素晴らしい世界に終わりを告げる

桜桃

プロローグ

第1話 繰り返しの日々

 毎朝、同じ日々の繰り返し。


 めざましと共に起床、パジャマから学校指定の制服に着替える。

 教科書などが乱雑に置かれている机。その隣にある姿見で制服を整え、茶髪を櫛で梳かす。

 セミロングくらいの長さなため、時間はそこまでかからない。


 学校にいつも持って行く黒いスクールバックに、今日の授業で使う教科書を入れる。

 忘れ物がないか確認していると、部屋の外から母の声が聞こえた。


愛実めぐみー。朝ご飯で来たわよぉー」

「はぁい」


 愛実は「えーと」と、机の上を最終確認。

「よしっ」と鞄を持って、部屋を出て行こうとした。

 そんな時、机の上に置いてある写真が目に入る。


 そこに映っているのは、幼い頃の愛実と男の子の二人。

 怪我をしており、泣いている。そんな男の子の頭を撫で、慰めている幼い頃の愛実。


 この写真は宝物となっており、愛実は微笑む。

 写真立ての隣には、いつもつけている四つ葉のネックレスが置かれていた。

 いつもお守りのように身に着けているネックレス。今日も忘れずに、首へとかけた。


 再度母から呼ばれ、写真を落とさないように机の上に置き直し、慌てて部屋を出た。


 階段を下り、リビングに入る。

 準備されていたのは、白米とお味噌汁。あとは昨日の残りの野菜炒めだった。


 四人ようのテーブルには、新聞紙を広げ父が先に座っていた。


「おはよう」

「おはよう愛美。お父さん、もうご飯食べますよ」


 愛実に挨拶をした母は、いつまでも新聞を読んでいる父に言う。

 すぐに新聞紙を畳み、父は用意されたご飯に手を付けた。


「お父さんもおはよう」

「あぁ」


 口数が少ない父との挨拶は、いつもこんな感じ。

 母も席に着き、全員で朝ご飯を食べた。


 時間になり父が先に出て、次に愛実がスクールバックを肩にかけ玄関に行く。

 靴を履いていると、母が急に後ろから声をかけてきた。


 振り向くと、なぜかニコニコした笑みを浮かべていた、


「どうしたの?」

「今日も忘れていないかしら?」


 母が自分の首元を差しながら愛実に聞いた。

 何を聞いているんだと思いながら、愛実は頷き四葉のネックレスを取り出す。


 少し剥げてしまっているネックレス。

 もう付け始めてから数年の時が経っている。


 このネックレスは、写真に写っていた少年から別れ際にもらった思い出の宝物。

 少年が遠くへと引っ越してしまう時に、絶対にまた会うんだと約束を交わし、お揃いでネックレスをくれた。


 その時をいつでも思い出せるように、愛実は離さなかった。

 必ず会えると信じて、今日もまた玄関を出る。


 一人で通学路を歩いていると、ふと違和感に気づいた。


「なんで今日、いきなりお母さんはネックレスについて聞いて来たんだろう」


 いつもは付けていることが当たり前なため、聞いてこない。

 今日は何か、気になる事でもあったのだろうか。


 そう思いつつも、愛実は深く考える事はせず、通学路を歩く。

 後ろから名前を呼ばれ、いつも遊んでいる友達と合流。話しながら学校へと向かった。


 ※


 学校にたどり着き、席に着く。

 友達は多くなく、一人で過ごすことが多い。


 通学途中に出会った友達は、違うクラス。

 教室の前で分かれていた。


 それでも、まったく友達がいないわけではない。

 愛実が登校したことを確認すると、二人の女子生徒が近づき「おはよう」と挨拶をした。

 愛実も「おはよう」と返し、昨日の番組について話す。


 すぐに担任が教室に入り、生徒はみな自分の椅子に座る。

 そこから朝のHRが始まった。


 今日も何事もなく放課後になり、愛実はまっすぐ帰宅しようとスクールバックを片手に椅子から立ちあがった。


 そんな時、クラスメートが困ったような表情を浮かべて声をかけた。


心和しんわさん!! 今日このあと予定ある? もしよかった日直の仕事変わってもらえないかなぁ!」

「私達、この後部活で早く行かないといけないの、掃除もお願いできる?」


 手を合わせ、二人の女子生徒が愛美に頭を下げた。


 部活は、本来学校生活がすべて終わった後に行くもの。

 日直も掃除も、部活より優先され、担当の人が終わらせなければならない。


 愛実はこの後本屋に行って参考書などを買おうと思っているため、早く帰りたい。

 部活より、学校のことを優先しないといけないよと言いたい。


 けれど、愛実は言えない。

 いつも言いたいことが言えず、素直にうなずいてしまう。


 今回も、「わ、わかった」と、言ってしまった。


 ありがとうと言われ、そのまま二人は教室を後にした。

 いつも、こうだと後悔する。


 鞄を机に置き、他にも残っている人たちと共に掃除をする。


「また心和さん、掃除当番変わったの?」

「う、うん。このあと、別に用事あるわけじゃないから」

「それでもだめだよ、しっかりと断らないと。あの子のためにもならないんだからさ」

「う、うん。ごめん……」


「次は断ってね」と話を閉め、掃除に移る。

 そんなこと、言われなくても愛実もわかっていた。


 断れたら、断っている。

 善意で担当を変わっているわけではない。



 愛実は気弱な性格で、内気。お願いされたら断れず、受けてしまう。

 そのため、優しいい人と言われるが、都合のいいように使われているんだと理解はしていた。


 いつも、断れない自分に嫌気がさし、次こそはと思うが無理。断れない。

 断って、今後の生活に支障をきたすのが嫌だった。

 気まずくなるのが嫌で、明日を不安に思うのが嫌で。


 愛実は自分の気持ちを押し殺し、ただただ頷くのみ。

 怒られても相談できず、今回のように謝罪して終わる。


「まぁ、そこまで大きなことを頼まれている訳じゃないし……」


 虐めではない。

 掃除や日直の仕事。黒板消しなどといった軽いものだけを任される。

 宿題を押し付けられたり、お小遣いを要求されたりはしていないため、特にいいやと諦めていた。


 断れない自分が悪いと諦め、まず日直の仕事から始めた。

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