第9話 胎動

「私は真実を意図して語らない事はあっても、敵以外に嘘はつかん」


 おかしい。


 少し口が軽くなりすぎているかもしれない。


 これでは、お前に隠している事があると明言しているようなものではないか。

 まあ、三年前にお前に助けられて以来、今日に至るまで、私は己についてほぼ何も語っていないのだから隠し事しかないのだが。


「初陣」について初めて話したのも、ほんの昨日の出来事である。


 いや、おかしい。


 やはり、おかしい。


「今日」であれば私の口が滑るのは理解できる。

 私の計画が、私の復讐は、私の筋書きで明日いよいよ始まりを迎えるのだから。


 本音を言うならば、彼を鍛え上げるにはもう少し時間が必要だ。


 アルフレッドの呑み込みは悪くない。身体の状況も好ましい水準にある。


 しかし、彼はまだ未熟であり、覚悟が足りない。


 人から王に、人から英雄へと成る覚悟が。


 だが時は来た。時が来た。


 他ならぬ、あのユストゥス・アルカン自身が、我を裏切りしあの三将の1人自らが開演の笛を吹き鳴らした!


 気の昂りを抑えろと言う方が、どだい無理な相談だ!


 天はアルフレッドをこの大地へと誘っている!!!


 まさしく天命!!!


 しかし。


 しかしだ。


 私が、それを知ったのは昨日の午後だ。


 昨日、アルフレッドへの訓練の後、このローサンヒル村へと戻った時。


 あの醜く、独りよがりで、空虚な悪文を見た時。

 その時に、私は歴史が動き出した事を実感したはずだ。


 つまり、あの手解きの時点においては未だ運命を知らぬ身である。


 なのに何故。


 何が故に私はあの少年に私の過去を教えた。


 自己を曝け出したのだ。


 絆されている?


 私が?


 あの愚直なるアルフレッド少年に?


 まさか。


 まさか、私にそのような心が残っているはずがない。


 私に、そのような想いが許されるはずもない。


 私は、私の目的のためにあの少年の純情を弄んでいるにすぎない。


 裏切りの報いは、必ず受けなければならないのだ。


 しかし、アルフレッド。


 この代価に、君が栄光と勝利を掴む事を私はここに約束する。


 アルフレッド・ファーン。


 私が、お前の願いを叶える。


 お前は、私を超える。

 そして王になり、英雄としてその名を歴史に刻む。


 アルフレッド・ファーン。


 私が、お前の欲する物を与える。


 私が、お前の力を鍛える。そしてお前の冠を誂え、お前が討つべき敵を示す。


 アルフレッド・ファーン。


 私は、お前に誓う。


 私の、この「アーシャ・ライル」の名前に。


 否。


私の、「皇子フィネガン」という称号に。

 

 そして、我が「フィオナ・ゾーディ」の真の名において。


 私は、これを誓う。

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