景見てそれ言える君は大物になるよ?」

「そもそも敵国とは言え王族の頭を握りつぶさないで下さい。本人確認が大変じゃないですか」

「ゴメン……」


 私に正論で詰られたグランツ元帥はしょんぼりと頭を下げる。


「気分を害したのは理解しますが、の事を考えると面倒ですよ?」

「アハハ…いやあ、つい…」


 グランツ元帥は血と白っぽいなにかがこびりついた手袋を脱ぎ、申し訳無さそうに頭をかく。


「まあ本人確認が出来ないならいっそのこと事にすればいいよ」

「……なるほど」


 つまり、ツーク陛下を含めた彼らは決戦前にと宣伝する訳か。流石は我が師、腹黒い。


「これなら二重王国の圧政で虐げられてきた民衆は取り込み安いしねえ」

「しかし、ツーク陛下も部下にきちんと作戦を伝えていたのでしょう?」

「まあ間諜対策に信頼できる相手だけだけどねえ…だろう、?」


 グランツ元帥はそう言って、先程から私達の後ろでに問いかける。


「ツーク殿下…じゃなかった、陛下は私とイワギマ侯爵に後事を託されました。私は密かに殿という体で陣を離れています」

「分かった。君は戻って二重王国軍の兵士達にツーク陛下は逃げたと伝えてくれ」

「承知しました」

「その後はもう。はいこれ路銀、残りの褒賞は指定の場所で」

「ありがとうございます、グランツ元帥」


 リノ・ギラゥモ、母娘2代にわたってボーロード王国に潜入していたグランツ元帥子飼いの諜報員はグランツ元帥から銀貨の入った袋を渡されて深々と頭を下げ、闇に溶けるように姿を消した。


「………もしもツーク陛下のが真実だったとしたら、彼女は真っ先に消されているはずでは?」

「どうだろうねえ…彼の言葉が狂人の妄言か、天才が膨大な思索の果に導き出した答えなのかは分からないけど、少なくとものボクも負ける事は無さそうだねえ」


 何度も人生を繰り返している等という眉唾な話を、グランツ元帥が本当に信じているのかは分からない。だが例え、ツーク陛下が1000を越える繰り返しの果に、こうして元帥の喉元へ刃を突きつけたとしても結果はご覧の通りなのだ。


「恐ろしいお方ですね…」

「だよねえ…あんなオカルトがあるなんて」

「いや元帥の事ですよ?」

「え?」

「…え?」


 心外だと言う顔で聞き返す(まだ仮面を付けていない)グランツ元帥に、私は何言ってんだこのおっさんと言う意思を込めて聞き返す。


「酷いなあこんな美少年を捕まえて怖いなんて、傷つくよ!?」

「貴方私の父より年上ですよね!? よく奥面もなく美少年とかほざけますね!?」

「だって事実だし!? 見なよこの珠のお肌!」

「明るい所で見ると小皺が目立ちますよ?」

「そんな事言わないでよお…」


 気にしてるのかグランツ元帥が地面に膝をついて落ち込む。子供っぽいからやめてほしい。 


「はあ…私もさっさと寝たいのでそろそろ行きますよ」

「最近弟子達が冷たい…」

「理由はご自分の胸に聞いてください」

「流石にボク男だから詰め物しないと胸は無いなあ」

「はいはい」

「流された!?」


 下手に反応すると長くなるのでグランツ元帥の戯言は無視する。


「ゴメンよ、でもこうやって怖がらせるのが一番だよ思ったんだよ…」

「それは頭を握りつぶされるなんて、死んでやり直すにしても嫌な死に方でしょうが、わざわざやります…?」

「まあでもあるかなってね」

「教訓…ですか?」


 おどけた口調から、そこだけは真面目な雰囲気に戻ったグランツ元帥に、私は違和感を感じて聞き返す。


「そうだよ。ちょっとだけ可哀想だったから、彼のを砕いておこうと思ってねえ」

「驕っているようには思えませんでしたが」

「うーん、真剣ではあったけど、あの子はからねえ。あのままだと、のボクが失望しそうだから…まあお節介だったかもだけどねえ」

「………元帥の言葉は偶に難解で私には理解しかねます」

「それならそれで良いさ。ボクも、自分がやったことが正しかったのか、そもそもボクの理解が本当に合ってるのかあんまり自信ないからねえ」

「そんな曖昧な根拠で頭を握りつぶされたツーク陛下には心底同情します」


 私はそう言って、部下が片付けているツーク陛下の遺体に黙礼する。


 少なくともこの方は己の全霊を賭してグランツ元帥に挑んだのだから。例え彼の死を、そして護りたかったものを私達が踏み躙るのだとしても、最低限の敬意は抱いても罰は当たらないだろう。


「さて…まだ油断は出来ないけど、取り敢えず今回の遠征の目的は果たせたねえ」

「はい、これで国境北西部に連合王国を脅かす勢力は存在出来なくなります。そして西方の大国が侵攻する場合、その進軍を支援出来る余裕も無くなるでしょう」

「昔苦労させられたからねえ…」


 もしも私がツーク陛下に同情する事があるとするなら、彼は負債を背負っていた事だろう。


「ガルアーク聖王国が侵攻した際に、トランバレム公爵領私の故郷を迂回してこの地域を別働隊が突破したのでしたね」

「そうそう。ジャッカード公爵が粘ってくれたけど相手が悪かったからねえ…ボクがこんな子供が泣く仮面着けてる原因だしねえ」

「元帥のお祖父様の仮面ですよね?」

「昔ボクも泣かされたんだよ…そして今は孫に泣かれる……因果だねえ」

「家でくらい仮面を外せば良いのでは…?」


 今から30年近く前、大国ガルアーク聖王国とヴィーテ=ガスク連合王国の間で戦争があった。

 西の国境線を護る私の故郷は敵の大軍を撃退したが、別働隊に今いるこの地域を突破され連合王国領土の奥深くまで侵攻された。

 ボーロード王国も含むこの地域の小国家軍は積極的にガルアーク聖王国を支援した。それは大国に翻弄される小国としては仕方ない事ではある。


 だが、連合王国私達はその事実を忘れてはいない。ではない。純軍事的な意味で、この地域を敵の軍団が妨害なく行軍できるという危険性を、グランツ元帥を中心とする連合王国首脳部は常に危険視し、長い時間をかけて準備を行った。

 国境外縁部における空間防壁作成計画という、今後100年以上、我らが祖国を護り続ける為の計画を。


 

 ツーク陛下は不運だったのだろう。

 その最後の仕上げに、滅ぼされる側として標的にされてしまったのだから。






 この戦いから10年後、私はグランツ元帥の戦略眼の正しさを再認識する事となる。

 そしてもう一つ、私はとある少年にツーク陛下のとは何だったのかを教わる事となる。




『民衆の蜂起で処刑された第五王子は家族を救うために過去へと舞い戻る─なんか死に戻ったら日本人だった記憶が戻ってるので前世知識で余裕です』完

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