-War 9- 堕ちた国 中編 Ⅰ

【Phase1:味方の条件】


「…何故私達の拠点の座標を知っていた?」


一気に雰囲気が凍りついた


それもその筈


イーミュイ,そしてステラの2人は墜落という形でTE拠点のある島へ偶然来たわけではなく,零音から座標を聞き,そして辿り着いたという事だからだ


何故TE部隊の隊員でもない零音が島の存在を知り得ていたのか


何が目的で2人をTE部隊へと送り込んだのか


真っ先に思いつく事は当然,敵である事


島の存在を知り,2人を送り込んで情報を盗む


その考えに至るのは自然だ


「ん〜少し違いますねぇ,確かに私は2人に島の座標は教えましたよぉ?けれどあくまで私が島の存在を知っていたのはその島を偶然発見したから,無人島だと思ったので行く場所のない2人に教えたまでですよぉ?」


確かに零音が言っている事は納得がいく


それでも尚怪しい事には変わりはない


「…どうやって知った?あの海域はサメがうようよといて物好きな奴くらいしか近寄らない様な場所だ,そんな海域を目的も無くいたとは考えにくい」


「当然簡単には信じて貰えませんよねぇ…私自身も目的がなくあそこの海域を通っていた訳ではないんですよぉ?知人が家出をしたい…そう聞いたので私はセントラルシティから別の大陸へと向かうお手伝いをしてましてぇ,その途中船が難破してしまってその子とは逸れてしまって私自身も海で溺れかけました,けど意識が途切れる前に大陸をこの目で見ました,それが偶然にも貴女達TE部隊の島とは思いませんでしたねぇ」


「家出…船が難破……?もしかしてその知人の名前って…」


「シュガー・ラーシアス,最年少でウェポンマスターの称号を得た天才少女ですよぉ」


シュガーの家出にも関わっていたという事らしい


偶然にしては不自然過ぎる


ますます怪しさが増すばかりだ


「シュガーちゃんをご存知…という事はあの子は島へ辿り着いたんですかぁ?」


「確かにシュガーは今はTE隊員の一員になっているよ,それにしても不思議だね…結果的に3人をTE部隊と巡り合わせている,偶然にしてはあまりにも不自然過ぎないかい?」


「それこそ神のみぞ知るという事ではないでしょうかねぇ?現に私も貴女達とこうして巡り合っているんですよぉ?」


「…今はよそう,考えても埒がないし本当に偶然かも知れない,答えを出すのは任務が終わってからでいい」


「そうやね〜」


今はとにかく状況が悪い


中国政府の部隊に追われている身だ


鈴々達の部隊と合流が出来たのはいいけれどあくまでそれは作戦の序の口


ここからは情報収集をしなくちゃいけない


「丸越しじゃ心許ない…武器か何かあると助かるんだけど…」


「それなら私達の拠点に向かいましょう,隊員達の残してくれた武器がある筈です」


「本隊との合流はどうしますか?」


「まずは装備を整えないといざという時に後悔するからね…八雲と零音も今の装備じゃ戦闘は厳しいですよね?」


「そうですねぇ,あの人達に追いつかれたらすぐに弾切れしてしまいますねぇ」


私達も今は武器が欲しいところだ


いざという時の為に…ね


鈴々達の部隊と合流したのは幸運だけれどこの零音という人物については謎が多過ぎる


本当に偶然なのか,意図的なものなのか


それすらの判断も出来ない状況


場合によったら敵となり得るかも知れない


「陽が落ちる前に行きましょう,暗闇では私達の姿は丸見えですから」


「そういや連中暗視ゴーグルも持ってたな…」


廃墟から出て目的地へと向かい始める


その間にも私達は次の手段を考える必要がある


「…零音をどう思う?」


「…偶然…で片付けるには異常よね…」


「シルヴィアはどこで出会ったんだ?」


「以前の任務でね,核ミサイルの件覚えてる?あの施設で偶然遭遇したの」


「バグの施設か…目的は確か同じと言ってたな…」


「それも今考えると変よね…」


変だと思う要因


それは何故鈴々の部隊の隊員である零音がバグの施設に潜入していたのか


中国は内戦が続いている


そんな状態では兵器の開発もままならない,ただ弾薬や武器の供給で手一杯だと思う


その為使用するには即時投入可能なもの


それこそV達が行ったように兵器の鹵獲が有効な手段で鈴々自身もブレイク部隊に襲撃を仕掛けたのは兵器の鹵獲だと言っている


じゃあ何故零音はバグのデータを欲しがったのか?


手に入れたとしてもバグの使用するバイオ兵器はそれなりの設備と技術が無ければ生産もできない


つまり鈴々達中国解放軍にとっては不要な物の筈


「鈴々,バグってテロリストを知ってるか?」


「バグ…確かバイオ兵器を使用するテロリスト…でしたよね?」


「解放軍は何故バグの研究データを欲しがったんだ?」


「はい?そんな話聞いていないですけど…」


「以前TE部隊の作戦中にシルヴィアが零音と遭遇しているんだ,同じ目的でね,てっきり解放軍が欲しがってるんだと思ったけど…?」


軽い揺さぶりをかける


何か秘密にしている事があるなら多少は動揺するだろう


しかし零音はその様な様子がなく,平然としていた


「あ…もしかしたらまだ私達の部隊に来る前かも知れません…」


「私が鈴々さんの隊に来たのは秋頃…シルヴィアさんと会ったのは夏頃でしたねぇ」


「って事は零音はまだ隊に属してから日が浅い隊員なんだ」


「そうですよぉ?」


「…以前は何を?」


「乙女の秘密ですよぉ?」


そう簡単に情報は引き出せない…か


裏を返せば研究データを必要としていた組織に属していた事になる


「それに…貴女達の中にだって知られたくない過去をお持ちの方はいますよねぇ?」


「…………」


それは確かにその通りだった


私もそんな1人だ


私は元々傭兵という職に就くことを考えてもいなかった


普通の生活を送りたかった


しかしそれが叶わなかったのは特殊な体質の為だ


私の肉体はあらゆる環境にも適応するという不思議な力


皆に合わせた呼び方をするなら異能と呼ばれる力を開花させていたからだ


幼少期の頃から私は世界政府の施設での生活を余儀なくされた


目的は私の体の研究という名目で


何年もの間身体を弄くり回される生活を送っていた


普通の生活を送るという夢はこの時に捨てた


何年もの研究の末に私の力は結局特定が出来なかった


それどころか私の身体のDNAに不明な種族のDNAが混ざっているのが発覚


危険と判断されて私は廃棄される筈だった


それでも尚私が今も生きている理由


それこそが私の知られたくない過去


私は角と翼の生えた奴に命を救われたのだ


私が廃棄される日


あの人は私の目の前へと現れた


『助けに来た』


交わされた言葉はそれだけだった


目的は分からない


けど私が助けられたのは事実だ


私がTE部隊で隊員として在籍している理由は奴らを殺す為じゃない


ただあの時の理由を聞きたい


それだけで他の隊員とは目的が異なっている


「……イーミュイ,何か分かったか?」


「んやぁー…何故か心が読めないんですよねぇ…というよりも心の中を読まれない様にしている…の方が正しいですねぃ」


危ない,そうだった


イーミュイは人の心を読める力を持っているんだった


私に意識が向いていなくてよかった


「私は詮索されるのは好きじゃないんですよぉ?だからその為には嘘だって吐きますよぉ?ふふふ」


「まぁ…この際過去だったり目的だったりはいいか…」


「逆に尋ねますけどぉ,味方の条件ってなんでしょうねぇ?」


味方の条件


同じ目的を共有する事?


同じ敵を持つ者?


「そうだな…私らの目的は戦争を無くす事,まずそれが一番の目的,当然他の目的を持つ隊員もいるが…根本的に戦争を無くすという目的があってこそだ」


「同感ですよぉ,戦争を終わらせる…それには同意出来ますねぇ,それがあればお互いの過去なんて小さな問題じゃないですかぁ?」


「とは言っても平然と嘘も吐きますって奴の言う事はなぁ…」


「もちろん私は嘘を吐きますよぉ?けれど志に嘘を吐いた事はありませんねぇ,鈴々さん達の部隊に入る時も同じく嘘は吐いてませんよぉ?私はただ魔族の力を滅ぼしたいと…同じ志の元に集まりましたねぇ」


「色々と疑う事もあるかと思いますけど零音さんの実力は凄いですよ?まだ新人なのに優れた力を私達の為に発揮してくれてますから!」


「やはり貴女達の様な人達には実力で示した方が良さそうですねぇ」


「一先ずは頼りしてるよ,零音」


社長は鈴々達を仲間に引き入れる事を決定した


しかし今はまだ味方ではない


一時的な同盟だ


完全に信用出来ないのは鈴々や八雲も同様だ


「そういえば皆さん怪我はしてませんか?」


「おかげさまで」


「もし怪我したら私に見せてください,これでも医師免許は持ってますから」


「そういえば八雲さんはメディックだったかしら…私達のメディックとは大違いね…」


「治療は荒いしすぐにキレるし,代わってもらいたいくらいだね」


「あとでVに言っておくね,荒川」


「頼むからやめてくれ,まだ死にたくない」


「Vさん……同じメディックとして興味が湧きますね」


「あいつは腕は確かだよ,治療は荒いけど元医者なのは伊達じゃない」


「…元医者という事は内科医とかですか?」


「え…いや〜……そこまでは聞いてなかったけど…確かに普通に風邪引いた時も診断してたなあいつ…」


「私は医師免許は持ってますけど医者ではなかったですからね…憧れちゃうなぁ…」


「八雲さんは何故メディックに?」


「元々医者にはなりたかったです…けど普通の医者では助けられる人も助けられない…だから私は傭兵として戦場で命を助ける医者になりました」


「なるほどね,まだ若いのに…って言い方はおかしいけれど立派だと思うわ」


「ありがとうございます,Vさんってどんな人なんですか?」


「そうねぇ…咲夜が一番付き合い長いんじゃないかしら?」


「あー?Vの事って…何話せばいいんだ?」


「どの様な人です?」


「猛獣」


「ぷっ…くくく……」


「てめぇぶっ殺すぞ荒川」


「うわぁ!?イーミュイ!!頼むからいきなり驚かすのはやめてくれ!」


「あはは〜,やれと言われた気がしたので」


「まぁ態度は悪いし口も悪いし治療もくそ痛い,けど腕は良い,戦闘でもメディックなのにわざわざ前線に出てくるわ些細な事でキレて怪我されるわ人肉も食うわで…けどまぁ,大切な仲間だ」


「…凄い…私もまだ頑張らなくちゃ…!」


「まぁあいつを参考にするのはどうかと思うけどな,同じ女として」


「え?私…男ですけど?」


「男ぉ!?」


「男の娘!?」


なんてこった


外見は女の子そのものだ


え?本当に男の子?


「ちょっと下脱いで貰っていいー?」


「はぃ?」


「おいカリフォルニア,変な癖出てんぞ」


「カルネスだよ!!!」


おっとしまった


ついついいつもの癖が出てしまった


「びっくりしましたよ…えっと……カルロスさん?」


「カルネスだよ!!カルネスヴィーラ!!!」


「ごめんなさい…急に下を脱げなんて言われて気が動転しちゃって…後でで良いですか?」


「え?見せてくれるの?」


「ほらやめろお前ら,一応言っておくがこの国はどこも戦場だぞ?」


「ふふふ…すっかり打ち解けてますねぇ」


「ところで零音さんは化学兵なんよね〜?何やるの〜?」


「そうですねぇ,私の分野としては主に致死性,非致死性の薬物を用いた戦闘,潜入を担当してますよぉ」


「潜入…って事はソフィーや美香と同じ感じか,それにしても薬品か…うちにはいない人材だな」


「珍しいと思いますよぉ?特に潜入…情報は傭兵にとって武器になりますからねぇ」


情報は傭兵にとっても有利な武器となり得る


私達TE部隊が任務で戦場で行くのは最終手段,もしくは牽制が目的


ではそれ以外はどうするのか


TE部隊に舞い込む依頼は多い


その大半は敵対する組織の牽制と抑制


主に自分達の収益を目的に戦争を起こす企業や傭兵


その際に情報は武器となる


話し合いで終わればどれだけいいか


とはいえ私達がやっている事は力での抑制に近い


必ず反発する組織も出てくる


「それに…薬品って便利ですよぉ?情報を手に入れてその情報を武器に交渉する…それでは不十分ですよねぇ?組織っていうのは…内部が一番脆いんですよぉ?」


「…どういう事だ?」


「もし内部の人間が機密情報を話しているビデオが発見されたら…どうなるんでしょうねぇ?」


「…そういう事か…確かにそれなら内部で亀裂が生じ自滅を誘発出来る…という事だね?」


「えぇ,その通りですよぉ」


確かに交渉よりもより効果的な手段ではある


けど倫理観的には問題があるとは思う


「とはいえあくまでそれは私にとっての最終手段ですよぉ?普段は普通に依頼された情報を手に入れる事だけですからぁ」


「…確かに私と会った時には情報だけを持っていってたわね…それにしても化学兵というのは恐ろしいわね…」


「けど私は医学にも詳しいですよぉ?バイオ兵器の解析及び解毒も私の役目ですからねぇ」


私は零音という人物はかなりの危険な印象を抱いた


…いや,私達も同じだ


突出した力を持ち,隊員の多くは組織に馴染めず,厄介者として放り出されてTE部隊へと集まった


ある意味零音と私達は同類なんだろう


「奴らにも薬品が効くかは分からないですけどねぇ」


「そもそも薬品を盛る前に死にそうだけどね〜」


「…さて,ここまでは問題なく来れましたね…到着です」


気付けばとある建物の前まで辿り着く


恐らくここが目指していた場所


鈴々達の拠点だ


「私達の拠点…名前は…」


「トレイター…トレーラーを何台もくっ付けて改造して尚且つファミレスの資材も使ったのでウェイターと合わせて名付けてみましたぁ」


「まずは中に入りましょう,少しはゆっくり出来ますよ」

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