咒術縁起《とこいえんぎ》
竜翔
第1話 咒術とはハッタリです
―――――この世には咒術士と呼ばれる怪異を討滅する人間がいる
体内にある霊力の
逆に怪異と与する咒術士。咒怪士は咒術士とは相反し怪異と同じく
いわば三竦み。三つの勢力からなる戦いは人々から恐怖が消えない限り終わることはない―――――――――――――――――
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「不知火君。咒術とは何か知っているかね」
師匠に充る男
弟子の
不知火はしばし顎に手を添え思案しその問いに彼は答えた
「怪異を倒す力です。不安や恐怖、負の感情が入り乱れるこの世界に
不可思議から日常を護る術だと思います」
「うーん。マニュアル通りの回答だね。間違ってはいないし正しい
だが僕の意図はそこではない。そもそも答えなんて求めていないからね」
「とすると。この問答の意味は?」
「と言っても禅問答とかじゃないよ。ただ君の回答は咒術士としての在り方だ
僕の問うた言葉は咒術士ではなく『咒術』とは何か。だ」
「何か違いがあるんですか?」
「勿論。でも誤解しないでほしい。君の答えは確かに正しい
それだけは覚えておいてその答えを教えよう」
「咒術とは何か。それはね…」
「・・・・・・・・・・・・」
「ハッタリだよ」
「はい?」
「咒術の本質は怪異と同じなんだ。いかに自身を大きく見せるか
そうすることで小さな力も大きく見え比例して咒術も飛躍的に上昇する
これを霊昇事象と言って巨大な咒術を少ない咒力で活用する
「ですがそれって弱点とかないんですかね?ハッタリで強くなるというのは
何か、脆い気がします」
「イグザクトリー。ハッタリはハッタリ。つまりネタが割れればその咒術は無効化されるデメリットを持つ。ハッタリの本質は相手に自身の間合いを計らせない為も重要だ。だからこそ咒術士にとって一番重要なのはどうやって自分の優位を保つかで
強い心を持つことで怪異と拮抗することが重要とされる
故に咒術などおまけに過ぎない。必要なのは相手を見極める観察力
いかなる咒術にも弱点や伝承、逸話などがありそれを突けば倒すことができる
その為に咒術だけではなく咒具を用いて毒を制すやり方もある」
「それは分かりました。ですが俺はまだ修行の身
咒術はおろかどういった咒式にするかも決まっていません」
「いいや決まっているさ。
後はどうやってそれを引き出し力に変換するかだ」
「…俺の
「僕が知るわけないだろう。でもわかるのは君の
その中で不知火 真司は咒術士としての修行の身
プラスのエネルギー。陽気を駆使する咒術士は日夜訓練と戦いで研鑽を積んでいる
その神髄が虚仮脅しとは不知火はにわかに信じられない
「なら実際に身をもって知るべきだね」
にっこりとそんな不吉なことをこともなげに言い放つ
「
二つの
九つの星が奮いて我は異界の神を呼び起こさん…
焔が蟒蛇を象りうねりを上げる
基となる灰が舞い上がり灰を食らい蛇は育ち
蛇は星さえも飲み込む勢いで立ち上っていく
神崎の周囲に蛇は巻き付いて触れた部分は火傷どころではないはず
だが涼しい顔で少しも苦痛にゆがむこともなく纏う蛇の炎は肌どころか衣服に焦げ跡さえつけていない
まさしく人知を超えた力の体現。体内の陽の気を以って放つ咒術は負の集合体である怪異に特攻性を持つ。それを差し引いても人類の兵器を凌駕した個人の保有する度量を超越した
それに対し神崎はどこからかコップ一杯の水を取り出し蛇に注ぐ。摂氏数千度を誇るであろう焔の大蛇はその水を受けても焼け石に水。逆にその蒸気を以って自身の体躯を燃え上がらせるであろう
だが
しなびた花の様にただれ落ちていくのは炎の蛇の方で
あたかも少量の水で窒息する生物の様に酸素を求めあえいでいるように見える
そして消え付した炎の蛇は最初からなかったかのように痕跡を残さず消失した
「これ、どうやったかわかります?」
「炎は水属性に弱い…五行の水剋火ですかね?」
「ぶっぶー。違います。そんな堅苦しいものではありませーん」
「ではどうして…?」
「正解は…この炎蛇の火力はマッチ一本程度でそれを大きく見せかけただけだからでーす」
「わかるわけないじゃないですかそんな無茶苦茶な手品」
「イメージを膨らませてください?この炎の蛇はマッチ一本程度の火から生まれました。そしてその火を延焼させ大蛇を象った。つまり小さな火から大蛇を生み出すのは不可能ではないというロジックです」
「無茶苦茶ですよ。大体広がった炎は火力を上げますし
山火事に対してバケツ一杯分の水で足りるわけないじゃないですか
文字通り焼け石に水。その理屈はおかしいです」
「その考えと常識を逸したのが咒術であり咒術士です
逆に言えば無茶苦茶な理論でも筋を通せば成立するのが
この摩訶不思議な現象なのです。つまり!相手を騙す奇術こそ咒術!
相手より大きく見せる怪異と同じ方法でだますのが咒術士の本領発揮と言えます」
「それで怪異相手を騙せるんですか…?」
「勿論!人によって生じたモノですから価値観も人と相違ない
故に怪異相手ならば騙すのは容易いです!!ちなみに詠唱ももちろんハッタリに含みます。豪奢に見せることで本質を隠せますからね」
「――それは…怪異以外にも敵がいるってことですか?」
「それは…まあ」
「何今更濁してるんですか。普段人を食ったような態度の人の癖に」
「あたかも人を化け物の様に形容しないでいただきたい…!!これでもあなたのお師匠様なのですよ…!!こほん、それは君もいずれ知ることになるでしょう
ともかく咒術士に必要なのは怪異に対する強い心と観察力。
そして敵に力を悟られない技術。それを身に着けておきませんとね」
「なら…光」
「ん?なんですって?」
「俺は闇を払う光を
全てを白日の下に、影のない純白な光が欲しい…」
「それは…なぜ?」
「勿論、秘密です」
「意趣返しですかまったく。誰に似たんだか…」
―――光の十字剣が不知火の脳裏に浮かんだ気がした。
ただ純粋に裁くための刃。断罪の剣。その光をもって闇を引き裂くために
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