第9話 黒いウェディングドレスの結果
ふと目が覚めれば、部屋は薄暗かった。私のベッドだ。頭を押さえて身体を起こした。
夢だった。そう思いたい。だけど……。
「ミュリエル。起きたか?」
ベッドのそばの椅子に足を組んでゲオルグ様が座っていた。
「ゲオルグ様?」
「大丈夫か? 身体が弱いのか?」
「わかりません……」
「ふむ……ただ倒れただけと思ったが……王宮医師団に一度診察をさせるか?」
「け、けっこうです」
ジッと気まずそうにゲオルグ様を見ると、彼も私を見ている。目が鋭すぎて思わずこちらが目をそらしてしまう。
「どうした?」
「いえ、あの……私を側妃にあげると言われていたので……」
「ルイスのこともあるからな……正妃に急にあげるのはどうかと思ったが……」
それで、側妃という立場にしたらしい。
「そ、それですが、私は去ろうと思っていたので……」
「去る理由はないだろう? それに、どこに行くつもりだ?」
「どこか、人のいないところにでも……」
「それは困るな」
ふむ、と顎に手を添えてゲオルグ様が考えだした。
「……あまりこういうことは言いたくないが、実は困っている」
「お困りですか? 何か私でお力になれるなら何でもしますけど?」
「……実は、陛下になったからと言って、周りから結婚を迫られている。だが、誰でもいいというわけでなくてはな、助けてくれるとありがたい」
いちいちジッとこちらを見据えて話し出すゲオルグ様の迫力に圧倒されそうだけど、真剣に耳を傾けた。
どうやら、陛下となったから、結婚を迫られているらしいが……。
「俺の女になるのは嫌か?」
「私は、形だけの妾ですよ?」
「だが、俺の唯一の妾だ。愛妾にしてもよかったが……まぁ、側妃のほうがいろいろいいだろう」
「形だけですので、妾でも問題ないかと思います」
「気にしないのか? 側妃のほうが多少は立場が上だぞ? 女は特別になりたがるものだろう?」
「そうなのですか?」
何も知らなくて、きょとんと首を傾げた。社交界にデビューもしてない。人との関わりも最低限なもの。世間知らずの私には、それが普通だと知らなかった。
そんな私を見たゲオルグ様がくくっと笑うを堪えるように口元を押さえた。思わず、こちらが恥ずかしくなる。
すると、ゲオルグ様の膝の上にいるルキアが目に入った。
「ルキア?」
「ああ、これはやはりミュリエルの使役しているスライムか……」
「そうですけど……膝の上で眠るなんて、珍しいです」
私以外の人間の膝で無防備に眠るなんて、不思議だった。
「スライムも可愛いものだな」
「ルキアが懐くなんてあまりないのです。臆病な子で……」
「そうなのか? だが、心配していたぞ。ミュリエルを連れて帰ったら、ウロウロと落ち着きがなかったからな」
「まぁ」
思わず、くすりと笑みがこぼれた。ベッドから立ち上がってルキアを抱っこすると、ゲオルグ様が私を引き寄せた。
「やっと笑ったな」
「……あまり、笑うのは得意ではなくて……」
「気にしなくていい。それに、受け入れてくれたのだろう?」
「そ、それはですねっ」
受け入れてはない。そんなつもりの黒いウェディングドレスではない。むしろ、あれが原因で後宮を追い出されてもよかったのだ。でも、予想とは反対になってしまっている。
「あの黒いウェディングドレスのおかげで、周りはミュリエルの印象が強まった。おかげで、少しだけ縁談の申し込みが減りそうだ。感謝する」
どうしよう。そんな意図はなかった。
だけど、ゲオルグ様の安堵したような雰囲気を感じると、私でもゲオルグ様の助けになったのだろうか。
「……役に立ちましたか?」
「もちろんだ」
「それならよかったです。ゲオルグ様のお役には立ちたいと思ってました。何でもしますので、遠慮なく仰ってくださいね」
「では、どこにも行かずにこのままここにいてくれないか?」
「お役に立つのならそうします」
「それは助かる。しばらくは俺の側妃でいて欲しい」
私の腕を掴んで離さないゲオルグ様が言う。これが恩返しになるのなら、断る理由はなかった。
すると、ルキアが『くわぁ』と欠伸をした。
「ルキア。そろそろ一緒に寝ましょうか」
「ああ、眠いのか? では」
そう言って、ゲオルグ様がルキアごと私を抱き上げた。
「ゲオルグ様!?」
「なんだ?」
「な、なぜ、抱き上げますか!?」
「寝るんだろう? 今夜から、俺もここで休むことにする」
「は?」
「側妃を承諾してくれたのだ。別々に休む理由がない。周りには万が一にも不仲とは思われたくない」
「そ、そうですか!」
思わず、力いっぱい返事した。
ということは、一緒に寝るということだ。それは同衾するつもりなのではないだろうか。
今も私をベッドに下してゲオルグ様もベッドに入り込んでいる。
「あ、あの……」
火照った顔で焦っている。腕に抱いているルキアに思わず力が入るとブニッと形が崩れた。
でも、ゲオルグ様が望むなら、私は自分も差し出そうと思っている。
緊張の面持ちで何と言おうか声がくぐもる。
「……伽はして欲しいが……」
「夜伽がお望みならお相手いたしますが……」
「……いいのか?」
「後宮に来た時から、覚悟はあります」
後宮に入るということは、そういうことだ。
「覚悟か……まぁ、いい。今夜は何もしない。一緒に寝てくれるだけでいい」
ゲオルグ様が頬を一撫ですると、ベッドに寝かされた。そうして、緊張のまま彼に背を向けると、ゲオルグ様が後ろから抱き寄せてくる。そうして、彼の腕の中で眠りについた。
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