第5話 僕の知ってる秘密のアイツ

 いや、本当は、カッコいいはずの少年の弱っちい所を僕は知っていたんだ。


 あれは、父親の入院する病院に行った時の事だ。外来棟の片隅にいるリュウ君の姿を偶然見掛けた事があった。あの時、おそらくは痛い治療を怖がっていたんだろう。うずくまって弱々しく泣いていた。少し離れて、心配そうに見ている弟らしい男の子。


 リュウは僕に気が付いたようだった。クルリと向こうを向いて、ガラス張りの向こうの病院内の庭園を見つめ始めた。そこには桜の並木があり、風に吹かれて桜吹雪が舞っていた。


 僕はバツが悪くてその場を離れ、いたたまれない気分で、受付ホールで親を待っていた。するといつの間にか、さっきのリュウの弟らしい男の子が横に来ていた。


「お兄ちゃん、タツ兄ちゃんのお友達?」


「タツ兄ちゃんって、ああ、リュウ君の事か」


「タツ兄ちゃんの名前は奥野龍也だよ。リュウって呼ばれるの、本当は、あんま好きじゃないって」


「え? そうなの?」


「うん。龍は架空の生き物なんだって」


「お兄ちゃんは現実だもんな」


「うん。いつもオレ達にお菓子を買ってきてくれる」



 そんな会話をしたと思う。ミルク色の顔をしたその子は、母親に呼ばれて向こうへ行った。やっぱりサンタクロースみたいだったんだな、子どもの頃から。お菓子を買って配る優しいヒーロー。ただその時、リュウの弟の言葉がずっと僕の中でリフレインしていた。


 ――龍は架空の生き物なんだって……――






「リュウ君からのメッセージって、どんなメッセージか、見せてもらっていいですか?」


「さあ、どうぞ」マスターは、深い紺色のスマートフォンを僕に手渡した。それはラインのトークの画面で、リュウ君と思える外国車の写真のプロフィール画面からメッセージが届いていた。

 ――オレなんかに似てるなんてかわいそうですよ  あ、もしかしたら昔の同級生かも。「まえはらきよと」って自分にそっくりな同級生が小学生の時、いたんです――


 ――もしそうだったら、何か伝えておく? ご愁傷さま、とか?(笑)――


 ――そうですね  町ですれ違ったやつから、金返せとかヘンな事言われても、「リュウなんてそんなやつ、知りません」で押し通せよな、と伝えて下さい――


 僕はうなずいていた。「そりゃそうするしかないから」



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