忍耐ラーニング!
猫寝
第1話 炎のブレス
ラーニング。
それは戦った相手の技を自分の技として身につけることが出来るスキル。
そんなラーニングのスキルを手に入れた一人の冒険者は、今日も自らに磨きをかけるべく、モンスターとの闘いに挑む――――
「あちちちちちちちち!!!!燃える!!全身燃える!!あちちち!!」
身につけた装備ごと炎に包まれた冒険者が地面を転がって何とか自らを包んだ炎を消しているのを、少し離れた後方の手ごろな岩に座っている緑のローブに身を包んだ女がボーっと眺めてる。
「ちょっと!回復!!」
燃えてた男が何とか火は消したが受けたダメージを回復したくて女に催促する。
しかし女はそれを無視する。
「ちょっ……聞いてる!?今見てたよね!?僕燃えてたんだけど!?」
確実に見ているし聞こえているが、無視をする。
「いや、あの、えーと……」
困惑する男に、女はボソっと吐き捨てるように言い放つ。
「回復してください、でしょ?」
「……は?いやいや、僕ら仲間なんだし、そんなの……」
「してくださいお願いします、でしょ?」
「回復してくださいお願いします」
一切表情を変えずに圧をかけてくる女に一瞬で折れる男の心であった。
「ほらよっ」
女の手から凄い速度で何かが飛んできて、男の顔面にぶつかる。
「痛い!なにこれ!?」
それを掴むと、謎の緑色の泥団子のような塊。
「薬草団子だ。水飴と混ぜて固めてあるぞ。食え」
「……なんで?前までは普通に薬草だったのに?」
「投げやすいから」
「……なるほどね!!!!」
投げないでくれ、という言葉を男は、薬草団子と一緒に飲み込んだ。
「いや美味しいんかい」
体力が回復すると同時に味も美味しかったようだ。
「自信作だ」
とても満足げな女。
「っていうか、これ投げた時の速度とコントロール凄かったな」
ついでにもう一つ褒めると、女は少し横を向いて目線を外し、
「……ありがと」
と心なしか頬を染めながらお礼をつぶやいた。
……そこ照れるポイントなんかい、と男は思ったが、せっかくの上機嫌を損ねても困るので何も言わないことにした。
なにせ、まだまだ先は長いのだ。
これから先も回復をし続けて貰わねばならない。
覚悟を決めて男は再び向き合う。
目の前の――――両手で抱えられる程の大きさの鉄で出来た小さな檻に閉じ込められている、炎に包まれたトカゲのようなモンスターに……。
ラーニングが成功したかどうか……その正誤判定は、戦闘が終わった瞬間に行われる。
戦闘中にその技を受けたのち、モンスターを倒してから初めてラーニング出来ているかどうか判断できるのだ。
詳しい仕組みとしては、一度技を受けると1~30%の確立でその技をラーニング出来る。
その確率というのは技によって決まっていて変動することが無く、確率10%だからと言って10回受ければ100%になるというものではない。
あくまでも、毎回10%の確立で成功したかどうかが判断されるだけだ。
それでも、1回受けるだけよりも、何回も受けた方がその10%が当たる確率は上がるわけで、なるべく多くその技を受けたい。
しかし、今回の相手はなかなか遭遇しづらいレアモンスターなうえに、普通ならすぐに逃げてしまう。
となれば――――手段は簡単だ。
出てきたところを檻に閉じ込めて逃げられないようにして、くらうのだ。
ひたすら技を、くらうのだ――――
「あちちちち!!!あっちぃ!!あーもうあっちぃな!!」
男はまた燃えている。
今回のラーニング対象は、火吹きトカゲの「炎のブレス」。
もう50回近くブレスをくらっては回復しているが、何度受けても熱いものは熱い。
「ねぇジャラー、まだやんのー?もうよくない?」
女は気怠い様子で少し大きめの岩の上に、器用に体を縮めて横になっている。
ジャラ、そう呼ばれた男が息切れしながら言い返す。
「いやいやアルメさん……半日探してようやく見つけたんだよ!?」
アルメと呼ばれた女のため息とあくびをよそに、ジャラは熱弁する。
「これ逃したら次どうなるのかわからないんだから、最低100回はくらってラーニング成功の確率を上げないと!!」
ジャラは慎重な性格だったし、同時に面倒臭がりでもあった。
面倒臭がりなのに100回も粘るのは矛盾しているような気もするが、何回もやるよりも絶対に一回で済ませたい、という強い願いからくる行為なのだ。
「つーかさ、あんたの性格とラーニングって相性悪すぎだよね……レベルどんなに上げても技覚えたりしないから、強くなりたかったら強い技持ってる敵探して技くらいまくるしか選択しないんだもんね……」
「いや、逆に考えるんだアルメさん。レベル上げなくても強い技さえ覚えればいいんだから、これはこれで向いてるんだよ。低レベルでも強くなれるんだよ」
「……その為には、回復してくれる存在が必要だよね?私みたいにさ」
「……そう、ですね」
「感謝が必要だよね?」
「……はい、そうです……ありがとうございます」
アルメの職業は薬師、そこらの雑草からでも薬草を作り出せるスキルによって、延々とダメージを受けては回復するというこの作業にうってつけの存在である。
「私、新しいブーツが欲しいんだよねー」
「この前プレゼントしたじゃん!?」
「アレは冒険用の装備でしょ。日常履きのオシャレなやつが欲しいのよ」
「……えーと……感謝のプレゼントは1季節に一つにして頂けると……」
「あと20日くらいで次の季節だけど?」
「……じゃあ、その時に」
「よしっ、じゃあ頑張れ」
契約が成立したので、意気揚々と薬草団子を投げるアルメ。
「痛い!なんで絶対に顔面に当たるの!?コントロールが良すぎる!」
「……それほどでも、ないわよ」
隠しきれないほどにニヤニヤしておられる。
「やっぱりそこ嬉しいんだ!?」
さすがに我慢できずにツッコミを入れてしまったジャラだが、それも意に返さないくらいニヤニヤしている。なぜそんなに肩を褒められたいのか。
「ともかく、やるぞ目指せ100回!」
昼から始めて、もう日も沈みかけた頃、ようやくそれは訪れた。
「よーし100回!!達成!」
「おめでとー、とりゃっ」
「痛い!また顔面に団子!!これダメージ3くらいありそうなんだけど、これで死んだらどうするの?回復薬が当たって死んだらどうするの!?」
「笑う」
「笑うんかい!!」
「だって、ほぼ全裸で団子が当たって死ぬやつ笑うでしょそんなん」
そう、炎のブレスを受け続けた結果、当然のように装備は全て燃え尽きた。
装備とは言っても布の服と皮のズボンという簡素なものだったので、燃え尽きるのは自然過ぎる結末なのだ。
今ジャラは、全裸にベルト、そこに剣、というかなり変態度の高い格好となっている。ベルトが炎に強い素材だったのが、幸いなのか不幸なのか。
そんな状況ではあるが、いよいよ最後の作業に入る。
「ではいざ、介錯!!」
檻に閉じ込められて、ひたすら炎を吐き続けた気の毒なモンスターを倒して戦闘を終わらせるのが最後の作業だ。
腰の剣を手に持ち、檻に近づく。
「剣と股間をぶらぶらさせて近づいてらぁ。二刀流か?」
「女の子がやめなさいそういうの!」
ケラケラ笑うアルメをジャラはたしなめるが全く効果は無く、二人の関係性や力関係が透けて見えるようだ。
「あーもう、とにかくやるぞ!」
近づくと、もう疲れ果てていた様子の火吹きトカゲが最後の力を振り絞って威嚇してくる。
檻の隙間から剣を突き刺すが、なにせジャラのレベルが低く力も弱いので一撃では倒せずに、101発目のブレスをくらう。
「あちちち!そして痛い!早いよ団子投げが!」
「注文が多いな。せっかくすぐ投げてやったのに」
まだ燃えてる所に投げられた団子は肌がむき出しの背中にクリーンヒットしました。
「ちょっ、団子が焼き団子になったのだけど……?」
「美味いかもしれんよ」
「いやいや、そんなことあるわけ……美味い!!」
「マジか」
「なんなら回復力も上がった気がする」
「へぇー。薬師の私でも知らない効果だ。じゃあ、炎のブレス覚えたら次からは団子焼こうよ」
「いいねいいねぇ!」
さらに何度か焼かれつつも、炎のブレスを使いこなす日々を夢想してウキウキで何度か剣を突きさすと、ひときわ大きな声を上げて火吹きトカゲは仰向けに倒れて姿を消した。
モンスターは倒れると消滅し、ドロップアイテムやお金が残される。
それによって明確な「戦闘終了」の合図となるのだ。
「さあ……いよいよラーニング出来ているかの判定だ……!!」
戦闘終了すると判定タイム。
成功していると、頭上にクラッカーが出てきて良い音が鳴る、という謎の正誤判定が行われる。なぜそんな方法なのかは誰も知らない。神のみぞ知る、というやつだ。
息をのんで自分の頭上を見守るジャラ。
全裸で上目遣いをしてじっと待っている光景はなかなか異様ではあるが、それでも緊張感が漂う。
100回以上くらったことで多少判定が出るまでにタイムラグが生まれているのが、余計に緊張を高めていく。
息をのみ、その時を待っていると―――――
「出た!!」
頭の上に大きなクラッカーが浮かび上がり、景気よく破裂音を辺りに響かせる!!
「よっしゃ!!炎のブレスラーニング成功!!!」
「いや、そりゃ成功するでしょあんだけやったら」
大きく拳を天に突き上げて喜びを全身で表現するジャラに対して冷めた様子のアルメだが、ため息を吐きつつもどこか安心した表情で少し笑顔も浮かべていた。
「じゃあ、さっそく焼いてみてよ薬草団子」
「いいぞ!試し撃ち試し撃ち!!」
さっそく覚えた技を使いたくて仕方ないウキウキのジャラに、アルメが薬草団子を、今までとは違い山なりに軽く投げる。
これは、空中にブレスを決めて団子を焼けということだな!?とすぐに気づいたジャラは、意気揚々と技を繰り出す!!
「いけ!炎のブレス!!」
―――――――一瞬の沈黙。
そして、何も起こらないまま、投げられた団子はジャラの顔面に落下した。
「いたっ!これもコントロールいいんかい!!ってか、炎のブレス出ないじゃん!!」
二つを同時にツッコむ忙しいジャラ。
「なんでだ……?ちょ、ちょっと!スキルシート取って!!」
「取ってください、だろ?」
「このやりとり面倒くせぇ!!取ってくださいお願いします!」
お願いしたので素直に投げてくれるアルメ。当然顔面には直撃するが、今はどうでもいい。
投げられたのは、巻き物のような形の「スキルシート」という魔法の紙だ。
この巻き物を開くと、開いた人間の所持しているスキルとその説明が文字と簡単なイラストで浮かび上がる。
いうなればスキルの説明書にもなる重要アイテムだ。
どの職業でも重宝するが、ラーニングはモンスターのスキル故に正確な情報が分からない事も多いので、ラーニング持ちにとっては必須アイテムだ。
慌てて開いてみると、そこには確かに「炎のブレス」が表示されているし、説明も「口から炎のブレスが出る」という程度の簡素なものだがしっかり書かれている。
「あるよな……なんで使えなかったんだ?」
ジャラが首を捻っていると、横から覗き込んだアルメから衝撃の事実が告げられた。
「これ、MP消費が35って書いてあるよ」
「はっ!?」
よく見ると、確かに書いてあることを確認するジャラ。
「……あんた、最大MPいくつだっけ?」
「……今……28……」
気まずい沈黙が流れる。
そこでアルメがふと思い出し、急に顔がにやける。
「あんた、さっきなんて言ってたっけ?」
「え?な、なにが?」
「低レベルでも強くなれるんだよ!とか、言ってたよねぇ?」
「……そ、そうでしたっけ?」
「でも―――結局レベル上げないと駄目だね!!うぷぷぷぷぷぷ!!!」
全力でバカにしたような笑いを浮かべるアルメに対して、何も言い返せず顔を真っ赤にするジャラ。
その後もしばらく「やーいやーい、低レベルー」などと煽られ続け、
「あーーーもーーう!!ちっくしょーーーーーう!!」
と、耳まで真っかになりながら叫んだそれは、今にも炎を吐き出しそうだったとかなんとか……結局、出なかったんだけども。
それからしばらくして、レベルを上げて初めての炎のブレスで作った焼き薬草団子は、見事に黒焦げだったという事も……一応、記しておくとしよう――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます