-War 10- 堕ちた国 後編 Ⅱ
【Phase2:抗う者達】
「…ちょっと待て,今なんて言った?」
「私も同じTE隊員って言ったのよ,知らなくても無理はないわ,私が隊員なのを知っているのはルイスだけだから」
今度は自称TE隊員と名乗る女が現れただと?
「…証明しろ」
「いいわ,イーミュイ…だったかしら?私が嘘を言っているかどうか心を覗いて」
「はいな〜…うーん……確かに嘘は言っていませんねぇ…」
イーミュイの読心でも嘘は吐いていない事が分かった
更にイーミュイの能力を知っているとなると少なからず関係者ではありそうだ
「直近だとアレン…だっけ?数が随分と増えたみたいね,ここへ来た目的は鈴々という女性の部隊と合流及び中国内部の情報収集,まだ他にも何か確認する?」
「…いや,少なくとも私らの事を知ってるんだ,隊員かはルイスに確認すればいい,肝心なのは何をしに来たかだ」
「作戦前にルイスから言われていた筈よ,知り合いも中国へと向かっているって,私の任務は万が一3日が経過して合流地点に貴女達が来なかった場合の保険,つまり助けに来たって事」
「…その割には私らと同じく捕まってる様に見えるけど?」
「探すよりも案内してもらった方がいいと思ったからね,イーミュイそっちの薬品渡して貰える?」
「これですかー?はいはいー」
「…その薬品はマリーが仕込んだのか?」
「いいえ私じゃない,協力者…というより同じ志を持った内通者ね,そっちの試験管に入っているのは濃塩酸,こっちのは私が持ち込んだ濃硝酸,この2つの薬品を化合させれば…」
この薬品を用いて作られる物
化学に疎い私だって知識として知っている物だ
金すらも溶かす薬品
王水の調合に必要な2つの薬品だ
「さて…脱出するのに必要な物は出来たわね,あとは待ちましょう」
「待つ?何をだ?」
「…今回の戦争は止められない,今の私達の力ではね,戦争は必ず起こる,その騒動に乗じて私達はここから脱走する」
「何故戦争が止められないって分かる?」
「私の協力者の考えよ,今私達に必要なのは生き延びる事,脱出した後は中国から出来るだけ離れるわ」
「ちょっと待て…確かにマリーがルイスの言う協力者ってのは少なからず信用は出来る,だけど私らは戦争を食い止める目的もあって今回中国へとやって来たんだぞ?」
「遅過ぎたのよ,私達が戦争を止めるのには遅かった,今この瞬間にも戦争が始まるまで刻一刻と時間は過ぎていっている,今私達がするべき事は戦う事じゃない,生きる事」
「ルイスの考えか?」
「いいえ,私がルイスから頼まれていたのは貴女達を助けにくる事,そこから先は私の協力者…零音の考えよ」
「零音…だって?」
零音の考え?
私らを裏切った零音が?
いや,裏切った訳ではなく必要だったからか?
訳がわからない
だが辻褄が合う
私らは司令殺害の濡れ衣を着せられてこの独房へと入れられた事を知っているのは確かに零音だ
そして独房にいる事を知っていれば食糧に紛れさせて私らに薬品を渡せる
ましてや零音は化学兵,薬品には詳しい
そして時を見計らってマリーにもう一つの薬品を持ち込ませて私らと合流させる
これで脱出する準備は整う
「隊長ー,今まで黙っていましたけど確かに零音っちは私達を裏切る様に姿を消しました,けれど本当に裏切るつもりはなかったみたいですよー?私には零音っちから伝えられてましたからねぃ」
「伝えられていた…?」
「私の力は零音っちも知ってます,心を読む力,ですからその力を使って私だけには計画を伝えてくれましたねぃ,そしてマリーさんが来るまではその事を黙っていて欲しいとも」
「…つまり私らは今零音の計画で動かされている…という事か?」
「確かに零音を信用するのは難しいと思うわ,けれど彼女は決して間違った事はしない,貴女がイレギュラーを作戦に組み込むのなら零音の作戦は張り巡らされたイレギュラーの入る余地がない完璧なもの」
「…今は信じるしかないか…」
「それにもし零音が私達を殺すつもりならとっくに殺してる,それをしなかっただけでも信用する価値はあるわね」
確かに考えたら零音には信用を置くだけの価値はある
私自身が信じる事をしなければ信用なんてできる訳がない
目的はどうであれ私らは生殺与奪を握られたにも関わらず生かされた
今はその現実だけで信じる理由には十分だ
零音が直接私らを助けない,いやもしくは助けられないのには理由があるはずだ
私らが独房に入れられている理由を考えるに少なくとも零音は自分が殺した証拠を残したはず
そうでなければ殺したと思わしき私らを皆殺しにする筈だ
証拠を残しながら逃げる事によって私らから情報を聞き出そうとするはず,つまり処刑されるまでの時間稼ぎになる
「…マリーは零音と出会ったのか?」
「えぇ,じゃなかったら貴女達の居場所と手筈を知らないもの」
「零音は今どこに?」
「居場所は知らない,3日前に私は零音と合流して作戦を伝えられた,その後一旦零音とは別れたの,野暮用を済ませると言い残してね,そして今日再び合流して作戦を決行する事になったわ」
「野暮用っていうのは?」
「私は知らないわ,けど零音は潜入のプロ,私が今日合流して伝えられたのは戦争は止められない事,私がここへ来てから数時間以内に騒動が起こる事,そして…今日の日没までに中国から必ず離脱する事」
「…どういう事だ?今日の日没に何がある…?」
「…詳しくは知らない,けど私達に残された時間は今日の日没までという事よ」
「…分かった,情報収集する時間はない,私らはこの後起こる騒動に乗じて脱走を図る,鈴々,武器庫はどこにあるか分かるか?」
「……武器庫よりも良い場所があります,保管庫なら私達の様に捕らえた人からの装備が幾つか保管されてるし武器庫よりも警備が緩いです」
「じゃあ装備はそこで調達,次に脱出する時には足が欲しい」
「そこは任せて,5km離れた場所に私の車輌が隠してある」
「じゃあ目標地点はそこだ,だがこの拠点から脱出するのにも車輌は必要だ,解放軍の車輌を奪取する,恐らく騒動が起こった際には独房にも確認が入る筈,私らはそいつらを蹴散らして保管庫へと向かう,確認までの時間は稼げるが装備を調達してる間に私らの脱走は気付かれるだろう」
「二手に分かれるというのはどうだい?」
「二手に分かれて捕まったら助けられる保証はないし助ける選択は取れない,全員で行動を共にしてた方がリスクは少ない,あとは…マリー近接格闘の心得は?」
「任せておいて,手荒な事は慣れてるから」
そうこうしている間に警報が轟く
恐らくこれが騒動の合図だ
「マリー,鉄格子を溶かして扉を開けておいてくれ,私らはそこら辺の死体に身を隠すぞ」
「死体にぃ!?」
「3日もシェアハウスしてたんだから慣れただろ?死ぬよりはマシだ」
私らは各々死体に身を隠す
これで私らは脱走した様に見えるはずだ
暫くすると階段を降りてくる足音が聞こえた
数は…2人か
死体の影から姿を視認する
真っ先に開けっぱなしにされている扉へと進んでいった
今だ
「いない…?そんn」
「こいつ…ガハッ!」
「…お見事」
「さて…鍵は……見つけた,こいつら殺しておく?」
「いや…縛って独房に入れておこう,無意味に殺す理由はないからな」
「分かったわ,はい釈放っと」
「一丁は私が持つ,もう片方は水瀬が持ってくれ」
「分かったよ」
「トランシーバーも貸してくれ」
「…どうするの?」
「トランシーバーってのは一つが交信中だと他は使用出来なくなる,だからこうやってスイッチを固定して置いておけば時間が稼げるって訳さ」
「…それじゃあ早いところいきましょうか」
独房を出て外の様子を伺う
随分と兵士が慌てている
それも装備をしっかりと着込んで
「……よし行ったな,鈴々保管庫は?」
「角の階段を上ってください,突き当たりの部屋がそうです」
兵士の数は少ないし警戒も緩い
保管庫の内部へと侵入する
中は薄暗いがそこかしこに乱雑に置かれた銃が目に入る
「私達のは…これですね」
「私のも…これね」
「さて…私らはどうするか」
「ほぼ全部中国製だし…使い慣れてる方がいいんじゃないかしら?」
「いや……待て,これ見ろ」
「うん?……明らかにおかしいね…」
乱雑に置かれている中,角に二丁のライフルとショットガンが立て掛けられている
「Tire6製…それも手入れもされている…」
「カスタムも施されているね,それも私達が普段使ってるカスタムだ」
「…というかこれ普段私らが使ってるやつじゃないか?」
「おー!私のカルネス砲!」
見間違える筈がない
私らが普段使っている
いや,私らの銃そのものだ
その横には1枚の手紙
ただ"プレゼント"と書かれておいてある
「…零音か」
十中八九零音が用意したものだろう
しかしここに準備されていたのは紛れも無い私らが普段使用している銃だ
つまり零音は既にTE部隊と合流している?
そうでなければ私らの武器を入手する事なんか出来ないだろう
零音は司令を殺した後一度拠点を離れてマリーと合流,そしてマリーと別れた後にTE部隊とコンタクトを取り再び戻ってここへ銃を準備した…という事か?
だとすれば零音も案外近くにいるのかも知れない
「………!!!!」
「見つけたわ,殺人犯」
「紅……さん……」
突如扉が開かれ私らへと銃口が向けられる
こちらが構える余裕もなかった
「良かったわね零音,多少なりとも罪は軽くなる」
「えぇ,私の情報は確かですからぁ」
「零音……ッ!」
紅の背後には零音の姿もあった
状況だけを見れば零音は私らが保管庫へ来る事を予想してそれを紅へと密告した
そして今こうして私らは銃を向けられている
2度目の裏切り
いや違う
恐らくこれは零音の作戦だ
「………!?」
「………なんだ?」
空気が一気にピリつく
これは殺気だ
私や紅のものではない
それよりも更に強い殺気
そしてその正体
空間が避けその正体が現れる
「……V!?」
「はぁっ………はぁっ…………くそっ……」
「はろはろ〜?助けに来たのと連絡を伝えにきたよ〜」
「白狐まで……」
「Vさんに白狐さんご協力ありがとうございますねぇ」
「……これも零音の作戦か?」
「えぇ,どうやらここまでは私の予想通りの展開になりましたねぇ,理由を話しましょうかぁ」
私の予想通り
零音は裏切るつもりはなく敢えて裏切った様に見せかけたらしい
本当にここまでの事をやれるとは…敵だったらと思うとゾッとする
だがこれで確証は得た
零音は味方だ
「くそっ……」
「あの……大丈夫です……か?」
「誰だてめぇは…」
「私は八雲,メディックです,見せてください」
「いらねぇよ…医学じゃどうにもならねぇ…」
「…あいつどうしたんだ?」
「私の亜空間はこの前説明したでしょ?本来なら私1人でここに来る予定だったんだけどねぇ…Vが連れて行かないと殺すって脅すもんだから無茶して亜空間を通ってきたんよねぇ」
「何やってんだほんと…」
「とりあえず,零音は私達の協力者,もとい味方であるって社長は判断してね,それで今は零音の作戦で行動してる感じ,社長達はここのポイントで待機してもらってる,合流したらすぐに輸送機で飛び立つ準備は出来てる筈だよ」
「手際がいいな,というかこのまま白狐が送ってくれてもいいんじゃないか?」
「え?亜空間通って?死ぬ?」
「……それは勘弁だな」
「そいじゃ私は社長のところに戻るね〜,もし何かあったら…って心配は無さそうだけど,何かあったら助けにくるね〜」
「あぁ…必ず向かうと伝えておいてくれ」
これで目的は決まった
解放軍拠点から脱出し,私らはルイスの待つ座標へ向かい合流して中国を離脱する
ここまで準備されているところを見ると零音も相当な策士の様だ
「…ところで零音,一つ聞きたい,何故日没がタイムリミットなんだ?」
それを聞いて零音は口を開く
「それはですねぇ…日没のタイミングが戦争の終わり……いえ,始まりを意味するからですよぉ」
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