第30話 臨時株主総会 前編

 東京ワールドホテルは騒然としていた。


 多くのマスコミが集まり、臨時株主総会の行方を見守っている。


 総会場内には株主と関係者しか入れないため、多くの野次馬は外で待つしかない。


 10時から始まった総会は、議長でもある沢渡恵子の株式持分で揉めていた。


「本来なら議長の議決権は無いんだけど、そちらの弁護士先生に全権委任したということは認めしょう。た、だ、し、相続手続き中の株式は認められないと何度も言ってますでしょう!」


「私が父の株式を全て相続するんですから、私と息子の持分で45%のはずです。その権利があると弁護士に確認してます。」


「だから何度も言ってますけど、会社はその相続を認めてないし、手続きも終わってないんですよ。そもそも、戸籍謄本などの書類やなにやら未だ提出されてませんでしょ。」


「そんな手続きが必要など聞いてません。」


「聞かない方が悪いんだよ。早く議決を採れ!!」


「そうだそうだ!!」


「議長、まだ決まったわけじゃないんだから、議決をとって下さい。」出席者は異口同音に叫び出した。


 信用していた弁護士は下を向いたまま動かない。


「・・・分かりました。10分だけ休憩を下さい。その後に、議決をとります。」


「反対」「休憩など要らん。早く進めろ!」


「お願いします。最後のお願いです。必ず採決をします。10分後にとりますから…」


 沢渡恵子の悲痛な願いに会場の空気が冷めた。


「仕方ない。10分の休憩としましょう。」

 司会者の声に株主達はそれぞれに会場を出て行った。



「南室長、城崎さんから連絡あった?」


「いえ、まだです。」


「そう…」

 

 空虚な時間だけが過ぎた。


 沢渡恵子はついに諦めの境地に立っている。


(お父さん…ごめんなさい。会社を守れなかった…)涙が頬を流れた。



 やがて、株主達が部屋に集まってきた。


「これでやっと終われるな。」戸田が笑いながら岡本を見た。


「はい。これから忙しくなりますよ。副社長よろしくお願いしますね。」岡本も笑いながら応えた。


「それでは再開致します。議長採決をお願いします。」司会の言葉が静寂を取り戻した。





 

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