メンタル最強元社畜が往くゲーム転生~グルメ旅はオトモダチとともに~

緑茶好き

お前の名前は今日から『もち』だ!

 私の名前は望田恵介、元社畜である。

 気がついたらファンタジー感のある建物の一室で見覚えのある男の前に立っていた。

 なんで?


 壮年で歳は取っているのに覇気を纏っている、筋骨隆々な男性が睨みつけるかのように私を見ている。

 もう一度言おう。なんで?


「それで、返事を聞かせてくれるんだろうな?」


 なにを? と言っても何が何だかわからない。あととりあえずにらむのは止めて頂いて……。


「答えはイエスです」


 口が勝手に答えていたが、目の前の男はその言葉を待っていたかのように嬉しそうな表情に変える。勝手に進むのやめてもろて……。


「うむ。ではそなたを第一旅団の主力級ハンターとして任命しよう」


 第一旅団……? ハンター?

 私が今いる場所はもしかして「Doragon’s Hunter the Final.」通称「ドラハン」の世界ではなかろうか。もちろん顔には出さないが、内心では「どうして?」という言葉で埋め尽くされていた。本当になんで?


 いやまぁ……流行りの異世界転生なんだろうけども、どうせなら剣と魔法のファンタジーの世界に飛ばしてほしかったよ。なんなら魔法使ってみたいし「ファイ力゛」とか「ギ力゛デイン」とか言ってみたかった。今からでも変えられませんかね?

 まぁよくわからない世界に飛ばされるよりはマシだったか。


 この世界こと「Doragon’s Hunter the Final.」は長年愛されたモンスター(敵)をハンティング(狩る)するゲーム。一人用ゲームだがオンラインでは6人までプレイできて、大型レイド戦では4パーティで最大24人までプレイできるらしい。


 シリーズ最初は据え置き専用完全一人用ゲームで技もないゲームただ剣か弓を使って狩り続ける、という設定だったが、最新作で集大成のFinal.ではなんとフルダイブのVRゲームとなっていてゲージを溜めることで必殺技をだすことができるのだ。しかも全部の武器で、だ。


 フルダイブのシステム自体は近年では見慣れた物だったが、一番嬉しかったのは五感が発達して味覚も実装されたことで料理にハマり、狩りよりも食材集めなどに精を出すプレイヤーもいたという。やりこみ要素も豊富だったのでハンターランク上限を突破してもずっとやりこんでいた。社畜アラサーの唯一の楽しみは週末のこのゲームでハンターライフを楽しむこで、会社の上司や後輩、友人とオンラインで潜ることもあったが、あくまでソロメインでプレイしている。ぼっちと言うなかれ。孤高ともいう。


 というかこれ、最序盤も最序盤では?


「そういえば……お主の名前を聞いてなかったな。なんだったか?」


 そうそう、ここで名前を聞かれて選択するんだっけか。

 ここの名前は最大8文字で小文字を使えば最大16文字まで設定することができるが、仮にふざけた名前で「ああああああ」などにすると「神の怒りにでも触れたか!」と目の前の男が怒りだして呪いをかけられる。その剣幕に一部のプレイヤーはトラウマになったらしいが、私は知らない。その呪いについてはキャラリメイクの際に名前の変更ができなくなるとかなんとか。ちなみにお下品なワードや禁句ワードなどははじかれるらしい。ソースはYouChubeのプレイ動画。


「……レグルスです」


 逡巡した結果、ゲームと同じ名前でプレイすることに決めた。


「あいわかった。ではレグルスよ、第一旅団のハンターとして精進せよ」


 わかりました、とは口にせず胸に手を当てて一礼した。一応原作になぞっての所作だから大丈夫……だと思いたい。

 ちなみにこの人の名前は最後まで出てこない。名前なんだろう?


「そして今日付けでお主のバディとオトモダチを紹介しようと思うが、如何かな?」

「ありがたいです」


 ありがたいけど渋くて格好いい声からオトモダチというワードがでるのは違和感。


「わかった、ではお前たち、入ってこい」


 そう言い放つと背後の重そうな扉から一人の女性と3匹の獣族が入ってきた。獣族と言うのはハンターのサポート動物のような存在だが、一匹の獣族に私は目を奪われた。


「初めましてハンターさん! 私の名前はホー…「キミに決めたァー!」ほえっ!?」

「ふにゃぁ!?」

「「ミャァ!?」」


 見た目がドストライク過ぎて思わず衝動的に抱き着いてしまった。

 クリーム色の肌に鼻先がやや黒くなっており、つぶらな瞳と垂れた耳がチャーミングポイントで、もちもちしたほっぺたに毛の少ないぷにっとしたしっぽ。

 立派な猫獣族のメインヒロイン(オトモダチ)である。


 お前の名前は今日から『もち』だ!






「まさか私のバディが愛猫家だったなんて……驚きですね」

「いやぁ、あの時は思わず一目ぼれしてしまってね……申し訳ない」

「うみゃぁ~」


 場所は変わって空を飛ぶ船の甲板で、積み込まれたタルの上に座る私たち。隣には首元にゴーグルを下げている女性が苦笑しているが、視線は私の膝の上にいる猫獣族に向けられている。


「改めて私の名前はホープって言います、あなた専属のバディ役を務めさせていただきますので、今後ともよろしくお願いします!」


 にっこりと笑顔を浮かべて挨拶をする麻素材で編まれた旅装を着たホープさん。年齢はおそらく十代後半くらいだろう。


 バディ役というのは狩りをする代わりにハンターに付いて行ってモンスターの調査とレポートを取りまとめたり、依頼の受諾と連絡関連を代行してくれる狩り以外の何でも屋さんだ。


 しかしその何でも屋になるためには国家試験を潜り抜けなければならないらしく、厳しい試験と実務経験をこなしてから漸くして受けることができるのがバディ試験だ。ちなみにハンターたちが勝手にバディ試験と呼んでいるだけで正式名称は『公認調査師』と言う。設定資料では実務経験が3年以上必要とのことで多岐にわたるらしいが、その内容までは伝えられていない。


 とはいえそれを十代くらいの若さで受けられるのだからかなり実力のあるバディともいえる。

 見た目があどけなさを感じる程度には幼く、頼りがいがあるかと言われたら悩みどころではあるが、彼女が下げているパンパンに収納されたカバンには調査物資や資料などが見えているため、いつでも調査を始められるという意志が見える、ような気がする。

 さすがはバディ。


「ありがとうございます、主力級ハンターのレグルスです。そしてこっちが相棒のもちです」

「うみゅぉ」

「名前決めたんですね」

「ずっとオトモダチなんて呼ぶのはかわいそうですから」


 猫獣族ことうちのもちちゃんは膝の上でおとなしくブラッシングされている。完全にだらけているが移動中だからやることがないのだから仕方ない。かわいい。


 シリーズ当初はお助けキャラとして主人公の身の回りのお世話だけだったが、シリーズが進むに連れてハンターと共に行動したり複数引き連れて狩りに出かけることもできる。お助けキャラこと『オトモダチ』はゲーム毎で変わるが最大3匹連れていくことが可能だったのが、最終的にドラハンのFinal.版では1匹までしか連れていけない仕様になった。しかしそれも進むにつれてオトモダチがやることが増え、補助から回復など様々にわたって活躍できるようになる。もちろん連れて行かないということも可能だ。


 ネットではRTAのために連れて行かない選択肢を取る人もしばしばいて、愛猫家としてはやっぱり愛着のあるオトモダチは連れていきたいところだが、タイムは命より重いと論破される人もいた。誰もあの言葉には勝てない。


「ところでこれから行く場所はどういう場所か、わかってますか?」


 ゲームでは本来ここで選択肢が登場し、「問題ない」か「どういうところだ?」という二択が迫られ、これは主に周回プレイヤーへの配慮だろう。


「ああ、問題ない」


 何度も説明を受けているため問題はないとスキップさせてもらいましょう。

 これから向かう先は未開拓の土地でそこに棲む生物の調査をハンターたちは求められている。無人島と呼ぶには大きすぎる拠点とその周辺地域、連なる孤島で狩りを行いながら調査していくのがゲームのメインストーリーとなっている。


 ちなみに有志による検証ではあの東京ドームが1919個分と言われているほどに広い。ソースはYouChubeの検証動画だが、クソまとめサイトのような形のように曖昧な締め方をしていたので本当かどうかは開発のみしかしらない。なお開発側は広さについて一切触れていないので本当に誰もしらない。


「わかりました! それでは私は一度総司令のところに挨拶に行ってきますのでお待ちください!」


 軽くうなずくとホープは席を立った。


「……もちも好きなところに行って良いんだぞ?」

「うみゃぁ~」


 そうもちに言うももちは撫でていた手に頭をこすりつける。


「お前はなんて可愛いんだ……! 犯罪的すぎる!」

「ごろごろ……、ごろすけ」

「ん? お前今喋らなかったか?」

「にゃぁん」


 気のせいか……。


 すると隣からドンっ! という音が聞こえたので見上げてみると革鎧の軽装を着たドレッドヘアの男が座っていて、その隣にはホープと同じ旅装の色違いでゴーグルがない女性と、紺色のツルツルと艶が掛かっている犬獣族が傍に座っていた。


「よう、お前さんがもう一人の主力級ハンターか?」


 男性の平均よりやや声は高いが、ゲーム内ではよく聞き慣れた声だ。うーん、やや高めの良い声だ。とても心地よい。


「ああそうだ、てことはあんたがもう一人か」

「おうよ、俺の名はヴィクトル、そしてバディのアルメリアとトモのまぐろだ」

「はぁい、よろしくねハンターさん」

「ワフッ!」


 もちを撫でていないほうの手でヴィクトルと握手を交わす、とその写真をアルメリアに撮られた。


「握手中も手を離さないあたり流石は愛猫家ハンターさんね」


 撮られても特に問題は無い。ないがこれは一応シナリオ通りに進んでいてこの写真はエンディングロールに使われるのだ。

 たぶんゲームでは締まらない絵面になっているだろう。知らんけど。


「可愛いのが悪い」

「あぁわかるぜ、うちのまぐろもツヤツヤの毛並みが素晴らしいからな」


 毛並みが素晴らしいのになんでまぐろなんだ? 少しは配慮したほうが良いと思う。

 ちなみにこのまぐろという名の犬獣族、公式が付けたんだぜ。


「まぁどっちも可愛いからいいか……ん?」


 アルメリアがボソッとつぶやいたけどなんだろう。すぐに別の乗組員と話をしてるから聞きそこなった。


「あと10分くらいで目的地に着くらしいから、そろそろ降りる準備してほしいって」

「わかった」

「意外と早かったな、このまま何もなく降りられたらいいけどな」


 言うて半月かかってますけど? ヴィクトルの感覚が大雑把すぎる、けどこれは原作通り。あとこれはフラグ回収されて、この後飛行船は何かに影響されて私とオトモダチは知らない大地に振り落とされる。


「GYUELAAAAAAAAA!!!(ドゴーンッ!)」

「レグルスーーーーッ!(ポイー)」


 ほらね。


============================

最後の「ほらね。」はボーボボOVER戦リスペクト。


コメントでこれMH《自主規制》だろ!ってツッコミはNGでお願いします。

二次創作か迷いましたが、オリジナル要素を加えるので別作品として投稿します。

その点ご了承ください。

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