破滅を回避できなかった(元)悪役令嬢、再転生してモブになってしまう
遊川率
プロローグ 前世の最期
……わたしは成功して、そして失敗した。
わたしがこのゲームの悪役令嬢〝エレノア・フィオーレ・ノヴァレンシア〟として最後に見た記憶は、王女であるわたしを殺しに来た暗殺者の姿だった。
「ごめんなさいねぇ、あなた個人に恨みはないのだけれど、これもお仕事だから」
その暗殺者の存在はゲームの知識では知っていた。
本来なら
ヴェールの死神。
セリーヌ・ヴェルノア。
黒いドレスを着て、黒いヴェールで顔を隠した女の暗殺者。この国の裏社会で最も怖れられる手練れの暗殺者だ。
「……な、んで。わたしを――?」
息も絶え絶えで、いまにも意識がなくなりそうな中で、わたしはそいつに問いかけた。わたしは胸を刺されて、床に倒れている状態だった。
「まぁ依頼人のことはあんまり喋っちゃいけないんだけどぉ……あの世への手向けに、特別に教えてあげるわぁ」
ヴェールの向こう側で、女に嗤うような気配があった。
「あなたはとてもうまくやったわ。あれだけ根強かった地方貴族と中央貴族の格差を是正して、地方貴族から大きな支持を得た。けれど……うまくやり過ぎてしまったわねぇ。この国の昔ながらの中央貴族たちから見れば、あなたは既得権益を破壊する疫病神でしかなかったということなのよねぇ、これが」
「……」
わたしは革命によって〝破滅〟するはずだった。
だから、その革命を防ぐために色んな努力をした。
地方貴族の反乱により旧態依然とした王室中心の中央集権態勢が崩壊し、悪役令嬢エレノアは悪名高き王族の一人として処刑される――そういう筋書きだった。
それをせっかく回避した。
全部うまくいっていた。
なのに――
「あなたは足元をちゃんと見ていなかった。それがこうなっている原因よ」
ふふ、と暗殺者は嗤った。
何がおかしいのか。
腹立たしくてしょうがなかった。
でも……それ以前に、どうしようもなく涙が止まらなかった。
「……どうして、あと一日――あと一日待って、くれなかったの――」
明日、わたしは結婚するはずだった。
花嫁衣装を身につけて、彼と永遠の愛を誓うはずだった。
なのに、どうして。
どうして。
どうして!!
叫ぼうとして、代わりに口から吐血した。
目の前がどんどん暗くなっていく。
……嫌だ。
こんなのあんまりだ。
なんでこうなるんだ。
わたしはうまくやったはずだ。やったはずなんだ。
でも、それが原因で死ぬって……はは、なにそれ。
じゃあ、わたしがしてきたことってもう、全部無駄だったんじゃん。
ああ、悔しい……。
ついさっきまで描いていた夢も幸せも、泡沫のように消えていく。
ふ、ふふ。
ははは。
そうか。
そうだったんだ。
どうせ破滅は回避できない。
それが〝運命〟だったんだ。
無駄な努力、ご苦労様。
じゃあね、ばいばい、〝
わずかな感覚だけを残して、視界が真っ暗になる。
「ごめんねぇ……でもこれ、お仕事だから。せめて、安らかに眠ってねぇ」
顔に誰かの手が触れた。多分、女がわたしの両目を閉じたのだろう。わたしの涙を、そっと指先で拭うような感触もあった。
それは随分と優しい手付きで、優しい声色で――わたしは、死ぬ間際だというのに、本当にとても腹立たしかった。
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