神月くんは噛みつきたい!

阿弥陀乃トンマージ

最後の試練

                 0

「……父上、ただいま参りました」

「来たか、入れ」

「失礼いたします……」

 広いお屋敷の中にある執務室に、少し長めの黒い髪を無造作風にセットした少年が入ってくる。やや緊張した面持ちながら、それが端正なルックスをより際立たせている。少年の目の前には、髪の毛もひげも整った、紳士的な中年男性が立派な椅子に座っている。男性が少年に尋ねる。

「……いくつになった?」

「十六……数えで十七です……」

「ふむ、そうか……」

「……」

「知っての通り、我が『神月家』は普通の一族ではない」

「……はい」

「由緒正しいヴァンパイアの一族だ」

「はい」

「我が一族では、十七歳と言えば、もう立派な大人に数えられる……」

「ええ……」

「一人前のヴァンパイアになる為に、お前に最後の試練を授ける」

「最後の試練……?」

「これを見ろ」

 男性は机のパネルを操作する。すると、壁の側面に大きなモニターが出てくる。そこに映像が表示される。立派な建物とその建物へ向かって歩く若い女の子たちの集団が映し出される。少年が呟く。

「……高校?」

「そうだ」

 男性が頷く。

「……ひょっとして高校に通えと? お言葉ですが、すでに高等教育の範囲は十四歳の時に学習済みです」

「まあ、聞け……」

「はっ……」

「ここは京都にある『仁天堂学園にんてんどうがくえん』だ。創立百年以上の学校で、元々は女子高だったが、近年共学化した。しかし、まだまだ女子生徒の比率は多い……全体の八割ほどが女子。教職員や関係者もほぼ女性だ」

「ふむ……」

「そこでだ、お前にはこの四月からの一年間で、『学園の女性全員の血を吸ってもらう』……」

「……!」

「これが最後の試練だ……出来るか? 我が息子、神月秀麗かみつきしゅうれいよ……」

「……お任せ下さい。神月家の名にかけてすぐに終わらせてみせます……」

 秀麗と呼ばれた少年は赤い瞳を輝かせ、笑顔を浮かべる。白く尖った八重歯がチラリと覗く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る