第6話
みんな、あんじゅの性格がいいと思って疑わないし、岬も勿論のことだが・・・。
しかし、ほんとうにそうなのだろうか。この世界のひとが、いいひとばっかり。そんなことって、あり得るんだろうか。
疑えばきりがない。
けれど、けれどだ。争いごとのない、競うこともない、賭け事もしない、そんな生き方が誰しもできるとしたなら。
こんな素晴らしい世界は他にはない。不思議だ。しかし、それらの不信感に誰も何も言わないし、この世界のひとを、あんじゅを信用しっぱなしだ。
「誰か、この世界のひとを、好きになったひとはいないの」
と、岬が聞くと
「あれっ、岬は知らなかったの」
と、三人が岬を見た。
「・・・」
「この世界のひとは、女のひとばかりなのよ」
「えっ」
岬は
(やっぱり。やたらと、女のひとが多いと思ったのは、それでなんだ)
「だからあんじゅは、私たちの世界へ行くのよ」
「どうして?」
「私や、みよや、ひとみのような、DVを受けたひとや、シングルマザーで、あの世界が嫌になったひと、男はもうコリゴリなひとを、探しに行くの」
「・・・」
「岬も、この世界まで来るのに、鏡の中を通ったでしょ」
「うん」
「あの鏡は、女性しか通れないの」
「あっ」
「そうなの。女性だけが、私たちの世界とこの世界を通ることが出来るの」
「現実に、あなたも見たでしょ。この世界は女性ばかりだってことを」
「争いごとって、主に男の世界の出来事でしょ。争いごとがないっていうことは、嫌な揉め事もないし、突き詰めれば戦争もなくて、ひとは死なないのよ。それが、いちばんじゃないの」
「そんなことは、勿論分かってるわ。けど、男のひとを好きになりたいとか、子供が欲しいとか、思わないの」
「たまに思うこともあるわ」
幾世は、みよと、ひとみと、岬を見廻した後
「けど、ここには女のひとばかりの世界なので、だんだんとそういう気持ちが無くなってくるのよ」
みよも
「そうなのよ。それでいいの」
ひとみも
「女性を、つまり同性を好きになればいいのよ」
「・・・」
岬は、まだ納得できていない。いくら男性とのあいだに、つらいことがあったとしてもだ。
ひとみが
「女性しかいなければ、そうなるわね」
「と言うことは、ひとみ。いいひとが見つかったってこと?」
「うん」
岬は、まだ理解できない。
そこで幾世が
「つまり、この世界は女性同士の愛が公認なの」
ちょうどその時、あんじゅが帰宅して
「岬の仕事が、決まったわよ」
「あんじゅ、ちょっと待って」
「なに?」
あんじゅは、今までと違う岬の態度と顔つきに、違和感を覚えた。そして幾世らを見たが、岬が
「みんな、聞いたわ」
「それで」
「この世界の、職を探してくれて有難う。けど、私がこの世界に住めるかどうか、しばらく考えたいの。働くのは、それからでいい?」
「それでいいんじゃない。私は、岬が良ければと思って、この世界に連れて来たんだから」
岬は、あんじゅを見て
「うん、それは十分解ってるわ」
あんじゅは
「それじゃあ、みんな部屋に戻って。岬をひとりにしてあげて」
あんじゅを始め、幾世も、みよも、ひとみも、自分の部屋に戻ってしまった。リビングでひとりになってしまった岬は、ソファーに座って目を閉じて、この世界に、あんじゅに連れて来られたまでのことを考えた。
(男のひとは、もうたくさん。と、何度も思った。けれど、それでいいの岬)
と、自分の胸に手を当てて、考えてみた。
(あんなに、結婚願望が強かった私。今がいい機会かもしれない。あんじゅが、この世界に連れて来てくれたのは、私の心の中を読んでくれたんだから)
どれくらいの時間が経ったのだろう。灯りを消したままのリビングは、もうとっくに暗かった。
(そう。私のことを、いちばん理解してくれているのは、あんじゅなのかもしれない)
岬は大声で
「あんじゅ」
と叫ぶと、部屋からあんじゅが顔を出して
「どうしたの」
と。岬は、あんじゅを真っ直ぐに見つめ
「私、この世界で暮らしていくわ」
すると、あんじゅはニコッと微笑んで
「みんな出てきて」
との声に、幾世も、みよも、ひとみも。待ってでもいたかのように部屋から出てきた。
あんじゅが
「みんな、新しい仲間よ」
との言葉に、三人が拍手を。岬は
「よろしくお願いします」
と、深々と頭を下げた。
岬はあんじゅの手を握って
「あんじゅ、心配掛けてごめんなさい」
「大丈夫よ。ここにいるみんな、同じだったんだもの」
岬が幾世らを見廻すと、三人共頷いている。
そこで岬は
「あんじゅ、早速だけど、私は何の仕事をするの」
あんじゅは、フッと息をした後
「岬は、切り替えが早いんだから。最も、そこが岬のいいとこなんだけど。みよと同じ、図書館の学芸員の仕事よ」
岬は、あんじゅに
「この世界での仕事を見つけてくれて、ありがとう」
そして岬は、みよに
「よろしくお願いします」
と。
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