転生者、チートスキル『超鑑定』でダンジョン世界を攻略する

梅露 案山子

第1話


 子供の頃から現実世界には違和感があった。

 どこか自分が間違った場所にいるかのような。

 魂が別の何かを求めてやまないような。

 そんな感覚に答えを教えてくれたのがファンタジーだった。


 ゲーム、アニメ、マンガ、小説。

 ファンタジーが題材の作品ならどれでも触れた。なんだって飛びついた。


 だからこの事実に気づいた瞬間、俺の思考はフリーズした。


「フェル。おい、フェル。大丈夫かよ?」


 荷運び人の仕事仲間に肩を揺すられ、愕然としながら再確認する。


 頭の中には現代の感覚。

 広がる景色はまったくの異文化。


 なんともミスマッチな現実をすり合わせた結論は――。


「……俺、転生者じゃん」


 望み続けた答えだった。



 夕暮れ。

 荷運びの仕事を終えて宿に戻った俺は、情報を整理してみた。


 今世における俺の名前はフェルディ。今年で18歳。

 なんてことない村の生まれ。特筆した能力は持っていない。

 実家は貧しく、飢饉に耐えかねて追い出された。

 そのまま当てもなくさまよい、港町にて日雇い仕事をこなす毎日だ。


 この港町がある国はグランセー王国という。

 王国はミルス大陸の南西側に位置している。

 まあ、典型的な剣と魔法の世界だな。


 クラスやスキルという単語が普通に飛び交っているあたり、ひょっとするとゲームの世界なのかもしれない。


 よしよし。こちらの世界の情報はいい感じ。

 しかし問題もある。前世の記憶がおぼろげだ。

 一般常識や知識は覚えている。自分が知っている範囲でだけど。

 逆に個人的なプロフィールや人間関係のことは思い出しづらい。

 どうやって死んだかもあいまいだ。


 転生したこと。ファンタジー愛好者だったことは明確にわかるんだけど……。


 考えてもしょうがないか。

 今の俺がいるのはミルス大陸なんだし。

 この世界の人間として、気合入れて生きていくしかない。


 何にせよ突然のことで気持ちが落ち着かないな。

 細かい計画は明日に回して、今日はひとまず眠っておこう。


 ベッドに入るとすぐにまどろみが訪れた。





「遅い! 18年も待たせおって」

「いてぇっ」


 いきなり頭を叩かれた。

 寝ぼけながらも暗闇の中で目を凝らす。

 なんだここ。現実世界ではない感覚がするぞ。


 突然、 ちょっとエロい格好をした銀髪の美少女が現れた。

 空中浮遊している。頭には二本の角が生え、先の尖った細い尻尾が揺れている。


 ……あくま?


「悪魔ではないぞ」

「うおっ、どうして」

「心なんぞ読まずとも顔を見ればわかるわ」


 悪魔じゃない子は浮遊したまま胡坐をかいて腕組みした。

 誰だこいつ。


「覚醒が遅いうえにワシのことまで忘れとるとは。重症だな」

「えーっと、アンタは?」

「我が名はサフィリア。ミルスの創造主が生んだ神であるぞ! ひれ伏すがよい」

「こんなにかわいい神様がいるとは」

「ククク。そうであろ、そうであろ! やはりお主は見る目があるのう!」


 サフィリアとやらは、ふんすと鼻息を荒くして尻尾を左右に振った。

 犬みたいだな。体を起こして彼女と向かい合う。


「ようやっとパスが繋がったから、お主をワシの領域に招いたのよ」

「やっぱり現実の外か。サフィリアは俺に用でもあるのか?」

「様をつけんか無礼者。色々と忘れとるお主のためにかいつまんで説明するぞ」


 そう言って、サフィリアは指を鳴らす。

 女教師の格好になるとメガネをクイッと上げた。すごいアホっぽい。


「前世でのお主はワシを呼び出して異世界へ行きたいと願った。そこで契約の儀式を交わし、魂を引っこ抜いてこちら側へ連れてきたのよ」

「契約の儀式って?」


 サフィリアは満面の笑みでぺろっと唇を舐めた。


「お主の初めて、なかなかに美味であったぞ♡」

「何やってんだ前世の俺ェーっ!」

「ククク。本来の儀式はちーと能力の抽選による合意形成なのだがな。ちーとなんかいらんからワシをよこせ、と望んだ阿呆はお主が初めてだった」


 ぽっ。顔を赤らめ、尻尾を巻きつけてくる。

 もしかしなくても、気に入られちゃってます?

 とりあえず態度は改めたほうがよさそう。


「それでだ。改めて、お主に使命を与えにきた」


 使命。使命ときたか。

 神様からの頼みごとって古今東西ろくなもんじゃない気がするが。


「なんでしょう」

「ミルスの神々は信仰の格を競っている。しかし最近ちょっと押され気味でな。お主には世界各地にちらばる創造主の遺産、神造迷宮を攻略してほしいのだ」


 拍子抜けした。

 そんなのでいいのか。


「ダンジョンっすか。別に構いませんけど、どうして俺に?」

「お主、こういうの好きじゃろ?」

「ええ、まあ」

「ボス戦とか大好きじゃろ?」

「もちのロンでございます」

「それよ。その積極性よ」


 サフィリア様は遠い目で語る。


「ワシの信徒は怠け者が多くてな。生活が安定したらちっとも上層を目指さん。有望株もすーぐ身を滅ぼす。踏破を呼びかけるには異世界人のほうが都合が良いのだ」


 怠け者……どんな神様なんだろう。

 ま、せっかくの異世界だ。

 冒険者になろうと思っていたし、こちらにも異存はない。

 ただなー。平々凡々一般人にどこまでやれるだろうか?


「心配するでない」

「と、言いますと?」

「己の手駒がスキルもなしでは沽券にかかわるでな。ほれ、こっちへ参れ」

「あっはい。なんで――ちょっ!?」


 サフィリア様は俺の頭をガッと引き寄せ、濃厚なキスをした。

 なんだこれ。舌の感触が気持ちよすぎる。

 か、体の中に何かが流れ込んでくる……!


「これでよし」

「サ、サ、サフィリア様!?」

「なんだ。最後までしたかったのか?」


 彼女はククク、と笑って指を立てた。


「ワシは人の本質を司る神よ。これで貴様には鑑定の能力が備わった。それもただの鑑定ではない。名付けて『超鑑定』だ!」

「超鑑定」


 異世界ものでは鑑定もかなりのチートスキルと記憶しているが。

 それが強化された感じなのかな?


「その魂はワシと濃厚に混じり合っておるでな。弱点、秘密、欲望、悩み……他人が心の奥底に隠した本質はすべてまるっとお見通しなのよ」


 とんでもないこと言ってるぞこの人! いや神!


「おっと、時間のようだ。しもべよ。上手に活用してワシの役に立つのだぞ?」

「え、それだけ? 他には――」

「後は好きなように生きよ。それもまた、ワシにとっては信仰の形となる」


 サフィリア様は宙へ浮揚してスススーッと消えていく。

 と、思ったら。


「忘れてた」


 ヒュンと戻ってきた。


「収入の10分の1を我に捧げるように。ゆめゆめ怠るでないぞ」


 ではまた会おう――。

 そう言い残し、サフィリア様は今度こそ消えていった。

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