第6話 原点

 3か月前、日本橋にある東京未来システム株式会社本社、社長室に城崎はいた。


 上場スケジュール最終確認を終えたところである。



「城崎君、上場スキームはそれで結構だ。ところで、君は日本百名山いくつ登ったの?」


「社長。また山ですか。先月で78か所目を踏破してきましたよ。この前のGWに四国の2つ完遂です。」


「ほう78。すごいね。・・・四国は2つしかないんだ。なんて山だっけ?」


「はい石鎚山いしづちさん剣山つるぎさんです。」


「えっ、つるぎって富山でしょ。」


「あっ、剱岳つるぎだけは富山ですけど、剣山つるぎさんは徳島です。」


「ああそうか。四国にそんな山があるんだね。」


「ええ。登りやすくて、稜線が美しい山が連なってますから、剣山から三嶺みうねまで縦走してきました。」


「ほー。いいなあ。私も行きたいね。」


「そうだ。写真ありますよ。え~と、これです。きれいでしょ。」とスマホの写真をいくつか見せた。


「ほんとだ。こんな稜線が美しい山が四国にあるんだね。」


「天気も最高でしたし、達成感抜群です。」


「私もね、山が好きだから高尾に居を構えたけど、さっき言った富山の剱岳にどうしても行ってみたいんだ。そして、頂上にある石、磐座いわくらに触れてみたい。」


「どうしてですか?」


「昔ね、『点と記』という剱岳の映画があったんだ。新田次郎の小説を映画化したんだけど。それを見た時からハマっちゃってね。」


「そうなんですか!!あははははは・・それ僕と一緒です。僕の山の原点です。」


「ええっ?」城崎が同じ原点だったことに驚いた。


「僕が大学生になった年、2009年公開です。」


「君もそうか。ロマンがあるよね。明治時代に陸軍が未踏破の山と信じて登ってみたら、頂上に千年前の錫杖と鉄剣が供えられていたというんだから。」


「はい。神秘的な山ですね。」


「ああ。いつかは登りたいと思っているけど、年齢的にも体力的にもどうかな。」


「社長、何言ってんですか。危険な山ですけど、足場はしっかりしている岩場ですから、社長なら大丈夫ですよ。最近は高齢の女性もいらっしゃるくらいですよ。」


「そうなの?だってほら、カニのヨコバイとかタテバイとか垂直の岩場があるじゃない。」


「ええ。高齢者の方はハーネスを使ってますね。」


「ハーネス!?」


「ええ。体と鎖場をつなぐハーネスです。足を踏み外しても落ちないように。」


「そうなんだ。」沢渡はいけるかもという思いになっていた。


「でも、少し岩場の練習はして行ったほうがいいかもしれませんね。」


「岩場の練習って?」


「そうですね。秩父の伊豆ケ岳や、河口湖の一二ケ岳は初心者向けですし、同じ秩父の四阿屋山あずまややまなんかも岩場の練習にはいいですよ。」


「そうか。じゃあ、今年練習して、来年剱岳に挑戦してみようかな。」


「ええ。是非ともご一緒します。」


「よろしくお願いするよ。そんな危険な山に一人では行けないからね。」


「そうですね。登山は出来る限り二人以上です。」


「じゃあ、来年の7月頃に一緒に行ってくれる?」


「了解いたしました。じゃあ社長、練習ラウンドというとで、来週あたり秩父に行ってみますか?」


「よし決まりだ!ハーネスを買っておくよ。ははははは・・・。」

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