第22話 トカゲの尻尾

 草加百合子が7階役員フロアの奥を覗き込み聞き耳を立てている。


 工藤常務の部屋からはバンバンと机を叩く音とともに罵声が響く。


「やってくれたな、中畑よ。」


「申し訳ございません。」


「謝って済むか!毎日毎日、テレビや新聞で東京中央銀行のことばかり。お前んとこの城崎が情報をリークしたんだってな?」


「いえ。城崎はそんなことする人間じゃありません。」


「犯罪者の身内は大体そう言うんだよ。」


「本当です。城崎は私利私欲に走るような人間ではありません。何かの間違いです。」


「じゃあ何で1週間も取り調べを受けてんのよ。何か聞いてるのか?」


「いいえ。何の情報も入ってません。当人は元気だということだけで・・・」


「何か情報が入れば、直ぐに私に知らせろ。夜中でもかまわん。いいな。」


「はい。かしこまりました。」


 工藤常務の部屋はいつものように暑い。中畑の額からは汗が噴き出している。小さなハンカチで拭うが、次々と出てくる汗にハンカチのキャパシティーを超えている。


「ところで、人事部から聞いてるか。」工藤常務が外を見ながら呟いた。


「いえ、何も・・・」


「いずれ、君のところにも行くと思うが、城崎君だけど辞めてもらえ。」


「えっ、クビですか?」


「いや、依願退職ということでいい。」


「どうしてですか、まだ、何も分からないじゃないですか。」


「もう十分だ。ここまで事件が大きくなったんだから。」


「そんな!」


「・・・ということだから、準備しといてくれ。いいな。」


「・・・・・・・」一礼をして、部屋を出て行こうとドアに手を掛けた。


「それと、君も責任をとって出向してもらう。」


「・・・・・・・」何かを言おうとしたが、中畑はぐっと飲み込むことしか出来なかった。

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