第4話 沢渡恵子

 沢渡武志の一人娘、恵子は、夫と離婚し、東京未来システムの取締役経理部長として4年前から入社している。急な事故が受け入れられないのだろう。涙ぐむこともなく、気丈きじょうに葬祭業者と打ち合わせをしていた。

 

 ところが、城崎を見ると、なぜか急に涙が溢れだしてしまった。


「沢渡部長、この度は、何と申し上げたらよいか、お悔やみ申し上げます。」


「城崎さん。大切な時に…お父さん死んじゃった・・・こんなことになってしまった…うう・・」


「…私にできることは何でもします。何でも言ってください。」


「ありがとう・ございます。うう・・・」


「でも、なぜ一人で剱岳に行ったのかが不思議でなりません。なんか聞いてたんですか。」


「いいえ…ちょっと山登りしてくる。日曜日に帰ると言って、簡単な山だと思ってたんです。」


「劔岳は難しい山です。社長も挑戦したいからと、岩山の練習をしていたくらいです。だから、一人で行くはずないんですけど…」


「ええ。・・・でも死んでしまったらどうしようもない・・・。」


「すみません。それで、こんな時に恐縮なんですが、今後のことについて相談したいんですけど・・・。」


「ええ。明後日に葬儀をすることで決まりました。その夜に、いろいろと相談させてください。それまでに私も考えておきます。」


「わかりました。明後日の夜、こちらに寄らせていただきます。では、あちらで待機してますので、手伝えることがあれば何でも言ってくださいね。」


「ありがとう・・・」というと、また気丈に社員達に指示を出していた。



 城崎としては、スムースに相続をさせ、そのまま上場させていこうと思ったものの、恵子の「私も考えておきます」という言葉が気になった。


 というのも、東京未来システムの創業者社長が死去したのだから・・・

 

 経営体制や技術力、ガバナンスなどの大半は社長に頼るところであり、このまま会社が存続できるのかということさえも危ぶまれる。


「もう一度練り直さなければ・・・」と城崎は小さく呟いた。

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