-War 12- Thunderbolt PART① Ⅰ
【Phase1:凶兆】
季節は移り変わり春へ
雪は溶け新たなる生命が芽吹く季節
あれ程寒かった気温もまだ肌寒いが徐々に暖かさを取り戻していく
この半年間は特に目立った事件はなく,強いて言うならいつも通りの任務しか無かった
「おーいVー?入るぞー?」
「んだよ…なんか用か?」
「相変わらずそのあからさまに機嫌悪いの治せよな」
半年前の中国の一件
TE隊員達はあの件を中国消失と呼称
そして同時期に新たなる隊員も加わりこの半年間である程度馴染んだと言える
だが何故Vがここまで機嫌が悪いのか
それはつい先月の事だ
元々マリーは極秘の任務を遂行する立場の隊員であり,中国の一件で隊員達の前へと姿を現した
それは隊員のみならず様々な組織の目にも入っていたという事
その為数ヶ月間は拠点にて身を隠す必要があった
そしてこの数ヶ月間で様々な組織へと手を回し,マリーが中国へと訪れたデータの抹消が行われた
そして先月,マリーはいつも通り自らの任務へと戻っていった
当然それは拠点からいなくなるという事
当初さっさと出て行けと言わんばかりに追い出したVだがその日以降あからさまに機嫌が悪い日が続いている
面倒臭い性格をしている
「そろそろあの季節だろ?薬をくれないか?」
「あぁ日本人は面倒だな,花粉症だろ?」
「毎年困るよまったく…」
日本出身の隊員にとっては馴染み深い花粉症
ましてや拠点内に生えている木は全て杉の木だ
何故杉の木なのかという理由は緑化活動と称してアレンが過去に植えまくったからなのだがそれが発覚した時は三日三晩隊員達に追いかけ回されていた
「一ヶ月分3000$,どうだ?」
「相変わらずひでぇ価格してんのな…零音に頼んだ方がまだ良心的だ」
「だったら好きにしろ,得体の知れないもん飲んでどうなっても知らねぇぞ」
この半年間で随分と拠点も様変わりした
新たに併設された建物には今までに無かった化学実験施設,狭かった武器整備室,そして第二医務室が建設された
Vがいるここが新しく建設された第二医務室もとい手術室
メディックである八雲が増えた為Vは専ら拠点での治療に専念する事になった
というよりこちらの方がVにとっては適性がある
任務中の応急処置等はどちらかというと八雲の方が適性が高く,戦場で暴れ回るメディックも今や懐かしい
「Vいるか?包帯をくれないか」
「…お前またアライに噛みつかれたな?」
「ただのスキンシップだ」
いつ振りかに飼い犬に手を噛まれる社長のルイス
飼い犬の躾くらいしっかりとしておけと言いたいところだ
「最近は零音との共同開発をしているみたいじゃないか」
「私の仕事は治す事,怪我も無く帰ってくる事が一番だ,ただ空いた時間を有効活用しているだけだ」
「ふむ,確かにこの半年間は特に大きな怪我をした隊員もいない,良い傾向だ」
大規模な任務も幾つかはあったがそれでも尚命に関わる様な重傷を負った隊員はいない
とは言え一時期Vが拠点から姿を消したと思ったら傷だらけのシルヴィアを連れて帰って来た事もあったが…
「例の件はどうなった?」
「…監視は続けてる,あいつらが動く様なら…」
「…分かってる,次は確実に仕留める」
「…そういや世界政府の一件はどうなった?」
「あの企業か…行方不明のままだ」
あの企業
それは半年前に中国を消失させた元凶
雷鳴重工
あの事件以降雷鳴重工の重役が姿を消した
そして今日に至るまでその所在は不明
情報共有としてTE部隊にも目撃したら情報を送る様にと世界政府から協力を頼まれている
「雷鳴重工ね…そもそも連中の目的も私らは聞かされていないし」
「どうやら世界政府も目的は知らないらしいぞ,あの中国の一件も雷鳴重工の独断での行動,そのすぐ後に消えた事を考えれば…恐らく世界政府の事も利用していたんだろう」
「だとしてもおかしくねぇか?世界政府の情報網は文字通り世界一だ,ましてや連中の抱えている最高戦力の四獣,奴らを使えば世界を滅ぼせる程だ,それなのに何故たかが連中如き見つけられない?」
「四獣の情報は俺達も不明な部分が多い,少なくとも武力行使では右に出る者がいないが捜索となるとまた変わってくるんじゃないか?」
「…だとしても妙だろ,姿を消すのはそう簡単じゃない,ましてやセントラルシティからはな」
「所在不明な事には変わりない,如何なる手段をとったかじゃなく,今をどうするかだ」
考えたところで答えが出る訳でも答えが出たとしても見つかる訳ではない
それならばどの様にして見つけるかの方が重要だ
「…早いもんだな,時が過ぎるのは」
「…そういえばシルヴィアが来てからもう一年か」
時間というのはすぐに過ぎ去る
現在は一瞬の内に過去へと変わり,過ぎ去った時間を取り戻す術は未だに確立されいない
残された時間は少ない
それは寿命の話ではない,いつまで体が動くかだ
傭兵という仕事は常に死と隣り合わせ,しかしそれ以上に恐れているもの
年齢による肉体の劣化
戦えなくなる事だ
TE隊員でも精々年齢が高くても30代だ
だが日々過酷な任務に肉体は悲鳴を上げている
傭兵として活動出来るのは良くても40代までらしい
特にルイスとVの場合はTE部隊の中でも年齢が高い
いつ自分の体が動かなくなるかという恐怖と共に生きている
更に言えばVの様子はそれが謙虚に表れている
意外かも知れないがVは体が弱い
元々は医者でそこから傭兵へとなっている
TE隊員の多くは過去の経歴は軍や別の傭兵組織
元々が戦う事を選んできた者達だ
だがVは違う
銃を握ったのは20代後半
僅か数年という経験だけだ
それでも尚Vがメディックでありながらも高い戦闘能力を誇っているのはV自身の適性
そして無茶をしているからだ
口に出す事はないがV自身は他者よりも射撃技術が劣っている事を理解しており,それを補う様に戦闘技術を身に付けた
しかしそれはあまりにも無茶苦茶な戦い方だ
本人の性格も相まって長年蝕む様に蓄積された肉体の限界も近い
それを打診したのがもう1人のメディックである八雲だ
Vが現在拠点に残り治療に専念する様になったのはそれらから判断された事だ
本人もその事は理解しているだろう
「ただいまー」
「帰ったー」
「おやつー」
「金ー」
「帰って来たなガキ共」
「ガキじゃないー」
「猛獣」
「黒卵」
「ヤブ医者ー」
「あ"ぁ"!?」
アレンとアレン擬
現在はアレン部隊と呼ばれている
見た目は子供だが妖である事には変わらない
その為戦闘能力は極めて高く,この半年間で行われた訓練によって飛躍的にその力を伸ばした
小柄で身軽,更に与えられた任務は確実にこなす為TE隊員としても立派に成長を果たした
強いて言うなら指揮系統が弱い為専ら殲滅戦等の任務にしか派遣されない
半年前に比べて人員に余裕が出来た為TE部隊は更に多くの依頼を請け負う様になった為更なる人員強化を図ろうとしている時期だ
「……思えば懐かしいな,こうやって書類に目を通すのは」
「いつ以来だ?」
「…あいつの時以来か…?」
「……そうだな」
こうして書類を見ながら誰を仲間へと引き入れるか
TE部隊ではあまり見られない光景だった
理由としては大きく分けて2つ
1つは目的の違い
傭兵組織は食いっぱぐれのない職業として見られれ事が多い
その為金目的で傭兵になる者は少なくはない
だがTE部隊にとって金はあくまでもその目的の副産物である為金目当ての連中はこの時点で候補から外れる
更に言えば扱う情報が情報の為選択は慎重に行わなければならない為この半年間にTE隊員となったメンバーはいない
そして2つ目
仲間として引き入れた後のリスク
TE隊員の多くは戦場でルイスに直接スカウトされている
それは実際に戦う様子をこの目で見てTE隊員として相応しいと判断されたからだ
その結果が現在のTE部隊
癖者揃いだが傭兵企業としての実績は計り知れない
そして現在に至るまでその志を共にし,離脱者はいなかった
………いや
正確には1人存在していた
それを語るには暫し時間を巻き戻す必がある
まだTE部隊が組織ではなくただの傭兵だった時代
それを知っているのはここにいる3人
ルイス,咲夜,Vの3人だけだ
今となっては触れられる事もない過去
かつて志を共にした仲間
だがそいつはもう存在していない
何故ならば志を違えたからだ
それが意味する事は語らずとも分かるだろう
同じ志を持てない者は組織には不要
不要となれば導き出される答えは死だ
かつてはその戦闘能力,指揮能力の高さ故にTE隊員となった者がいた
その名はサクヤ
そしてその最期を語るとしよう
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