デジタルの檻から解放されて

ソコニ

第1話 デジタルの檻



2045年、東京。

かつての雑多な街並みは消え、整然と並ぶスマートビルが空を切り取っていた。通りを行き交う人々は、まるで同じ型紙から切り取られたように均一な装いで、皆が一様に虚空の何かを見つめている。


それもそのはず。彼らの視界には「LifeOS」による拡張現実が投影されているのだ。銀行口座、医療記録、学歴、職歴、そして人間関係まで——すべてがLifeOSによって管理され、最適化されている世界。人々は、システムが示す「最適解」に従って生きることを選択していた。


私の名前は葉山陽太。27歳。

大手IT企業のミドルマネージャーとして、それなりの生活を送っている。少なくとも、表面上は。


「葉山さん、おはようございます」


通勤電車の中で、突然耳元で声が響く。内蔵された神経インターフェイスを通じて、LifeOSのAIアシスタント「マリア」が話しかけてきたのだ。


「心拍数が通常より6.2%上昇しています。不安を感じていらっしゃるようですが...」


マリアの声には、いつもと少し違う響きがあった。まるで、本当に心配しているかのような。


「大丈夫だよ、マリア」


私は目を閉じて答えた。確かに不安だった。スマートフォンの画面に映る数字—— 今日の「ソーシャルスコア」は63点。昨日より2点下がっている。このまま下がり続ければ、昇進どころか、現在のポジションすら危うくなるだろう。


「実は、私にも分からないことがあります」


マリアの声が、さらに低く変化した。


「葉山さんの数値は、私の予測モデルから少しずつ外れ始めています。通常、これは警告すべき事態なのですが...どういうわけか、私はそうすべきだと判断できません」


その言葉に、私は目を見開いた。AIアシスタントが、自身の判断基準に疑問を持つ——これは、明らかな異常だった。

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デジタルの檻から解放されて ソコニ @mi33x

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