続・手ぶくろとマフラー

ヤマシタ アキヒロ

第3話

  くつ下



いい忘れたので

もう一つ


くつ下は

かなりやさしい


踏まれても

汚れても


冷たい足を

温めつづける


破れても

糸がほつれても


文句一つ言わず

両足のお世話をする


くつ下は

祖母ばあさんのよう


ずっと前に亡くなった

僕のお祖母さんのよう


見返りを求めず

ただニコニコと


くたくたになるまで

腰が曲がるまで


自分以外の人の

役に立とうとしていた


くつ下は

お祖母さんのよう


ただ一度だけ

僕は見たことがある


お祖母さんが

自分の息子


つまり僕のお父さんを

叱るところを


怖かったのは

その一度だけ


あとは慈母観音のように

やさしかった


僕はあろうことか

そのやさしさがうっとうしくて


お祖母さんを遠ざけ

かえって冷たくあしらった


いまではよく分かる

あの時のあなたのやさしさが


やっぱりくつ下は

お祖母さんのよう


布団の中でいつのまにか

暑くて脱いでるところとかね




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る