傾国の王女は孤独な第一王子を溺愛したい
あねもね
第1話 私はあなたを愛してみることにします
「フィオリーナ王女、最初に言っておく。私は君に何も期待しない。私には弟がいるから、世継ぎ問題で君に夜の生活を強いることもない。ただ、君は誰の言葉にも黙って頷くお飾りの王子妃でいてくれさえすればいい。だから、君も私からの愛や華やかな結婚生活を期待しないでくれ」
初夜となるその日、夫となった隣国のラキメニア王国の第一王子、クロード・リアム・ステンベルク王子からそう告げられた。
クロード王子は栗色の髪、すっと通った鼻筋、特徴的な青灰色の目をしている端正な顔立ちの男性だ。一方、その声は単調で、私に向ける目は蔑視でも冷視でもなく、それどころか何の感情も宿っていないように見える。
確かにこの結婚は政略結婚だが、だからといって見知らぬ土地に嫁いできた不安でいっぱいの新妻に向かって宣言しなくてもいいのにと思う。仮に最初に本音を告げて期待させないことが彼の優しさだとしても、もう少し言葉選びの配慮があって然るべきだ。
「そう、ですか」
少しの思考の後、私は頷いた。
「では、わたくしはあなたを愛してみることにいたします」
「…………は? 今、何と?」
クロード様は二拍ほどかけて言葉を理解すると、生気すらなかった目をわずかに見開いた。
「わたくしはあなたを愛してみることにすると申しました」
「愛してみる? ……ああ」
彼は不可解そうに呟いたが、すぐに納得したかのように小さく頷く。
「聞き違えしたんだな。改めてはっきりと言おう。私が君を愛することは期待しないでくれと言った」
「ええ。確かにそのように聞こえました。その上で、わたくしはあなたを愛してみることにすると申し上げたのです」
私も改めて言うと、今度こそ彼の青灰色の目は戸惑いに揺れた。
「分からないな。私は君を愛さないと言っているんだ。なぜ君が私を愛してみると言うんだ?」
私は少し得意げに、少し慎ましやかに手を胸に当てる。
「わたくしたちは神様の前で誓ったからです。試練を共にし、分かち支え合うと。ですからクロード殿下ばかり試練を受けるのは、妻として失格だと思った次第でございます」
「試練?」
「ええ。クロード殿下がわたくしを愛するために努力される試練です。従って、わたくしもあなたを愛するために努力する試練をご提案申し上げているのです。もっともクロード殿下にとって、この試練は苦にもならないことでしょう。わたくしを愛さないように努力することのほうが試練なのではないでしょうか」
私が頬に手を置いてため息をつくと、クロード王子はさらに大きく目を見開き、先ほどまで無感情だった彼の目に光が灯ったように見えた。
「つまり君は、私が君を愛さずにはいられないと言っているのか? ――はっ。君は噂以上の自惚れ屋のようだな」
「まあ! クロード殿下こそわたくしを愛さないなどと宣言なさるなんて、随分な自信家ですこと」
「は……?」
呆気に取られるクロード王子の前で不遜に腕を組んでみせたが、ふと気付く。
「あら。もしかしたらわたくしたち、案外気が合うのかもしれませんね。ええ、ええ。歩み合いができそうな気がしてきました。いいえ。きっとできるわ。そういうわけでクロード殿下、これからどうぞよろしくお願いいたしますね。二人でこの試練を乗り越えましょう!」
「なっ、あ」
私は笑顔でクロード王子の両手を取る。まずは私から歩み寄ったことに感激したのか、彼は絶句した。
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