品切れ続出……!? 今、ダンジョン探索者の間で流行中のダンカをやれ! って、美少女に迫られてますが、僕TS転生したただの一般人ですけど……!?

川野マグロ(マグローK)

プロローグ 試験に落ちる、女子に逃げられる

「はぁ、今年もダメだったな……」


 ダンジョン探索者試験の帰り道。僕、梨野なしのれきは地面を見ながら歩いていた。

 今の名前にも慣れてきて、探索者試験という挑戦したい事にも挑戦できているが、これで2年連続の探索者試験不合格だ。


 そう、この世界にはダンジョンがある。

 ファンタジーのような現象が起き、ファンタジーのような能力を使えるようになるダンジョン。この世界では、大昔から存在すると言われていて、さまざまな行事もダンジョンと関わる中で生まれたらしい。


 そんなダンジョンを探索するには資格が必要だ。

 資格の受験が可能になるのは、高校一年の年から。僕も去年から挑戦しているが、今回は前回以上に振るわなかったように思う。


 近年、探索者試験受験時ですら、すでにスキルを持った受験者がちらほら見られるようになったらしい。

 昔のことなど知らないが、実際、人間技じゃないものを生身で行うヤツらを見てきた。だから、本当の事なのだろう。

 それでも、僕のような非スキル持ちとは区別されずに試験が進むのだから、そのことも相まって、何もない僕は簡単に追い抜かれていく。


「こんな世界だからこそ、何かを成したいと思ったけど、やっぱり僕には無理なのかな……」


 関係はないだろうが、受験者に対するサービスのような、有名探索者のエキシビジョンマッチみたいなものをすっぽかしたのも影響があったんじゃないかと思ってしまう。

 それが気になって集中できてなかったんじゃないかとさえ思う。


 いや、こんなもの、後から思いつく言い訳だ。


 僕の問題は集中力以前にある。

 それは、基礎的な才能の不足。体力や運動能力、判断力や瞬発力が足りていないのだ。

 わかっている。わかっていても、陰キャな僕の体じゃあ、上がるところにも限界がある。


「じゃあ、僕は探索者にすらなれっこないのかもしれないのか……」


 あこがれているだけでは、前進していないということなのだろう。

 せっかくの立場だが、よくない使い方をしているのかもしれない。


 いかんいかん。連続で落ちて気が滅入ってしまっている。

 顔を上げて思考を切り替えよう。


 ふっと、前を見ると、街灯の下、2人の男女が立っていた。

 こんな時にカップルか、と思ったが、1人は涙ぐんだ女の子、その隣にはゴリマッチョの男が女の子をにらみつけるように立っていた。


 カップルという感じではない。まして、パパ活ではないだろう。

 そんなものより、ライバルとか、親を殺されたとか、因縁のある相手みたいな雰囲気に見えた。


 似ていないけど、いとこだろうか。


 なんて、現実から離れた思考をしているが、結局のところ逃避だ。

 僕は今、関係ないフリをして、この場から立ち去ろうとしている。


 きっとこういう状況で一歩踏み出せないから、探索者には向いていないと判断されてしまうのだろう。


 探索者は好奇心で動くだけ、力を持っているだけではダメなのだ。

 有事の際に人を助けられるような、そんな行動力が求められている。


 それでも僕は、ただ何かに成りたいってだけで、探索者を目指していた。

 他人を助ける事よりも、自分が救われたかった。


 そうだ。そうだとも。


「……何で今日なのかな……。ま、勘違いならそれでいいし、尋常じゃない雰囲気に見えたってことで……」


 自分への言い訳を済ませたところで、僕は歩き出した。

 体格差のある男に近づくたび、恐怖で自然と体がすくむ。だが、何かあってからでは遅いのだ。


 きっと、今までの自分は変わりたいと言いながら、こういう景色から目をそらしていたんだろう。


「あの。警察呼びますよ」


 僕は2人の間に割って入って、短く言い切った。

 心臓はバクバクとうるさく、手に汗がにじんでいるのがわかる。


 男の方は僕の事を鋭くにらんでくるだけで、全く動こうとしない。

 突然現れた僕を見て、いかにも苦々しく顔を歪ませただけで微動だにしない。


 動いてくれ、せめて何か喋ってくれよ。


 視線だけで殺されそうになりながらも、僕は震える体でその場に踏ん張り続けた。


 しばらくの間、緊張状態が続き……、


「チッ……この話はまた今度だ」


「……」


 女の子の方に言ったのか、男は捨て台詞を吐いて歩いて行った。


 どうやら後ろ暗いところはあるみたいだけど、堂々とした逃走だった。


 男がどこかへ行ってくれてほっとしたが、ここでその場にへたり込むわけにはいかない。

 僕の背後には、僕と同い年くらいの子が立っている。


 少しの間、息を整えてから僕は振り返った。すると、女の子の無事な姿が目に入ってくる。


 とは言え、見た目からの感想だ。本当に無事かはわからない。

 だが、暴力を振るわれたようには見えない。

 ただ、考え込むように視線を落としている。


 それにしても、暗くてよく見えないが、どこかで見たような顔だった。特に、右側の泣きぼくろなんか、誰かとそっくりなのだ。

 その誰かが、混乱した頭ではすぐに思い出せないのだが……。


「あの。大丈夫ですか?」


「え、あっ……」


 顔をのぞき込むようにして聞いてみたが、顔をそらされてしまった。


「えっと……、ごめん!」


「えっ……」


 そのまま走って逃げられた。

 ただの女の子とは思えないほどの速さで、あっという間に見えなくなってしまった。


 助けたと、のぼせ上がるつもりはないが、女の子に謝られたうえ、全力で逃げられるというのは普通にショックだ。

 下手すると、探索者試験に落ちた事よりもショックかもしれない。

 明日の学校休もうかな……。


「でも、声も聞いたことがあったような……?」


 やはりはっきりとはしない。それでも、おぼろげに記憶に引っかかる感じがある。

 気持ちが悪い。

 喉のところまで出てきているのに、どうしてこうパッと出てこないんだ。

 僕も歳か?


「うーん……、あれ?」


 ちょっとがっくりきて視線を落としたところ、女の子がいた場所に一枚の紙のようなものが落ちていた。

 拾ってみるとまるで金属でできているように硬かった。とても、簡単に折れ曲がりそうもない丈夫なものだ。

 見覚えもない。特に何かが印字されているわけでもないらしい。


「あの子の落とし物かな? って、どこに届けたらいいんだろう……」


 案外身近な人だったりしてね。




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 書き溜めは少しですが今日からカクヨムコンの期間内に十万文字まで、毎日投稿したいなぁ、と思っているので、応援よろしくお願いします

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