第46話 晩餐会の前
__夜にはミルヴァ様主催の晩餐会が始まる。
そのためにドレスに着替えていた。
「ミュリエル様。とってもお綺麗です」
「ありがとうございます。アニータ」
アニータがドレスの裾を直しながら言う。
ゲオルグ様が贈ってくださったドレスは、光沢感のあり、青藍色に銀糸の刺しゅうが見事で、見たことがないほど綺麗だった。ドレスに合わせたヘッドドレスも青藍色で花の着いたリボンが可愛らしい。
「これだけ綺麗ですから、王太后様も驚きますね」
セレスさんが嬉しそうに言う。
「喜んでもらえると嬉しいです」
「多分大丈夫ですわ。王太后様と仲が良くなったのでは?」
「仲が良くなってますでしょうか? 仕事は進みましたけど……」
「……ご存じないのかしら? 王太后様は、気にいった方にしか、名前を呼ぶ許可を与えないのですよ?」
「名前?」
「ええ、私たちは、許可を頂いてないので、決して呼べませんわ」
「そうなのですか!?」
初日から名前で呼ぶように、と言われていたせいで気づかなかった。フォルシア伯爵邸では、ずっとミルヴァ様と一緒に作業をしていたから、セレスさんたちとゆっくりと話す暇もなくて、余計に気付かなかったのだ。
「それよりも、陛下を待たせるものではないですわ。アニータ。セレス。急ぎましょう。セレスは、私と一緒に晩餐に行くわよ」
「いいのかしら?」
「没落令嬢でも、許可が下りたのだから仕方ないわ」
「はい、はい」
セレスさんが、レスリー様とのやり取りに慣れたように返事をした。
支度を終わらせ廊下に出ると、すでにゲオルグ様がリヒャルト様と待っていた。
「ゲオルグ様。お待たせしました」
「ああ、来てくれたか?」
ゲオルグ様が、目を細めて私を見た。
リヒャルト様が「先に失礼いたします」と言って、セレスさんたちを連れて先に行ってしまった。
「似合っている」
「ありがとうございます。ゲオルグ様のおかげです」
何も持たずにグリューネワルト王国に戻ってきた。お金もすべて補償金に当てて。そんな私に、ゲオルグ様が毎日のようにドレスやアクセサリーと言って、贈ってくれている。
もらいすぎだと断ろうとすれば、ゲオルグ様は妃に贈るのは当然だと言って翌日もドレスを贈ってくれていた。
「本当……ありがとうございます。ゲオルグ様には、なんと感謝を伝えればいいか……」
「そばにいてくれたらいい。見えないかもしれないが、これでもミュリエルを本気で好きになっている」
「私もです」
ゲオルグ様の腕に手を添えれば、一緒に歩き出した。
「ゲオルグ様、戦から帰還されたときのことを覚えてますか? あの時は驚きました」
「あれか……あれは、好きになろうと思っていた。それは、間違いなかっただろう」
「はい。戦での無事も祈っていました……ホークが手紙を持って戻ってくるたびにホッとして……いつの間にか、ルイス様の気持ちが消えていることに気づいたんです」
だから、私の中にあったルイス様のことを本当の意味で終わらせられた。
「そうか……だが、俺の前で他の男の名前を出すものではない」
「ダメですか?」
「禁止にしたい」
「それは無理なような気が……」
そう言って、ゲオルグ様が私の顎に指を添えて上げた。背の高いゲオルグ様が腰を屈めて、そっとキスをされた。
「本当に仲がよろしいのね。ここをどこだと思っているのかしら?」
リヒャルト様たちがいつの間にかまったく見えなくなっているほど、ゲオルグ様に絡めとられていると、ミルヴァ様が私たちの前にいつの間にかいた。
ミルヴァ様にキスシーンを見られて恥ずかしくなる。赤くなった顔を隠すように、思わず、ゲオルグ様に隠れようと少しだけ下がってしまう。
「ミュリエル」
「は、はい!」
「そのドレス。とてもよく似合っているわ」
「本当ですか?」
「ええ、品もよく、竜槍をイメージしたドレスがあなたを引き立てているわ」
竜槍をイメージしたドレス。ミルヴァ様はそう言ったのだ。
ゲオルグ様を見上げると、彼が私を愛おしそうに見ていた。目が合うとゲオルグ様の熱の籠った目線に、ますます赤ら顔になってしまう。
「二人とも早く来なさい。私の晩餐会に贈れるなどあってはなりません」
ミルヴァ様がきっぱりと言う。
「ああ、母上」
「何ですか?」
「言い忘れていたことが」
「何か連絡事項があったかしら?」
「ええ、父上が使っていた陛下用の後宮です」
「忌々しい後宮がなにか?」
「その忌々しい後宮は取り壊すことにします。一部は、騎士団の宿舎に利用されますが……一層のこと庭園を広げようかと思っております」
「庭園を広げる?」
「ええ、雪うさぎでも飼えればどうかと……陛下用の後宮の責任者は王妃であった母上なので、ぜひ許可を頂きたい」
「それはいい提案です。すぐに許可をいたします。雪うさぎは、私の方から送りましょう。それと、スライムの出入りも許可します」
恥ずかしくて赤くなっていた顔が一瞬で引き攣った。
「ミルヴァ様……もしかして、気づいていましたか?」
「当たり前です。毎朝、毎朝庭の雪を食べているスライムがいるのです。それも、ミュリエルに懐いているスライムが邸をウロウロしているのです。あなたのスライムだと、誰でも気づきます」
そう言い放って、ミルヴァ様が扇子片手に食堂へと歩き出してしまった。
「バレてました……」
「前もって許可が降りてよかったな……これで、ルキアも広い場所で遊べるだろう」
「はい」
庭園ができるのが楽しみになってきた。ミルヴァ様の言葉も嬉しくて、自然と顔が綻んだ。そのうえ、ゲオルグ様の気持ちがなによりも嬉しいと思えた。
そうして、私とゲオルグ様のフォルシア伯爵領での滞在が優雅な晩餐会とともに終わった。
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