第1章:歪な牙(クータダンティー)

(1)

 その日の実技演習が始まった、その時から、何かがおかしかった。

 教官と模擬戦をする事になった真佐木まさきみちるは、執拗に急所ばかりを狙っていた。

 目。鼻の穴。喉仏。股間。

 女の生徒の中でも小柄な真佐木が、男としても大柄な教官に勝つには、相手を殺すか後遺症が残るレベルの大怪我を負うような場所を狙うしかない。

 それは判る。

 でも……明らかに、1つ1つの攻撃は……。

 俗に「殺気」と呼ばれるモノが有る。

 だが、俺達は2種類の「殺気」を厳密に区別しなければならない事を、この「学校」で学ばされた。

 1つは……本物の「気」。俺達や俺達が狩るべき相手である「羅刹」と呼ばれる人喰いどもが使う超常の力。あるいはフェイントなどの目的で意識的に放出する、あるいは未熟さや押さえ切れないほどの激しい感情のせいで……漏れ出してしまう「殺意」が乗った「気」。

 もう1つは……理系用語で言う「パターン認識」だ。体の動きやタイミング、視線、表情、息づかい……そう言った様々な情報を、俺達の脳が無意識の内に総合的に判断して出た「こいつは、本当に相手を殺す気で……少なくとも相手が死んでも仕方ないと思って戦っている」という結論。

 その時の真佐木の「殺気」は後者だ。

 パンチや蹴りに「気」を込めていない。

 表情は、むしろ冷静。

 しかし、命中あたれば大事になる攻撃を……やってる本人にとっても「寸止め」が困難なスピード・タイミング・角度で繰り出している。

 教官が真佐木の攻撃を、あるいは避け、あるいは弾いているから、無事で済んでるだけで、もし、真佐木より1〜2ランク技量うでが下の……つまり俺達の学年の大半と、上の学年の奴らの半数以上って事だ……奴らがやられたら、1コンマ数秒後には、死体か身体障碍者の出来上りだ。

「おい、お前、何をやって……」

 確かに教官の方が真佐木より技量うでは上かも知れない。

 でも、一発でも喰らえばヤバい事になる攻撃を次々と繰り出す相手に対しては……。

「やめろ、それ以上やるなら……」

 俺も本気を出さざるを得ない……教官は、そう言うつもりだったのだろう。

 だが、その時、真佐木が着装つけていたフェイスガードが外れた。

「えっ?」

 安全の為、生徒だけが付けていた防具。

 真佐木は、それをわざと外して……教官に投げ付け……。

「いい加減にしろッ‼」

 フェイスガードを弾いた動きが、そのまま、攻撃につながる。

 見惚れるような動きだった……が……。

「……えっ?」

 教官は、自分の身に起きた事を、しばらくの間、理解出来なかったらしい。

 それは俺達も同じだった。

 教官の掌底が真佐木の顔面を打った……そう皆が思った時、教官のてのひらには刃物が刺さっていた。

「お……おい……」

「どこに……隠し持ってたんだ?」

 ガリっ……。

 真佐木が教官の手首をつかんだ、次の瞬間……嫌な音が響いた。

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