5. 時の果て

 都市の際。

 建設途中で放置された建物。地平線の向こうに伸びる通行する者のいない幹線道路とそこに連なる街路灯の寒々しい姿。

 

 高架道路の切れ端、それを支える柱のもとにモリィはいた。

 頭上に目を向けている。


「こんばんは」

「やぁ、こんばんは」


 エリュカはモリィの隣に立った。

 荒涼とした地。このあたりは低木がまばらに集っている。最後の寄る辺のように。


 二人はしばらく話さなかった。

 沈黙のまま、夜の空を眺めた。


「星の光は過去の人々」

「え?」

「人間は星で出来ている。聞いたことある?」

「はい。少し」

「欠片たちが手を取り合い、集まったり離れたり、お互いにやりとりをして、星が出来、生命がそこから生まれ、ついには人間が生まれた。凄いね」

「でも……」

「でも?」

「私たちは……生きることをやめようとしている」

「そうかもしれない」

「全てが一つになれば、何も生まれない」

「そのとおり。でも大丈夫」

「大丈夫?」

「星が生まれたときのことを思い出せばいい。こんなふうに」


 モリィが片腕を軽く上げた。

 夜の凪。

 深い静寂。

 しかし突然、前方に光が生まれた。

 甲高い音。

 火花が、そこかしこで飛び跳ねる。

 草々が影を従え、風に揺れる。

 色めく世界。

 柔らかにたなびく煙。

 火が、そこにはあった。

 …………。


 火花が勢いを弱め、闇夜が舞い戻る。

 暗がりが宿すものは、鼻をくすぐる焦げた匂い。

 存在の証明。

 鼻を巡らし、その痕跡を追っていると、目が、近くの藪で何かが動くのを捉えた。

 暗くてよく見えないけれど、そこに誰かがいると感じられた。

 そこだけではない。

 向こうにも。あちらにも。


 良かった。

 自分は、一人ではなかったのだ。


「世界は、冷えていっている」

「はい」

「最後には、結局のところ、世界まるごとが一つになってしまう。手を取り合う相手がいなくなってしまう」

「……はい」

「それでも、手を取り合おうとした。その意思が、大切だと思わない?」

「はい、はい……」


 エリュカは頬に手をやった。

 涙が、流れていた。

 哀しみからではない。

 喜びでも。


 もう、悩まなくてもいいのだ。


「ここは寒い。もっと暖かいところに行こう」


 モリィはコートを大きく開いた。

 エリュカは闇夜よりも暗いその広がりに包まれた。


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