(改訂版)ケンタは勇者になれない~ケンタと雪丸とヒメとムゲン~

るいすきぃ

第1話 ケンタ、家を出る

日曜の朝、ぼくはいっしょうけんめいノートに漢字を書いていた。

2学期が始まって、最初の土日だっていうのに、漢字の宿題がいっぱい出されて、ぼくはうんざりしていた。1学期に勉強した漢字をちゃんとおぼえているか、たしかめるんだって。


まだまだ夏休み気分なのに、やめてほしい。


ちょっとトイレに行ってもどってきたら、妹のりおが、ぼくががんばって書いた宿題の漢字ノートを、クレヨンでぐちゃぐちゃにぬりつぶしていた。


まだ3歳とはいえ、これは許せない!漢字をきれいに書くのに30分もかかったんだぞ!


「りおっ!らくがきしちゃダメって言っただろ!」 


りおの頭をパチンとはたいたら、

「お兄ちゃんがたたいたー!」と言って大きな声で泣きだした。


こいつ、アピールうまいんだよなー…。


さっそくお父さんのお出ましだ。

「こらっ!おまえはお兄ちゃんだろっ!」とどなってから、お父さんは情けない顔になって、

「明日からお母さんが入院するのに、何やってるんだよ…」と言った。


お母さんはりおが生まれてから、体が弱くなって、ときどき病院に入院するんだ。


お母さんは病気なんだからがまんしなきゃってぼくも思っていたんだけど…。だけど今日という今日はがまんできないよ!


「ぼくが悪いんじゃない!りおが悪いんだろ!」

「おまえは何もわかってないな!外に出てなさいっ!」

お父さんは鬼のような顔になって、ぼくの100倍も大きな声でどなった。


わかってないのはお父さんだ。ぼくはずっとがまんしてきたのに。妹にやさしくしようとして、いろんなことに目をつぶってきたのに。ぼくにだって、がまんの限界はあるんだ。


「家出してやる!」


家をとび出したぼくは、庭にいる柴犬の雪丸に

「おい、家出するぞ!」と言った。


雪丸は「おーっ!行こうぜ、行こうぜ!」と言って、ぼくのまわりをグルグル走りまわった。真っ白な体でボールのようにぴょんぴょん跳ねる。


黒猫のヒメは、へいの上で背中をペロペロなめたり、前足をなめて顔をこすったりして、聞いてないふりをしている。


「ヒメ、おまえも来るんだぞ」

「あたし、メイク中。メイクが終わらなきゃ、でかけらんない」

「なんで、見まわりの前にメイクしておかないんだよ」と言うと、ムッとした顔になった。

「見まわりの後、メイクって決めてんの!」


プリプリ怒っているヒメのごきげんを取るために、ぼくは

「ヒメ、おまえいつもどおり、スッゴクきれいだよ。黒い毛並みがツヤツヤして巨峰みたい」と言ってやった。

「ばぁか。巨峰?そんなものにたとえてホメたつもり?」と言いながらも、ヒメはまんざらでもなさそうだ。


「おまえのきれいな毛並みをみんなに見せてやろうよ。ぼくと雪丸といっしょにでかけよう」

「アンタ、家出するつもりなんでしょ。あたし、そんなことにはつきあいたくない。パパに怒られたくないもん」

「大丈夫。お父さんが気づく前に帰ってくるから。ちょっと鬼たいじに行くだけだよ。さっと鬼をたおして、帰ってくればいいじゃん」


すぐ帰っちゃったら家出じゃないな…。だけど、よく考えたら本当に家出するのもちょっと勇気いる。


「鬼なんてどこにいるのよ」とヒメは冷たく言った。


そういわれてみると、鬼なんて本当にいるのかな...。

お父さんの鬼のような顔が頭にうかんできた。

鬼たいじなんてムリかな…。やっぱり宝さがしにしようかな…。


「じゃあ、宝さがしに行こうよ」

「おーっ!行こうぜ、行こうぜーっ!」

雪丸がまたジャンプしてグルグル走りまわった。


「もー、その白いの、おとなしくさせてくれる?目ざわりだから」


ヒメはうんざりしてるみたいだけど、元気なのが雪丸のいいところなんだよな…。とくに、今日みたいに「家出しよう」なんて一大決心をしたとき、雪丸がよろこんでついてきてくれれば、「だいじょうぶかな…」なんて不安はふきとんじゃうんだ。


「宝さがしっていえば、前にねこ集会で聞いたんだけど、八幡神社にはお宝があるんだって」

ヒメが重要な情報をくれた。


「それ本当?」


お宝があるという八幡神社は、うちから30分くらい歩いたところにある神社だ。ぼくがいつも遊ぶ公園をこえて、細い山道を登っていかなくてはいけないので、ちょっとした冒険だ。


八幡神社にはたくさんの木が生えていて、森みたいだ。奥に入っていくと昼間でもうす暗いしひんやりしている。


何かありそうでしょう?宝がかくされていてもおかしくない。


「じゃあ八幡神社に行こう!」


ぼくは雪丸がジャンプできないように、ぐっと押さえつけた。雪丸は押さえつけられても、ゼイゼイ言いながら、「行こうぜ、行こうぜー」と言った。


「宝なら見に行ってもいいかも…。もし宝物がきれいな宝石だったら、あたしにちょうだいね」

ヒメもようやく乗り気になったようだ。

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