-War 2- 事故と奇跡はいつでも起こる Ⅱ

【Phase2:白狐】


「退け!邪魔だ!!」


「きゃっ!?なんなんですか!?」


「負傷者よ!あと荒川さんの釈放の準備を社長に伝えて!」


「えっ?えっ??えぇぇぇえ!?」


運ばれながら騒然としている人々の声が聞こえる


そりゃそうか


車に轢かれたんだもんね〜


どうも,轢かれた被害者です


何千年と生きてきたけど車なんかに轢かれたのは初めての経験だった


あんな衝撃で人間は死んでしまうんだからか弱い生物である


「なんだなんだ…って誰だそいつ」


「荒川が轢いた被害者だ,容体はかなり危険だ,医務室には絶対に誰も入れるな」


「あー…まーた書類が増えるわ…」


どうやら聞こえてくる声からしてどこかの組織の様だ


そのまま病院にでも連れて行ってくれればすぐに逃げれたのにこれまた面倒だ


まぁ目を離した隙にぱぱっと逃げ出してまた何か食べてこよう


TE拠点/医務室


随分と薬品の匂いが強い


まるで病院みたいだ


黒髪の女は私を寝台に寝かせるとさっそく治療をするのかと思ったがそうでもないらしい


タバコに火をつけ椅子へと腰掛けている


「…で?お前は何者だ?」


「……………」


「隠さなくていい,ヘリの中でお前のDNAサンプルを取った,人間でも獣人でも無い,どちらかと言えば狐に酷似している,お前妖だな?」


「なーんだ…バレてらぁ…」


「実物を見るのは初めてだ」


そういえば血液を取られてたなぁ


ミスった


もしこいつらが連中の仲間だったら…


「悪いがこの医務室で殺気を放つのは御法度だ,私は医者としてのプライドがある,この場で暴力的な事は厳禁だ」


「へぇ…面白いね人間,私の知る人間は妖を恐れるものなんだけど?」


「妖だろうが人間だろうが怪我してれば患者だ,まぁお前は怪我つっても擦り傷くらいだろうが,それに私はお前が怖くないな」


「ちぇっ,つまんないなぁ…」


長い時間の中で人間も変わっていったなぁ


随分と妖…未知の存在への恐怖を忘れてしまった様だ


まぁ別に恐れられるのが好きな訳でもないけど


「で…だ,お前は何者だ?」


「ん〜…白狐,とでも名乗っておこうかな,不運にも君らに轢かれた妖だよ〜」


「まぁそれは間違いないな,あいつに代わって謝罪しておく」


「それじゃあこっちから質問,何者?」


「私らはTrue Eyes Mercenary Company…聞いた事あんだろ?戦争を終わらせる戦争屋,ただの傭兵組織だ」


「ふぅん…世界政府とかの?」


「いや,あいつらとは別だ,敵でも味方でもないがな」


ふむふむ,連中とは繋がってなさそうだ


どうやら無駄な血は流さなくてよさそうかな


万が一世界政府と繋がってた時は全員殺すしか無いけど


「V,入ってもいいか?」


「ルイスか,構わねぇよ」


医務室へまた1人人間がやって来る


「ん…?あれ?」


「お前……白狐か?」


「あ?なんだルイス,知り合いか?」


「まぁ昔色々とね〜,それにしてもあの時の小娘が随分と大きくなったねぇ?」


「お前らとは時間の流れ方が違う,お前はまるで変わらないな」


まさかルイスが傭兵組織の社長になってたなんてねぇ


いやぁ昔の事が昨日の事のように思い出せる


あの時は私もお腹が減り過ぎてとある紛争地域に顔を出した時だった


まるで手応えの無い奴らの中に1人


唯一私に傷を負わせたのがまだ小さかったルイスだった


何百年も血を流してなかった私はその事を大いに喜んだ


昔の人間の様に私と戦える人間が残ってたなんて…って喜びの方が大きかった


私は戦いが好きだ


好きで好きでたまらなくて毎日戦っていたらいつしか私とまともに戦える存在がいなくなった


元々強過ぎたのもある


けど人間が自ら弱くなった


私はいつしか戦いを楽しめなくなっていた


退屈な日々


今じゃ何か美味しい食べ物を食べるのが唯一の楽しみだった


「それにしても荒川がお前を轢いたらしいな,すまない」


「ん〜?別にいいよ〜,代わりに何か食べ物ちょうだい?」


「あぁ,V,干し肉を分けてやってくれ」


「あー?何で私が…まぁこの前大量に作ったからいいけど,ほらよ」


「ありがとね〜いただきまぁす」


一口,二口


「…!美味しいじゃん!」


ただの干し肉だと思っていたがそうじゃない


噛めば噛むほど旨味が溢れ出して来る


こんな干し肉は店ではまず買えないだろう


「好きだろ?お前ら妖は」


「ん〜いいねぇ,この味はやっぱり何度食べても飽きないよ,新鮮な肉もいいけどこういう食べ方もあるんだね〜」


「だろ?人肉」


やっぱり人間の肉は何度食べても美味しい


血が滴る肉を絶命前に食べるのも美味しかったけどこんな風に干し肉にしても美味しいなんてやっぱり人間はいい食糧だ


「全く考えられないな…人間の肉を好んで食う奴らは…」


「ほっとけ,で?ルイスは何しに来た?」


「あぁ,アライの奴に噛まれてな」


「ったく,犬の躾くらいしっかりしておけ,何度目だ?」


「飼い犬に手を噛まれるって言うだろ?」


「そういう意味じゃねぇよ,ほら包帯」


「ありがとな」


「へぇ〜犬飼ってるんだ?通りで…」


「通りで?」


「何か犬臭いなぁ…ってね」


この島はやたらと犬臭い


まぁ本人達がそれに気付いてるかは分からないけど…ね


「ん〜?何か飛んでる」


「あ…?美香のドローン…あいつら……」


Vが勢いよく医務室の扉を蹴り飛ばす


「てめぇら…何やってんだ?」


「いやぁ…えへへ?」


「歯ぁ食いしばれ」


あーあドタバタうるさくなってきた


さっき医務室で暴力的な事は厳禁だって言ってたのになぁ


「ったく…で?てめぇら何しに来やがった?」


「いやぁ私と言うよりコノエが…」


「やっぱり…昔ファイルで見た姿だわ…!」


「うん?ファイル?」


「えぇ…世界政府の」


こいつ見覚えがある


世界政府のエージェントだ


やれやれ,本当に面倒くさい


「ツッ……」


「…へぇ…!」


人間を殺すのに武器なんか必要無い


ただ爪で腹部に風穴を開けてしまえばそれまでだ


私は今目の前のコノエという人間に向けて拳での突きを放った


本来ならここには血溜まりが出来ているだろう


けどそうはならなかった


目の前のこの女が私の爪をナイフ一本で止めたからだ


「随分といきなりね…」


「ん〜?私はただ邪魔になりそうな人間を殺そうとしただけだけど?」


「おい…てめぇら暴れるなら外でやれ」


さっきまで人の事ぶん殴ってた医者が何か言ってる


「落ち着けお前ら,流石に俺もここで殺しをされたら相応の措置を取る事になる,白狐,何が問題だ?」


「こいつは世界政府のエージェント,つまり私の敵だ」


「ち…違うわ…私は…」


「なるほどな,コノエ,話してやれ」


「…私は確かに世界政府のエージェントだった,けれど世界政府が正義かは別の話,私は昔とある国の軍人で私の国は戦争に負けて滅んだの…その後偶然にも近くにいた獣人が世界政府の最高戦力の4人…角と翼の生えた奴に殺されかけていた私を救ってくれたわ…その恩義があって私は世界政府のエージェントとして長年活動していた…けれど私の国が滅んだのは…いえ,その戦争自体が仕組まれていたの…世界政府にね…」


「最高戦力…?お前四獣と会ったのか?」


「えぇ,世界政府の持つ最高戦力,彼女達4人でやっと角と翼の生えた奴を撃退に追いやったわ…」


あぁ…なんてこった


こんな所で連中の事を聞くとは思わなかった


四獣…世界政府の最高戦力の4体


青龍


朱雀


白虎


玄武


文字通り四神だ


それらが世界政府の最高戦力


連中の力は私が身をもって知っている


私では歯が立たない


それもそうだ


連中は必ず4体で狩りをする


単体ですらイカれた力を持ってながらそれが4体もいやがる


私が弱い訳じゃない


私ですら逃げる事しか出来ないんだ


そしてあの4体でようやく撃退に追い込んだ角と翼の生えた奴


奴らはあの4体よりも更に強い


いつぶりだろうか


血が沸る感覚を思い出す


戦ってみたい


「まぁそういう訳だ,コノエは俺達の仲間だ,角と翼の生えた奴は俺達の人生を狂わせた元凶だ,確実に息の根を止めてやる」


いい事を知った


どうやらルイス達,TEはこの角と翼の生えた奴とは因縁関係にあるらしい


つまりこいつらと一緒にいればいずれ交戦する機会があるって事だ


「…なぁ白狐,お前の力があれば俺達は更に戦力の強化になる,どうだ?」


「ん〜…却下かな」


私は元々自由を好む


何かの組織に属するのには嫌悪感を抱いている


それは今までと変わらない


精々私がやれる範囲といえば…


いや,そうか


「組織には属さないけど協力してあげてもいいよ,ただ条件がある,さっきのそこの金髪の女,一戦やらせてよ」


さっき私の一撃を偶然か奇跡か,はたまた実力か


何はともあれ止めた


そんな人間がまだこの世にいるとは思わなかった


それならば私は一戦交えてみたい


戦うのは好きだ


だがそれ以上に私は強者との戦い…


いや,死場所を求めているのかも知れないね

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