4話 交渉成立

 会議を終えた2日後、そう月曜日である。私は今日早起きをして、バスケ部の朝練を終えたもっくんに直談判するべく、学校に来た。

 意を決して、教室のドアを開けた。自席に向かおうと思った瞬間、もっくんは真央ちゃんの席にいた。教室には、私ともっくんの2人きり。チャンスだ。今のうちに、話を…。

 目を疑った。

「まおぉぉぉぉぉ」

 なんと、そこでは、もっくんが真央ちゃんの席で大号泣してるではありませんか。普段の逞しさはどこに行った。てか、何で泣いてんだ。

 とりあえず、自席に向かい、荷物を置いた瞬間、もっくんはこちらに目を向けた。な、なんだよ。

 もっくんは真央ちゃんの椅子を引きずりながら、こちらに近づいてきて、それに座った。

「よお、早いな」

「ど、どうも」

「今日、真央休みなんだよ」

「そうなんだ。なんで?」

「体調不良だってさ。昨日から風邪気味だったらしい」

「そっか。心配だね」

 心配だが泣くほどじゃなかろうに。てっきり、事故にでもあったのかと嫌な考えが過ったじゃないか。

「そういえば」

 もっくんは顔面についた鼻水と涙を拭きながら言った。

「俺、今回お前に勝てそうだわ。英語のテスト」

「何!?」

「真央から最近英語教えてもらってんだよね」

 ほらな!言った通りだよ!私も、南に教えてもらった方がいいかな。断られそうだけど。

 もっくんはさらに話を続けた。

「真央そろそろ誕生日でプレゼント迷ってんだけど、本人なんか欲しいもの言ってたか?」

「うーん。どうだったけ」

「何かないか、もしよかったら、さりげなく聞いてみてくれないか」

 もっくんは顔の前に両手を合わせて、切実に頼み込んだ。あれ、これチャンスでは?私は、昨日の夜にした予行練習を思い出しながら、口を開いた。

「いいよ。だけど、その代わり頼みがある」

「何だ?」

 もっくんは何でもやると言わんばかりのがっつきようだ。

「クラス全員の人間関係のいざこざとか事件、あと男子全員に恋人がいるか、いないか教えてほしい」

「わかった」

 あれ、意外とすんなり了承を得たな。もっと詮索されたり、嫌がられるかと思ったけど。

「ありがとう、どうか内密に」

「おう。あ、できれば、詳細な情報を求む」

「そっちもな」

 私達はほっとした表情を浮かべた。お互い、肩の荷が降りたとでも言うのだろうか。

「ところで、ゴシップネタでも書くのか」

「え?」

「いや、俺は別にいいけど。ただ情報提供者として実名が載るのはちょっと嫌だし、できればイニシャルで頼みたい」

「ちょっと待て!」

 完全に誤解だ。週刊誌の記者じゃないぞ、私は。

「何だ」

「ゴシップネタは書かない。それだけは言っておく」

「そうか。まあ、お前の言動的に悪意はなさそうだし、俺と真央にさえ実害が被らなければ好きにしていいと思ってるからな」

「は、はあ」

 これって、納得したってことでいいのか?てか、私が何でゴシップ書きそうに見えたんだよ。まあいいや。事は進んだし。頼んだぞ、もっくん!



「あいつかな、真央って」

「そうじゃない」

「朝からイチャイチャしやがって」

 私は作戦が捗ったことで、浮かれていた。しかし、このあとそれを阻むような存在が現れるとは、このとき思いもしていなかった。

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