第19話 デート未満



__数日後。


「ああ、帰ってきたのか」


ミュリエルがくれたフレスベルグのホークが、久しぶりに帰ってきた。


「本当にホークは便利ですよね。賢いし、よく懐いて……」

「そのおかげで、戦が予定よりもずっと早く終わった。ミュリエルの手柄だな」


ホークが密偵もし、連絡係すらできた。フレスベルグのホークが敵陣の報告をするなど、誰も思わなかった。おかげでグリューネワルト国がどれだけ有利に動けたことか。


そして、ミュリエルとの手紙のやり取りもホークを通じて戦中もずっとしていた。


「女官の方も全員解雇しますので、以前と同じような後宮に戻るかと思います。使用人は少しだけ増やしますけど……ただ、レスリー様は下がらせにくいですね。簡単には下がらないかと……」

「まぁ、ミュリエルがアルドウィン国に行っている間に引き下がらせればいい」

「尽力します。ミュリエル様がアルドウィン国に行っている間には、必ず全員後宮から出します」

「それでいい。やっと縁談が減ったのに、おかしな噂はたまったものではない」

「早々に解雇して正解ですよ。縁談ではなく、お手付きになると、噂が立ち始めようとしてましたから……」

「後宮にいるだけで、お手付きになるとは限らないだろう」

「ミュリエル様のことがありますから……帰還後すぐに会いに行ったから、すぐにお手付きになると思われたんですよ」

「言っとくが、ミュリエルにもまだ手は出してない」

「はい?」

「だから、ミュリエルにも手は出してない。そんな時に他の女と噂が立ってみろ。ミュリエルなら、すぐに後宮を去るぞ」

「……手、出してないんですか?」

「どうしようかと思っているだけだ」

「自覚ないんですか?」

「なんのだ?」

「いえ……ミュリエル様がお手付きになってないと、バレるところでしたね」


確かにバレたくない。バレればまた縁談を勧められそうな気がする。今も目の前の机の上には送られてきた釣書が積んであるのだ。


「……うるさい。そろそろミュリエルのところへ行く」

「構いませんが……アルドウィン国にお連れになるのは、アニータだけで? もちろん俺も後で合流しますが……」

「遺物持ちは苦労するものだ。普通とは違う。ましてや、ミュリエルの遺物は人に干渉する。アニータぐらいでちょうどいい。それと、少し調べてもらいたいものがある」

「何でしょうか?」


密かにリヒャルトに話すと、悩みながらもリヒャルトが頷いた。


「わかりました。では、すぐに調べさせます」

「頼むぞ」

「はい。ゲオルグ様はお気を付けて」


リヒャルトを置いて部屋を出れば、ミュリエルの待つ後宮へ行くと彼女がトランクを持って待っていた。


「ミュリエル。待たせたか?」

「そんなことありません。お忙しい中恐れ入ります」

「堅苦しくなくていい。それと、街ではゲオと呼ぶように」

「ゲオ様、ですか?」

「そうしてくれ」

「そうか……では、行こうか。おいで」

「はい」


アルドウィン国へと里帰りする前に、ゲオルグ様が街に連れて行ってくれるという。私が先日一人で街に出て右往左往しているのがおかしかったらしい。それで、一緒に行こうと言ってくれたのだった。正直街に出られるのは嬉しかった。幼い頃からずっと出かけたことがなかったからだ。


ゲオルグ様に連れられて王都の街へと行くと、先日来た時は下を向いて、しかも右も左もわからない状況で不審者そのものだった。だから、街をゆっくりと見る暇もなかった。


そのせいか、目の前に広がる王都の街が新鮮に思えた。


「ゲオルグ様……ではなくて、ゲオ様。大きな街ですね」

「王都だからな……冬になれば、綺麗なものだ」

「そうなのですか?」

「ああ、一緒に過ごせるといいのだが……」

「少しだけ、楽しみです」

「バロウ伯爵家の当主になっても、定期的にアルドウィン国に帰ればいいのだから、気にせずグリューネワルト国にいればいい」

「……そうしたいのですが……」


私を当主に兄上がするのだろうか。だけど、私がいる限り遺物持ちの家からは、兄上が当主となるのは許さない気がする。それほど遺物持ちは特別なのだ。


私が死ぬまで兄上が当主になることは永遠にないのだから。


「ゲオ様は、いつもどこに行かれているのですか?」

「俺が行くのは武器屋だが……今日はミュリエルのドレスを買おう。帰省するのだから、動きやすい服装がいいだろう」

「はい」


そう言って、街の店に行くが高級ドレスに躊躇してしまう。煌びやかなドレスは明らかに夜会用だ。ゲオルグ様が店に来ると、店にいた高齢の女店主が驚いたように気づいた。


「これは陛下。お会いできて光栄です」

「いい。今日は忍びだ」

「そうでございましたか……」


ちらりと私を見る女店主と目が合い、「初めまして、ミュリエル・バロウです」と挨拶をすると、にこりと挨拶を返された。


「今日は彼女にドレスを出してくれるか?」

「はい。すぐにお持ちします」


そう言って、急いで出されたドレスは高級感あふれるものだった。


「ゲオ様……私は、夜会には出ませんので、こんなドレスはちょっと……」

「ということだ。普段着のようなドレスで頼む」

「はい、かしこまりました」


顔見知りなのか、ゲオ様に笑顔で対応する女店主が次から次へとドレスを出してきている。


「お知り合いですか?」

「母上が利用していた店だ。結婚する前から気に入って使っていたらしい」

「まぁ、お母様が?」


どうやら、ゲオルグ様が子供の時からの知り合いらしい。


「ミュリエル様。陛下が女性と来たのは初めてでございますよ」

「……ゲオ様が!?」

「なんだ、その驚きは?」

「だって……驚きます」


縁談が絶えないほどの人気者だ。驚きしかない。


すると、女店主が「こちらはどうでしょう?」と勧めてくる。


「どうだ? ミュリエル」

「とっても素敵です」

「では、こちらにするか」


ドレスほどの広がりはなく、羽織るコートもお揃いで可愛いと思える。冬になれば毛皮とも合うデザインらしい。


「あと何着か適当に後宮に送らせてくれ。今日中に頼む」

「はい。すぐに送らせていただきます」


ゲオルグ様が女店主と軽快にそんな会話をしている間に、色んなドレスが綺麗で思わずジッと目に力を入れて見ていた。


どれも綺麗だ。そう思いながら隣にある鏡に自分が映ると、目が薄くなっていた。


『魔眼』だ。


慌ててフードを羽織り、目が隠れるように両手でフードを下した。


「……ミュリエル? どうした?」

「ゲオ様……すみません。目が……」

「まさか、遺物が?」


ぶんぶんと首を上下に振って応えると、ゲオルグ様が察して「では、失礼する」と言って店から連れ出してくれた。




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